1982年に,デンオン(現デノン)が発売したカセットデッキ。1981年発売の3ヘッドデッキ,DR-F8,F7,F6のシ
リーズの後継機種で,弟機としてDR-M2も同時に発売されました。走行メカニズム,機能面など各部に強化が図
られていました。
走行メカニズムは,新たにメカ駆動用モーターを搭載した3モーター構成が採用され,DR-F8等のプランジャーメカ
ニズムに対してモーターカム駆動による静かなメカニズムとなっていました。モーターカム駆動は,機構上そのまま
ではタイムラグが生じオーバーラン等が起きやすいため,メカ駆動にコンピューター(マイクロプロセッサー)が搭載
されていました。カムの位置をロータリーエンコーダーが検出し,デジタルフィードバックをかけることにより正確な回
転位置制御を実現し,メカノイズを克服したスムーズで高精度な走行系「サイレント・メカニズム」となっていました。
走行系は,シングルキャプスタンでしたが,キャプスタンは,FGサーボDCモーターによるDD(ダイレクト・ドライブ)
方式が採用されていました。このキャプスタンモーターは,独自の平面対向形の設計により強いトルクとトルクムラ
の少ない滑らかな回転を実現し,ワウ・フラッターを低減していました。さらにブラシレス構造によりノイズの低減と耐
久性の向上も実現していました。サーボ回路には,全周積分サンプル&ホールド方式が採用され,高利得・高安定
性が実現されていました。
リール駆動には,デンオン伝統のノンストップリールドライブ方式が採用され,機械的なスリップや,巻取り力の変動
を解消し,巻上げの不均一によるドロップアウト,ワウ・フラッター,位相特性の悪化などを抑えていました。
ヘッドタッチの安定化のために,テンションサーボ機構がさらに改良されて「プログレス・テンションサーボ・センサー」
として搭載され,テープに無理な力をかけずに応答性の高い安定したサーボ効果が確保され,安定したバックテン
ション,ヘッドタッチが実現されていました。
3ヘッド構成の録再ヘッドには,S&F(スーパー・フレケンシー)コンビネーションヘッドが搭載されていました。録音
ヘッドは,飽和磁束密度の高いスーパー・パーマロイをコアに採用し,耐摩耗性も増強したものが搭載されていまし
た。再生ヘッドには,高域損失が少なく耐摩耗性にすぐれた新開発の高密度フェライトコアを採用していました。ガー
ド部には,センダストを用いて,耐摩耗性を大幅に高めていました。さらに磁束粒子を従来の1/2以下として摺動
ノイズや温度変化による磁気特性の変動を改善していました。また,コイルには,すべて無酸素銅線を採用してい
ました。消去ヘッドには,ダブルギャップフェライトヘッドが搭載されていました。
イコライザーアンプには,ローノイズ設計の差動入力プッシュプルDCアンプ回路が採用され,±2電源方式により高
圧電源を供給することでダイナミックレンジを拡大していました。ヘッドと初段アンプ間のコンデンサーを除去するとと
もに,終段までDCアンプ構成としていました。バイアス回路は,安定度の高い新開発トランスとプッシュプル構成に
より,バイアス波形歪みを改善し,消去ノイズを低減していました。また,電源回路はアンプ系とロジック系を完全分
離し,アンプ系ではインディペンデント・パワー・サプライ=IPS(独立電源)方式として,回路の安定化が実現されて
いました。
DR-M3には,先代モデルDR-F8のFTSから発展したコンピュータ・チューニングが搭載されていました。スタート
スイッチを押すだけで,テープは自動調整走行を始め,マイクロプロセッサーにより,自動的に録音入力と再生出力
が一致するようにテープ感度が調整され,周波数特性がフラットになるようにバイアスが自動調整され,さらに感度
を補正して,自動巻き戻しが行われるというもので,10万通りもの調整の中からそれぞれのテープに最適なポジショ
ンが自動的に,しかも約6秒という短時間で見つかるというものでした。
テープセレクターはオートで,NORMAL,CrO2,METALの3タイプに対応していました。
ノイズリダクションとしては,ドルビーBタイプとCタイプが装備され,新開発ドルビーCタイプ用ICの採用など,ドルビー
ユニット部の完全直結化により,ダイナミックレンジを拡大し,さらに,全波整流回路の採用により過渡特性も大幅に
改善され,上述のコンピューターチューニングとあいまってドルビーCの効果をしっかり引き出せるようになっていまし
た。
フロントパネルのデザインは,DR-F8等と大きく変わり,突起部の少ないフラットパネル調のデザインとなり,レベル
メーターも,針式から2色のFLピーク・メーターとなり,FLメーター内にドルビー,テープ/ソース,テープポジションが表
示される集中ディスプレイになっているなど,新しい感覚のデザインとなっていました。
テープカウンターもメカニカル式にかわって電子カウンターが搭載されていました。通常の4桁表示だけでなく,ラージ
ハブC46,C46〜C60,C90の3タイプの切換スイッチが装備されテープの残量表示の機能も搭載されていました。
以上のように,DR-M3は,デンオンらしく基本に忠実で手堅いつくりを継承しつつ,当時の最先端技術マイクロプロ
セッサーを大幅に導入して,機能性や操作性も高めた使いやすい1台でした。安定した走行系等により,レンジの伸
びたしっかりした音を持っていました。
また,弟機のDR-M2は,コンピューターチューニングが省かれただけで,ほぼ同じ内容と性能を持ち,コストパフォー
マンスの高い1台となっていました。
デッキが頭脳をもった!!
