1990年に,スタックスが発売したモノラルパワーアンプ。スタックスは現在「イヤースピーカー」と称されるコンデン
サー型ヘッドホンで有名なブランドですが,コンデンサー型スピーカーにもすぐれた製品を送り出していきました。
コンデンサー型スピーカーは,通常のダイナミック型スピーカーにはない音の魅力を持つ反面,ドライブするアンプ
に駆動力が必要で,アンプを選ぶ傾向があります。そのため,こうしたコンデンサー型スピーカーをしっかり駆動で
きるアンプを作り続けていきました。X2の型番からも分かるように,1987年発売の超弩級パワーアンプDMA-X1
に次ぐ大型のモノラルパワーアンプとして発売されたのがDMA-X2でした。
入力部からドライバー段にかけては,インピーダンス変化に対応する必要性が低いため,対アース増幅とクラスA
増幅,差動入力によるバランス増幅という,スタックスとしては標準的かつ理想的な回路が採用されていました。
差動入力回路には,ローノイズ・デュアルFETが採用され,オーソドックスにNFBがかけられ,広帯域かつフラット
な特性が確保されていました。
出力段は,信号レベルに応じて電源電圧を変化させるNON-NFBのダイナミック・プッシュプル電源により駆動され
る,A級アンプの音質とAB級アンプの低消費電力を併せもったAクラスアンプが採用され,出力段全体もNON-NFB
回路として構成されていました。出力素子は,DMA-X1がMOS FETであったのに対してバイポーラ型の5パラレル
プッシュプル構成となっていました。この出力ユニット2組が出力端子でBTL接続された完全バランス構成の出力段
となっており,強力な電源部とあいまって600W/8Ωという大出力が確保されていました。
電源部は,1,500VAの巨大なカットコアトランスと33,000μF×4,68,000μF×4,総容量404,000μFの
大容量ケミコンが搭載されており,ノイズがきわめて少なくリカバリーの早いショットキーバリアダイオードによる整流
回路が採用されていました。
パワートランジスターおよび電圧制御用のトランジスターは,両サイドに配置された大型のヒートシンクに取り付けられ
ており,4個の低騒音ファンによる強制空冷方式が採用されていました。このクーリングファンは,フランス・エトリ社製
のもので,スタックスによると,世界で最も静かなものと称されるものでした。ファンの回転速度は,半導体温度センサー
の検出温度により,OFF/Lo/Hiの3段階に自動的に切り換えられるようになっていました。実際,DMA-X2は,Aク
ラス無帰還動作であり,無信号時にも390Wの消費電力という事実が示すように,ヒーターになるのではないかという
ほどの放熱がありました。
入力端子は,キャノンタイプのバランス入力端子とRCAピンのアンバランス入力端子が装備され,アンバランスの入力
端子はDC入力端子に加えて,プリアンプ等の出力が不安定でDC洩れがある場合に対応したアンバランスAC端子が
装備されていました。また,30dB/35dBのアンプのゲイン切換スイッチが背面に設けられていました。
以上のように,DMA-X2は,スタックスとしてDMA-X1に次ぐ大型パワーアンプとして完成度が高められていました。
DMA-X1では,「ヒーターかエアコンのようだ」といわれた筐体デザインは,より一般的な四角いものとなり,小型化さ
れたとはいえ,なお大型のパワーアンプとして同社のコンデンサー型スピーカーをも駆動できる強力なアンプとなって
いました。独特の静寂感や清潔感のある音はスタックスの個性を感じさせるものでした。
そこに音楽が存在するか,しないか。
その微妙な違いは,パワーアンプにも
責任の一端があった。
パワーアンプに課せられた命題は今さらいうまでもない。
入力された電気信号を”名にも付け加えずに,何も失わずに”拡大する。
これだけである。
ところが”これだけ”が実に難しい。
なぜか。
●規格●
形式 | モノラル・パワー・アンプリファイアー |
回路方式 | 完全バランス入力,バランス出力 ○電圧増幅段:コンプリメンタリーFET差動入力全段対アース増幅 ○電力増幅段:NON-NFBダイナミック電源クラスA増幅 |
最大出力 | 600W/8Ω |
周波数特性 | 0.8Hz〜220kHz(10W出力時):DC入力 15Hz〜220kHz(10W出力時):AC入力 |
高調波歪率 | 0.1%以下(20Hz〜20kHz,0.03W〜600W/8Ω) |
S/N比 | 116dB以上(IHF-A Net work使用) |
残留ノイズ | 100μV以下(IHF-A Net work使用) |
入力レベル | Lo:2V,Hi:1V |
入力インピーダンス | Balance:64kΩ,RCA:32kΩ |
増幅度 | Lo:30dB,Hi:36dB |
負荷インピーダンス | 2Ω以上(音楽再生時) 6Ω以上(テスト信号入力時) |
ダンピングファクター | 100以上(10Hz〜20kHz) |
出力電圧ドリフト | ±10mV以下 |
スピーカー保護動作電圧 | ±4V(DC) |
消費電力 | 390W(無信号時) |
寸法 | 430W×227H×546Dmm |
重量 | 47kg |
その他 | 入力ON/OFFスイッチ 感度(Hi/Lo)切換スイッチ BALANCE/RCA入力切換スイッチ SUBSONIC CUT(AC)入力付き |
※本ページに掲載したDMA-X2の写真,仕様表等は1990年の
STAXのカタログより抜粋したもので,有限会社スタックスに著
作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用
等をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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