DENON
DP-5000
DIRECT DRIVE SERVO-TURNTABLE ¥68,000
1971年にデンオン(現デノン)が発売したターンテーブルユニット。民生用としてデンオン
初のDD(ダイレクトドライブ)方式のターンテーブルで,テクニクスのSP-10とはまた違った
個性を持つ1台でした。
デンオンは,放送局用プレーヤーDN-302Fによってダイレクトドライブ方式を実現し,優れ
た性能で高い評価を得ていましたが,その技術を生かした民生用機の1号機として開発され
たのがこのDP-5000でした。
DP-5000から始まったデンオンの民生用ダイレクトドライブ・プレーヤーは,「D.D.S.(ダイレ
クトドライブ・サーボターンテーブル」と称されていました。トルクの大きなDCサーボモーターと
重量級ターンテーブルの組み合わせによって安定した回転を得ようとしたテクニクス
SP-10
に対して,トルクは小さいながら滑らかな回転を持つACサーボモーターと軽量なターンテーブ
ルを組み合わせた設計で安定した回転を確保していました。
DP-5000に搭載されたACモーターは,回転磁 界の非常に滑らかなソリッドローター形2相ト
ルクモーターで,その駆動には専用アンプを使用し,ランブルが非常に低く抑えられていまし
た。
回転数の制御には,DN-302Fにも搭載されたプロ用規格と同一の回路が採用され,高い信
頼性を確保していました。スピード検出用ヘッドでターンテーブル内側に記録されているパルス
を検出し,そのパルス信号を増幅して,リミッタ回路を通し,復調回路によって,スピードの変化
を電圧の変化に変換。この電圧とあらかじめ規定のスピードになるようにセットされた基準電圧
とを比較し,その差の電圧でモーターの駆動電圧信号をコントロールしてサーボを行うようにな
っていました。したがって,スピード切換は基準電圧を切り換えることによって簡単に行うことが
できるようになっていました。また,回路及び素子は安定度がきわめて高いものが使用され,
温
度変化や経時変化,負荷変動に対しても安定した信頼度の高い特性が確保されていました。
ターンテーブルのリム内側に抗磁力の大きな材料で磁気コーティングを施し,一定波長のパル
スを高い精度で高密度記録し,これを約1/10mmの間隔で取り付けられた検出用磁気ヘッド
で検出する方式でした。この方式では,記録パルスの波長誤差はわずか0.01%以下に抑えら
れ,また,ターンテーブル全周に2000カ所のパルスを記録してあるため,33・1/3rpmのスピ
ード時において,検出するパルスの周波数は,他の方式に比べ10倍以上の約11000Hzが
得られ,周波数−電圧変換回路の積分回路の特定数を大幅に小さくすることが可能となって
いました。このため,サーボ・ループの位相遅れを高い周波数領域において小さくすることが
でき,ループゲインを高めてもきわめて安定したサーボをかけることができるようになっていま
した。
サーボ回路の応答性を速くし,ループゲインを大きくとることによりフラッタの領域までもサーボ
が可能となり,ターンテーブル重量1.1kg,慣性質量160kg・cm2の軽量化が可能となって
いました。このため,起動時間もトルクの小さなACモーターながら,1/3回転という,ほぼ放送
局用機なみの起動を実現していました。また,ターンテーブルの軽量化は軸受けの負担を軽くし
耐久性を高めることともなりました。
ターンテーブルの周囲のフレーム部には,電源,スピード切換,ストロボ窓のほか速度微調整
ボタンも装備され,バリアブルの状態で±6%の速度調整が可能となっていました。
DP-5000の,ターンテーブルの周囲にフレームを設け,そのフレーム上にすべての操作系を
集中させた当時としては非常にユニークなデザインは,アームの取付,プレーヤーキャビネット
に自由度が大きいなどのメリットを持ち,「めだ まやき」の愛称で親しまれました。そして,このデ
ザインがその後長くデンオンのアナログプレーヤーに採用されていくこととなりました。
DP-5000を,幅530mmの専用キャビネットに収めたターンテーブルシステムとしてDP-5500
も同時に発売され,滑らかな音を持つ優れた性能は高い評価を得ました。
このように,DP-5000は,DD方式の原器・テクニクスのSP-10とは対照的な設計で優れた性
能を実現し,その後DP-5000Fへと改良されるなど,ロングセラーモデルとなりました。アナログ
プレーヤーの分野におけるデンオンの実力,人気を決定づけたともいえる名機の一つであったと
いえるでしょう。