Accuphase
DP-90
CD TRANSPORT ¥450,000
1992年に,アキュフェーズはDP-80L,DC-81Lの後継機として,セパレート型CDプレーヤー
DP-90とDC-91のペアを発売しました。アキュフェーズらしく,洗練された筐体設計と,徹底的に
変換精度を高めた設計が大きな特徴でした。
DP-90はCDトランスポートユニットで,ピックアップ部等の基本メカニズムはソニーから供給を受
けたものを改良して使用していました。ピックアップには,新開発の小型軽量RFアンプを内蔵し,
レーザーピックアップの微小な出力を増幅して送り出し,周囲の雑音による妨害の影響を抑えてい
ました。スピンドル,フォーカス,トラック,トレイの各アクチュエーターに流れるドライブ電流の急激
な変化が他の回路へ影響を与えて音質劣化を起こすことを防ぐために,アクチュエーターを2つの
アンプで駆動するバランス駆動回路を採用し,アースには電流が流れないようにし,干渉を抑えて
いました。
CDメカデッキやコントローラー部は,8mm厚のアルミ無垢シャーシによって支えられ,回転部から
発生する振動,外部から受ける機械振動,音響振動の影響を受けにくい剛性の高い構造となって
いました。ディスクを駆動するブラシレス・モーターは,直径3mmの極太スピンドルをサファイアの軸
受けで支える構造がとられ,耐摩耗性に優れ,長期の安定性が確保されていました。ディスクをス
ライドするトレイの振動による音質劣化を抑えるため,ドライブユニットが演奏中,トレイをロックし共
振を防ぐトレイのオートロック機構が採用されていました。
電源部は,電源トランスが2基搭載され,デジタル信号処理・マイクロコンピューター・表示関係と負
荷変動の大きいスピンドル・スレッド・フォーカス・トラック・トレイの各アクチューエーター関係を別々
に分離し,相互干渉を抑えた安定度の高い動作を実現していました。
内部構造は,写真で見るとおりアキュフェーズらしく非常に整然としていて,物理的強度も高いという
ものとなっていました。頑丈なフレーム構造の筐体の中に,ユニット化されたプリントボードが整然と
並び,各ボードはマザーボードでつながれ,内部の配線もほとんどなくなり,高い整備性と信頼性が
実現されていました。各プリントボードはすべて音質向上のために金プレート化されていました。
デジタル信号の出力として,アキュフェーズがDP-80で初めて搭載したEIAJの光出力はもちろん,
同軸出力も装備していました。そして,DP-90では,新たにHPC光出力が装備されていました。
これは,150M BPSの伝送レートを持つ,ヒューレット・パッカード社のSTタイプの超高速光リン
で,コア/クラッド径が50/125μmのマルチモード・グレーテッド・インデックスの石英ガラス光ファ
イバーが付属していました。さらに,AES/EBUの規格にも準拠した業務用のフォーマットにもなっ
ているHPC同軸バランス(平衡型3線式)も装備され,XLRタイプのコネクター付きの専用ケーブル
も付属していました。
Accuphase DC-91
MMB DIGITAL PROCESSOR ¥800,000
DP-90とのペアを想定されたD/AコンバーターDC-91は,シンプルなデザインの中に多機能と
高性能を実現した1台で,アキュフェーズはデジタル・プロセッサーと称していました。この名称は
DC-81の当時から用いられており,アキュフェーズは,単にD/Aコンバーターとしてだけでなく,
多彩なデジタル機器との組み合わせを想定していたことを表していたと思います。
DC-91の最大の特徴は,MMB D/A変換方式の採用でした。MMBはMultiple Multi-Bitの略
で,20ビットのマルチビット・コンバーターを複数個並列駆動させることで,高い変換精度を実現し
たものでした。MMBは,複数のコンバーターの出力を加算した場合,各コンバーターの変換誤差
は発生の仕方が異なるため,出力の増加のように単純に増えずに平均化されるため,結果として
ダイナミックレンジ,リニアリティ,高調波歪率といった特性が改善されるという現象を利用したもの
で,この後,アキュフェーズのCDプレーヤーに広く採用されていきました。当時,ΔΣ方式(1ビット
方式の基本原理)を研究していたアキュフェーズは,当時の素子では満足行く結果が得られず,マ
