KENWOOD DP-8010
COMPACT DISC PLAYER ¥79,800
1988年に,ケンウッドが発売したCDプレーヤー。ロングセラーモデルであった
DP-1100シリーズの最終完
成形DP-1100SGの内容を受け継ぎ,さらに改良を加えられながら,価格も抑えられたコストパフォーマンス
の高い1台となっていました。
D/Aコンバーター部には,新たに8倍オーバーサンプリング(サンプリング周波数352.8kHz)の18ビットデジ
タルフィルターが組み合わされた,L・R独立のデュアルD/Aコンバーターが搭載されていました。8倍オーバー
サンプリングにより,音楽帯域とサンプリング周波数がはるかに離れ,DP-1100SGと比較しても,さらに特性
の緩やかなローパスフィルターが使用可能となり,位相特性,歪特性の改善が図られていました。
D/Aコンバーターには,従来の16ビットのものの4倍の分解能をもつ18ビットにリニア・デュアルD/Aコンバー
ターが採用され,帯域の量子化ノイズが大幅に低減されていました。このD/Aコンバーターは,DP-1100SG
同様に,誤差による影響を受けやすい最大のビット(MSB)とその半分の大きさにあたるビット(2SB)の歪み
補正を行い,全体の直線性を高めた「リアルステップ・フルビットD/Aコンバーター」が採用されており,より高精
度なD/A変換が実現されていました。
さらに,高精度なD/A変換のために,新たに「DPAC(デジタルパルス・アクシスコントロール)」が開発され,搭
載されていました。これは,デジタル信号を読み取る時間精度をより高めようとする技術で,D/Aコンバーター
の動作時の時間精度を決めるマスタークロックからの正確なクロックの精度の低下を抑えるために,これまで
デジタルフィルター部で使われていた水晶発振器をD/Aコンバーター直前で使い,デジタルフィルターの演算速
度まで含めて時間調整を行う方式でした。通常のD/Aコンバーターでは,マスタークロックからの正確なクロック
(水晶発振器からの発振周波数)も,プリント基板内での引き回し,デジタルフィルター内での複雑な演算,プリン
トパターンの浮遊量,アース電流,電源変動,デジタルフィルターの計算時間のふらつき等,様々な要因により
周波数の揺れ成分(=ジッター)が加わり,精度が劣化してしまっていました。「DPAC」では,D/Aコンバーター
直前でジッター成分を吸収するため,より正確な変換が可能となるという技術でした。
ピックアップ部の駆動には,高精度なリニアモーターメカニズムを採用していました。センサーコイルとドライブコ
イルをもち,トラッキング方向にのみ動くマウントにピックアップが取り付けられたリニアモーター方式でした。セン>
サーコイルに発生した電圧を増幅し,NFをかけることにより,従来のギヤ駆動ではできなかった,速度制御がか
かり,ピックアップは送り信号に応じ,一定速度での移動が可能で,しかもバックラッシュがほとんどなく,速度制
御をかけているためマウントのサーボF特が高い周波数まで伸びていることで,トラッキング方向に対しての追従
性と収束性が大きく改善されていました。収束が良くなるためにサーチ時にトラッキングサーボの収束性も良くな
り,高速サーチが可能となっていました。また,ディスクの偏芯に対してもトラッキングアクチュエーターに代わって
リニアモーターメカニズムでピックアップ全体が追従するようになり,アクチュエーターは常に理想的なセンターで
の動作ができるようになっていました。
ピックアップのサーボコントロールは,伝統の「オプティマムサーボコントロール」を改良した「スーパーオプティマム
サーボコントロール」が搭載されていました。あらかじめ設定されたエラー電圧をサーボ系に与え,ディスクに傷が
あると瞬間的にピックアップに余分な力を与えない状態で通過させ,その後にサーボコントロールを効かせてビット
を正確にトレースするというシステムで,キズや汚れ,音圧振動に強くエラーの発生を抑え,ミクロン単位のピット列
のトレースの安定性を向上させ,高精度な信号ピックアップが実現されていました。
音質に影響する振動対策として,DP-1100SGに搭載されていた多段階にわたる防振機構「NEWマルチインシュ
レーションシステム」が搭載されていました。ピックアップを支える部分には,コイルスプリングと特殊弾性ゴムによる
ハイブリッドインシュレーターを使用しつり下げ方式の低重心構造となっており,ピックアップマウント部は,高剛性ア
ルミダイキャストが採用されていました。メカニズム部そのものも,特殊インシュレーター方式で支えられていました。
D/Aコンバーター部は,床振動だけでなく音圧の影響を受けにくくするために,垂直に立てて基板を配置したバーティ
カルレイアウトが採用されていました。筐体の脚部は,接地部に特殊弾性ゴムを配して振動を吸収し,さらにダブル
コイルスプリング方式サスペンションにより振動を吸収する「NEWストラットサスペンション」を採用していました。底
板は,1.6mm厚の鉄板で外部からの空気振動を防ぎ,ボディは2枚の厚さが異なり(1mmと0.6mm)共振周波数
の違う鉄板をはり合わせ,内部損失によって振動を吸収する2重構造ケースになっていました。
電源部は,他の機器やAC電源自体の汚れ(デジタルノイズ等の高周波)を2次電圧に変換させないようにトランスの
巻線に特殊なディバイスを使った「クリーンサイクロン電源」としていました。この「クリーンサイクロン電源」は,デジタ
ル用電源からフィードバックされるデジタルノイズも鮮やかにカットできるため,アナログ信号用の電源をクリーンに保
つ効果もあるというものでした。また,電源コードは極太のものが採用されていました。
デジタル出力として,コアキシャル(同軸)端子とオプティカル(光出力)端子を備え,当時各社から出ていたD/Aコンバー
ター内蔵型アンプや,単体D/Aコンバーターとの接続が可能となっていました。また,アナログ出力は固定と可変の端
子を備え,可変端子からの出力は,モーター付きボリュームによりリモコンでも可変できるようになっていました。
プログラム選曲機能として,通常のプログラム選曲以外に,時間枠を指定して,それに収まるように若い曲順から自動
的にプログラムして演奏できるNEWランダムプログラムエディット機能も搭載していました。
以上のように,DP-8010は,改良を加えながらロングセラーモデルとなっていたDP-1100シリーズを継承し,しっか
りした内容を持ちながら,価格も抑えられたさらにコストパフォーマンスの高い1台となっていました。クリアで見通しの
良い音は,ケンウッドらしい個性を感じさせるものでした。