DENON
DR-L2
AUTO REVERSE STEREO CASSETTE DECK
¥89,800
1981年に,デンオン(現デノン)が発売したカセットデッキ。1980年代初頭には,各社オートリバース
方式のカセットデッキを出していましたが,デンオンは比較的慎重な姿勢を示し,ワンウェイ機のみを
ラインナップしていました。そんな中,同社が初めて発売したオートリバースカセットデッキが,DR-L1
DR-L2で,中でもDR-L2は,上級機として多彩な機能を搭載していました。
DR-L2の最大の特徴は,オートリバースデッキとして最も高速なリバース動作を実現していたことに
ありました。カセットデッキのオートリバース機能は,1970年発売のアカイのカセットデッキの1号機
CS-50Dがすでにオートリバース機であったようにオーディオ用カセットデッキが登場して,比較的早
くから存在していました。しかし,当初はカセットテープが終端まで巻き終わってからリバースするため
リーダーテープ部の無音部分がかなりあるという現実がありました。その後,リーダーテープ部を検出
して素早くリバースさせるクィックリバース機能をアカイが1978年に
GX-735Dで初めて実現し,その
後,各社に同様の方式が搭載されるようになっていきました。このクィックリバース機能は,GX-735D
では0.7秒というリバース時間でしたが,各社が競争して次第に短縮していきました。そんな中,この
DR-L2では,0.16秒というきわめて短いリバース時間が実現されていました。
DR-L2のオートリバースは,「4×4(フォー・バイ・フォー)メカニズム」と称するもので,4トラックヘッド
+4つの専用イコライザーアンプで構成されていました。当時,多くのリバースメカニズムが,録音・再生
ヘッドを回転させたりスライドさせる方式をとっていたため,カセットデッキでは非常に珍しいメカニズム
でした。
DR-L2の4トラックヘッドは,フォワード用に1・2トラックを,リバース用に3・4トラックを用いるため,固
定したヘッドを可能とし,ヘッドを動かさないため,リバース時に機械音も生じず,長期耐久性にも優れ
る合理的な方式でした。反面,4トラック固定ヘッド方式では,上記のように,フォワード時とリバース時
に異なるヘッドトラックを用いるため,非常に精密なヘッドが必要とされることになります。そのため,同社
の業務用マルチトラックレコーダーなどのヘッドの技術を生かした精密な4トラックヘッドが開発され搭載
されていました。
録音・再生用のヘッドはメタルテープにも対応した高磁束密度・耐摩耗性を実現したハードパーマロイ・
ヘッドで,高域特性の優れた低歪みのラミネートタイプが採用されていました。フォワード用,リバース用
計2個の消去ヘッドは,ダブルギャップ構造が採用されていました。
また,トラックごとにデリケートな特性を持つ4トラックヘッドに対応して,各トラックごとに最適に調整され
た4つの再生専用イコライザーアンプが搭載されていました。この再生イコライザーアンプは初段が徹底
的にローノイズ設計がなされ,4つのイコライザーアンプの選択,録音アンプとの切り換えは,トランジス
ターを使用した電子スイッチが採用され,サイレントメカニズム化の徹底が図られるとともに,機械的機構
をもつスイッチ以上の耐久性も実現していました。
テープ駆動系は,両方向の性能の均一化とテープ走行パスの同一化を実現した左右対称メカニズムに
なっていました。キャプスタン用DCモーターで互いに逆回転する2つのフライホイール,キャプスタンを常
に回転させており,テープを定速走行させるためのキャプスタンは,常に一方はピンチローラーと無接触
の状態で回転している状態になり,この結果,固定ヘッド方式と相まって,テープが反転して定速走行に
移るまでの立ち上がり時間もきわめて短くなり,0.16秒という高速なリバース動作が可能となっていまし
た。また,テープガイドなども全く対称的に配置され,両方向とも良好なヘッドタッチを実現していました。
モーターは3モーター方式で,キャプスタン駆動用のDCサーボモーター,リール駆動用にDCモーターが
搭載され,さらに,メカ駆動用にローディングモーターが搭載され,シンプルなメカニズムが実現していま
した。さらに,デンオン伝統のノンスリップ・リールドライブ機構の搭載によ,安定した巻き取りとメカニズ
ムの耐久性が高められていました。りテープの反転時におけるミューティング時間は,0.4秒以内で,
テープ反転位置・リーダーテープ部の検出は,フォワード用消去ヘッドの向かい側に設定された赤外線
テープセンサーにより行われるようになっていました。赤外線センサーからの信号やテープ走行方向の
切り換えの指示をマイコンが素早く処理して,専用のローディングモーターを駆動するようになっていまし
た。このモーターが,4トラック4チャンネル固定ヘッドのトラック切り換え,ピンチローラーの圧着・離脱動
作を行うようになっており,リバース動作時のメカ音も極小で,静かで迅速なリバース動作が特徴でした。
DR-L2は,パネル面が比較的シンプルで,機能的にもシンプルに見えますが,シーリングパネルを開く
と,頭出し機構をはじめ,多様な機能のスイッチが隠されていました。
「オートサーチ」と称した頭出し機構は,前後15曲の頭出しが可能で,オートリバース機ゆえに,テープ
のA面からB面,B面からA面へと連続した頭出し機構となっていました。頭出し機構として,さらにはじめ
(メモリープレイ)と終わり(メモリーストップ)の2点をメモリーし,再生→巻き戻し→再生を繰り返す2点間
リピートができるメモリーリピート機構も装備されていました。シーリングパネル内にはマイク端子とヘッド
ホン端子があり,マイク端子はふつうのマイク録音のほかに,内蔵のミキシングアンプによるミキシング
録音も可能で,L・R同時使用のほかLチャンネルだけ使うとモノラルセンターマイクになる設計となってい
ました。また,テープ再生とマイク入力をミキシングして再生することも可能で,カラオケ機的な使い方も
可能となっていました。
テープセレクターは,NORMAL−CrO2−METALはオートテープセレクターになっており,さらに手動
でNORMAL−FeCr−CrO2−METALの4段階に切り換えができるようになっていました。ノイズリダク
ションとしては,ドルビー(Bタイプ)が搭載されていました。録音レベルが自動設定できるオート・ボリュー
ムも搭載されていました。これは,Auto.VOL.のスイッチをロックすると,入力信号の最初の10秒間
をサンプリングして最大入力レベルをデジタル計測し,0.5dBステップ64ステップの電子ボリュームで
セットするものでした。
以上のように,DR-L2は,敏速なオートリバース機能だけでなく,音楽を録音し楽しむテープデッキとし
て使いやすい機能も装備し,「リビング・オーディオの主役」と同社が称していたように,使いやすい1台
となっていました。メカニズム敵にも音質的にもデンオンらしい手堅いもので,完成度の高いテープデッ
キでした。DR-L2には,オート(録音)ボリューム,オートサーチ(自動選曲),メモリーリピート,マイクミ
キシング再生などのいくつかの機能を省いた弟機DR-L1(¥69,800)も発売されていました。