ルチビット方式の性能を高めるMMBを採用するに至ったといわれています。
DC-91のMMBでは,20ビット分解能のD/Aコンバーターを16個並列に駆動するというMMBで
も最大級の規模を持つもので,12dBもの特性改善を実現し,ほぼ限界に近い特性を確保していま
した。また,MMBの改善効果は周波数や信号レベルには関係ないため,マルチビットタイプの弱点
とされていた微小レベルのリニアリティも大きく改善されていました。
さらに,D/A変換する前のデジタル信号にデジタル演算によるディザを入れ,量子化雑音を広い周
波数に分散させ,微小振幅時の聴感上の歪みの低減を図っていました。
電源部は,電源トランスが3基搭載され,デジタル回路用,アナログ回路用に完全に分離され
さらに,アナログ回路用はL・Rを分離した構成となっていました。DC-91のMMB方式D/Aコン
バーターには,32個のD/Aコンバーターが搭載されており,このコンバーターそれぞれが±の
安定化電源を持つ「ローカルレギュレーター回路」となっており,この部分だけで64個の電源が
使用されているという凄い構成になっていました。
内部構造は,DP-90と同様に,アキュフェーズらしく非常に整然としていて,物理的強度も高い
というものとなっていました。頑丈なフレーム構造の筐体の中に,ユニット化されたプリントボー
ドが整然と並び,各ボードはマザーボードでつながれ,内部の配線もほとんどなく,高い整備性と
信頼性が実現された構造で,各プリントボードはすべて音質向上のために金プレート化されてい
ました。
デジタル入力は,DP-90にも搭載された高速型のHPCオプティカル,HPCバランスの他に,3
系統のEIAJ規格光入力,3系統の同軸入力が搭載され,さらに,DAT,MD等に対応したデジ
タル録音機との接続端子が光,同軸各3系統が搭載されていました。これらのデジタル入力は
すべて24ビットのデジタルデータを受け入れられる内部演算処理が行われるようになっていま
した。またデジタル出力も24ビット対応のものが,EIAJ光,同軸の2系統が装備されており,
将来への拡張性も考えられ,デジタルコントロールセンター的な用途も考えられていました。
DC-91は,32kHz,44.1kHz,48kHzの標準化されている3種類のサンプリング周波数に
対応していました。また,サンプリング周波数精度は,EIAJの規格レベルT(±50PPM),レ
ベルU(±1000PPM),レベルV(±12.5%)すべてに対応するようになっていました。レベ
ルTは3つの水晶発振器,レベルUは3つのリチウム・タンタレート発振器,レベルVはCR発
振器と合計7つの発振器を備えたPLLを採用し,これらの発振器を自動的にマイクロプロセッ
サーが選択し,最良のポジションが選ばれるようになっており,さらに手動でのレベル指定もで
きるようにもなっていました。
DC-91には,34ビット演算処理が可能なDSP(Digita Signal Processor)が搭載されてい
ました。このDSPを活用して,デジタル段階でアブソリュート・フェーズ切替を行うことで,音質を
損なわない絶対位相切替機能を実現していました。また,音量調整もDSPを活用して行うよう
になっていました。DSPの出力は24ビットであるため,CDの16ビット信号に対して8ビット(48
dB)の余裕があり,−48dBまでは信号の劣化なく音量調整が可能なことを利用して,−40dB
までの音量調整ができるように設定されていました。
一見シンプルでスイッチの見あたらないフロントパネルですが,シーリングパネルを開くと,多く
のスイッチがあり,ファンクション(音量調整,EIAJ規格レベル指定,フェーズなど)と多彩な入
力の切替等が可能で,各入力毎にファンクションの設定をメモリーすることができるようになっ
ていました。
以上のように,DP-90とDC-91のペアは,アキュフェーズの最高級CDプレーヤーとしてセパレー
ト型のかたちをとり,操作性も機能的にも,デザイン的にもアキュフェーズらしいよく練られた洗練さ
れたものとなっていました。リニアリティの高いすぐれた性能を裏付けるかのような,クリアでバラン
スの取れた音は,アキュフェーズらしいもので,高い評価を得ることとなりました。また,DC-91の
多機能性はデジタルプリアンプ的な活用も可能で,システムの発展性にもつながり,使いやすいも
ので,これも好評を得ることとなりました。