DH-710Sの写真
DENON  DH-710S
TAPE DECK ¥380,000

1974年にデンオン(現デノン)が発売したオープンリールデッキ。デンオンは,アナログプレーヤー,
カートリッジ,アンプなどの分野で高い技術を持ち,放送局用などの業務用の分野にも強さを見せて
いたオーディオブランドでしたが,テープデッキの分野でも,オープンリールデッキの時代から優れた
製品を出していました。このDH-710Sはその中でも最上級機にあたる1台でした。

DH-710Sのセパレートした写真

DH-710Sは,いわゆる2トラ38機で,テープの容量を十分に生かしたマスターレコーダーに匹敵
する高性能デッキでした。その筐体もテープトランスポート部と録音再生アンプ部が別筐体で独立し
たもので,堂々たる重量級のテープデッキでした。

走行系は,2つのキャプスタンの間にヘッドを配置したデュアルキャプスタン方式が採用され,さらに,
メインキャプスタンはモーターと直結されたダイレクトドライブ方式とされ,このモーター軸とサブキャプ
スタンを,特殊な非弾性ベルトで結合した構造がとられた「ダイレクトドライブ・2キャプスタン方式」が
採用されていました。

DH-710Sの駆動部キャプスタンモーター

キャプスタンモーターは,回転の滑らかなアウターローター型で,さらに振動を極小にするために
新開発の磁性材料を用いていました。そして,キャプスタンモーターの軸に付いたフライホイール
外周に正確に磁気記録されたパルスを検出してモーターの回転を制御する磁気記録検出方式
によるサーボが搭載されていました。このサーボ方式は,同社のダイレクトドライブターンテーブル
DP-3000等にも搭載されていた信頼性の高いものでした。

ヘッドタッチに必要なテープのテンションは,テンションサーボで制御された最適のバックテンション
が確保されるようになっていました。そのテンションサーボには,当時,一部のプロ用機にしか用い
られていなかった「電子式テンションサーボ」が採用されていました。この「電子式テンションサーボ」
は,リールモーターに流れる交流電流を制御して,録音・再生,早送り,巻き戻し中,リールサイズ
やテープの巻き径無関係にテープテンションを最適に保つことができるもので,テープやヘッドの保
護,テープ走行の安定などに優れた特性を示し,リールサイズ切替スイッチも不要となっていました。
左右のテンションアーム間のテープ走行は,録音・再生時以外,直線になるように設計され,早送り
巻き戻し時にテープ磁性面を傷める原因となりがちなテープシフターも不要となっていました。さらに
ヘッド以外でテープと接触する部分は,新設計の特殊ガイドローラーが使用され,左右のテンション
アームには,ワンウェイ・エアダンパーが用いられるなど,テープに負担がかからない設計となって
いました。

ヘッドには,録音ヘッド,再生ヘッド,消去ヘッドとも,性能,耐久性両面で優れた特性を持つ放送局
用の高密度フェライトヘッドが搭載されていました。特に,再生ヘッドは,テープの接触面を特殊な形
状に仕上げ,周波数特性の低域でのあばれ(コンター効果)を抑えていました。

DH-710Sの内部

録音アンプは,終段をP-P回路として,録音アンプ最大許容出力レベルをプロ用機と同じく,規準レベ
ルに対して30dB以上と,充分余裕を持った録音アンプとしていました。
マイクアンプは,規準録音レベルに対してHIGH,LOWともに55dBが確保され,マイクアンプ部での
飽和はほとんど起きない設計となっていました。また,HIGH,LOWのマイク入力感度切換スイッチを
使い分けることでS/Nがよくダイナミックレンジの広い録音が可能となっていました。
また,テープに合わせて録音バイアス量,録音イコライザー特性を連続可変調整できるようになって
いました。バイアス周波数は,FM録音等の際のビートを防ぐために200kHzと高い周波数に設定さ
れていました。

DH-710の写真
DENON DH-710
TAPE DECK ¥348,000

セパレートタイプのDH-710Sの他に一体型,木製キャビネットのDH-710も同時に発売されていま
した。性能等は同一ですが,落ち着いた外観がまた違った魅力を持っていたと思います。

以上のように,DH-710S/DH-710は,プロ用機に匹敵するしっかりした中身を持ったオープンリー
ルデッキ,優れた性能と安定性は,マスターレコーダーとしても使える信頼性の高いものでした。2トラ
ック・38cm/sならではの,余裕ある録音性能と音,プロ用機を思わせる精悍なスタイルは魅力溢れ
るものでした。1976年には,ヘッド部をセンダスト化するなど,各部を改良・強化したモデルDH-710F
(¥439,000)が発売されました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