コンピューター集中制御・・・・スーパー・ブレイン・オペレーション
進化はコンピューターとともにやってきた。デッキを変えた頭脳,スーパー・ブレイン・オペレーション。
サーボ・メカニズムを,テープ・カウンターを,そしてテープ・チューニングまでも自動制御。
いい音と,快適な操作をすべてのリスナーに贈りたい。
DENONデッキ32年目の回答・・・・いま3ヘッドデッキがコンピューターで武装した。
●おもな仕様●
DR-M3 | DR-M2 | |
---|---|---|
トラック方式 | 4トラック2チャンネルステレオ | 4トラック2チャンネルステレオ |
テープセレクター | 3段オートテープセレクター (NORMAL,CrO2,METAL) |
3段オートテープセレクター (NORMAL,CrO2,METAL) |
ヘッド | 録音・再生:SFコンビネーションヘッド×1 消去:ダブルギャップフェライトヘッド |
録音・再生:SFコンビネーションヘッド×1 消去:ダブルギャップフェライトヘッド |
モーター | キャプスタン用:DD・FGサーボモーター×1 リール用:DCモーター×1 ローディング用:DCモーター×1 |
キャプスタン用:DD・FGサーボモーター×1 リール用:DCモーター×1 ローディング用:DCモーター×1 |
ワウ・フラッター | ±0.04%(W・Peak),0.027%(WRMS) | ±0.04%(W・Peak),0.027%(WRMS) |
早送り時間 | 約90秒(C-60) | 約90秒(C-60) |
総合周波数特性(入力−20VU) | METALテープ20Hz〜23kHz(25Hz〜21kHz±3dB) | METALテープ20Hz〜23kHz(25Hz〜21kHz±3dB) |
総合SN比 | 73dB以上 (ドルビーN.R.「Cタイプ」ON,3%THDレベルに対して。 CCIR/ARM測定法) |
73dB以上 (ドルビーN.R.「Cタイプ」ON,3%THDレベルに対して。 CCIR/ARM測定法) |
入力端子 | マイク:0.35mV(10kΩ不平衡) 10kΩ以下のマイクに適合 ライン:77.5mV(50kΩ不平衡) |
マイク:0.35mV(10kΩ不平衡) 10kΩ以下のマイクに適合 ライン:77.5mV(50kΩ不平衡) |
出力端子(VOL.MAX) | ライン:775mV(10kΩ負荷時) ヘッドホン:1.2mW(8Ω負荷時) 8Ω〜2kΩのヘッドホンに適合 |
ライン:775mV(10kΩ負荷時) ヘッドホン:1.2mW(8Ω負荷時) 8Ω〜2kΩのヘッドホンに適合 |
電源 | 100V AC,50/60Hz | 100V AC,50/60Hz |
消費電力 | 22W | 22W |
外形寸法 | 434W×115H×286Dmm | 434W×115H×286Dmm |
重量 | 5.7kg | 5.6kg |
※本ページに掲載したDR-M3,DR-M2の写真,仕様表等は1982年
12月のDENONのカタログより抜粋したもので,D&Mホールディング
スに著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で 転載・引
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