DH-710 DH-710Sは,放送局やスタ
ジオのプロ用機器で高い評価を得ている
DENONがマニアの皆様の要望に応えて
開発した本格的な38/2トラ高性能ステレオ
テープデッキです。


◎プロ用機器の技術が生きている
 高信頼性メカニズム

 ●新しいダイレクトドライブ・2キャプスタン方式
 ●電子式テンションサーボを採用
 ●変調雑音の少ない,クリヤーな音質
 ●テープの安全性を高めた合理的な直線走行系
 ●放送機用の高密度フェライトヘッドを使用

◎高品質設計の録音再生アンプ
  ●バイアス値と録音イコライザー特性を最適値に
   設定できます
  ●ダイナミック・レンジが広く,規準録音レベルに
   対して余裕のある録音アンプ
  ●マイク感度切換スイッチ
  ●規準再生レベルのチェックに便利な再生ボリウム




●DH-710/DH-710S仕様●

形式
3モーター・2スピード・ステレオ・テープデッキ
使用半導体
メカニズム部:トランジスタ38個,ダイオード66個
アンプ部:トランジスタ29個,ダイオード29個,IC2個
使用モータ
キャプスタン用:6極アウトロータ形ACサーボモータ
リール用:ACサーボモータ2個
駆動方式
キャプスタン部:ACサーボ・ダイレクト・ドライブ・キャプスタンと
         サブキャプスタンによる2キャプスタン駆動
リール部:ACサーボモータによるテープ・テンション・サーボ駆動
トラック形式とヘッド
2トラック2チャンネル(録音・再生・消去)
  録音ヘッド(高密度フェライト)
  再生ヘッド(高密度フェライト)
  消去ヘッド(高密度フェライト)
4トラック2チャンネル(再生)
  再生ヘッド(高密度フェライト)
テープ・エンド検出
フォト・センサー方式
テープ・スピード
38cm/s・19cm/s
スピード偏差
±0.5%以内
テープ・スピード変動
0.2%以下
(10・7・5号各リールの巻始め,巻終わりにおけるテープスピードの差)
テープテンションの変化
録音・再生時:20g以内
早送り・巻戻し時:40g以内
(巻取側・供給側とも,10号リール最外周より
 5号リール再内周まで巻径の変化に対して)
早巻き時間
10号リール,740mテープにて,2分以内
使用リール径
最大10号(26形)
録音バイアス
約200kHz(バイアスは+60%〜−40%微調整可能)
録音再生補償特性
NAB規格(使用テープにより録音補償の調整可能)
総合S/N
(38cm/s・19cm/s)
最大録音レベル(514pWb/mm)に対して66dB以上
規準録音レベル(200pWb/mm)に対して58dB以上
総合高調波歪率
1kHz規準レベルにおいて1%以内
周波数特性
38cm/s:30Hz〜22kHz ±2dB
19cm/s:30Hz〜18kHz ±2dB
チャンネル・セパレーション
55dB以上(2トラック,1kHz時)
ワウ・フラッタ
38cm/s:0.02% wrms以下
19cm/s:0.025% wrms以下
立上がり特性
38cm/s:0.9秒以内
19cm/s:0.4秒以内
(起動時よりワウ・フラッタが規格値内に入るまでの時間)
入力
マイク:50kΩ不平衡 LOW:−72dB
              HIGH:−60dB
ライン:100kΩ不平衡 −20dB(77.5mV)
          但し 0dB:0.775Vrms
出力
ライン:出力インピーダンス 100Ω以下
    適合負荷インピーダンス 600Ω以上
    規準出力 0dBm(0VU)
ヘッドホン:適合負荷インピーダンス 8Ω
電源
AC100V・50/60Hz
消費電力
120W
外形寸法
DH-710S
 メカニズム部:505W×420H×295Dmm
 アンプ部   :490W×180H×315Dmm
DH-710
          450W×550H×255Dmm
重量
DH-710S:メカ部27kg/アンプ部8.5kg
DH-710 :28kg


※本ページに掲載したDH-710S,DH-710の写真,仕様表等は
 1974年6月の DENONのカタログより抜粋したもので,デノン株
 式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
 転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
 
   
 
★メニューにもどる         
 
 

★テープデッキPART5にもどる
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp

inserted by FC2 system