DIATONE DS-505
4WAY SPEAKER SYSTEM ¥190,000
1980年に,ダイヤトーン(三菱電機)が発売したスピーカーシステム。三菱電機は,戦時中に
東工大で開発された酸化鉄系のOP(オキサイド・パウダー)磁石を製造していたことがあり,戦
後その平和利用の一つとしてスピーカーの製造に乗り出したという,スピーカーにおいて非常に
歴史のあるメーカーでした。当初は,NHk技研のバックアップも受けながら放送局用モニタース
ピーカーの開発・製造を行っていましたが,1968年からは民生用スピーカーシステムの「DSシ
リーズ」を展開していきました。当初よりフラットな周波数特性を重視した設計が特徴で,それ故
に,比較的早くからスーパートゥイーターを搭載した3ウェイさらに4ウェイというスピーカーシステ
ムも展開していきました。そうした4ウェイシステムのさらなる発展形がDS-505でした。
ダイヤトーンは,1970年に4ウェイシステムとしてDS-301を発売し,さらに1974年にも4ウェ
イシステムとしてDS-303を発売しました。これらは,ウーファー,スコーカー,トゥイーターという
3ウェイシステムにスーパートゥイーターを加えたという構成になっており,高域レンジを拡大する
という設計になっていました。しかし,DS-505では,ユニット構成の見直しが行われ,ウーファー
の上にミッド・バスを設けた新たな4ウェイ構成がとられ,デジタル時代に対応した「ブックシェルフ
を越えるブックシェルフ」として発売された同社の歴史の中で画期的な1台でした。
従来多く見られる3ウェイ構成では,重低音再生に力点を置くと中低音域が,逆に中低音域のクリ
アさを求めれば重低音が薄くなりがちな傾向がありました。また,クラシック,ジャズ,ロックなど,
音楽再生のエネルギー分布を見てみると,100~800Hzという中低音域にエネルギーが集中し
3ウェイ構成では,低域ユニットに負担がかかり過ぎたり,ファンダメンタル帯域が低音によって
混変調を起こしてしまう可能性がありました。DS-505では,16cm口径のミッド・バスにより,ファ
ンダメンタル帯域をほぼカバーし,低音域の質的向上と,分解能を高め,ワイドレンジ化と充実し
た再生を実現しようとした設計でした。
ウーファーは32cm口径,ミッドバスは16cm口径のコーン型で,ともにアラミッド・ハニカム振動
板が採用されていました。アラミッド・ハニカム振動板は,アラミッド繊維で強化される可撓性(し
なやかにたわむ性質)レジンを特殊配合し,樹脂自身に大きな内部損失を持たせたスキンとアル
ミハニカム・コアを接着したハニカム構造振動板として成形したものでした。
アラミッド繊維は,芳香族ポリアミド系の繊維で,高強度,高弾性の性質と低密度と適度の内部
損失を兼ね備えており,航空宇宙関係の材料として注目されているものでした。しかし,振動板
として成形しようとすると加工性が悪いなどという弱点もありました。そこで,ダイヤトーンは上述
のように可撓性レジンとの組み合わせでクリアしていました。
ダイヤトーンは,当時独自のモーダル解析及びNASTRANによる振動解析により,振動板につ
いて,従来考えられていた,(1)比弾性率が高いこと(硬くて軽いということ),(2)内部損失が大き
いこと等に加え,(3)大きな厚みを有すること,も重要なファクターであることもあると考えていまし
た。
アラミッド・ハニカム振動板は,内部損失が0.07と紙の約1.4倍の高い値をもち,振動減衰も
速くなっていました。さらに,アラミッド繊維自体の密度が1.4g/cm3と低く,音速は紙に比べて
2倍以上と,アルミニウム,また,アルミニウムコアにアルミニウム・スキンを接着したハニカム
よりも大きな値となっていました。そして,ハニカム構造振動板とすることで,大きな厚みと音速
が得られ,振動板に起因する歪を小さく抑えていました。さらに,紙より大きな内部損失をもつ
ことで,より一層の分割振動を抑える効果も加わり,紙コーンに比べ,高調波歪で-20dBの低
減を実現し,ピストニックモーション帯域も拡大されていました。
ウーファーとミッド・バスを駆動する磁気回路には,低歪磁気回路が搭載されていました。磁気
回路から発生する非直線性歪を低減するために,磁極空隙近傍部に磁化特性の直線性がす
ぐれたニッケル系磁性合金材料を冶金工学的アプローチで開発・装着していました。さらに,
磁性空隙部の磁束密度分布の不均一性に基づく歪に関しても,ポールピース及びプレートの
形状,寸法,材質などの影響をコンピューターにより解析し,磁束密度分布の均一な,歪の少
ない構造を実現していました。ボイスコイルには従来の芳香族ポリアミド・フィルムの3倍のヤ
ング率をもち,耐熱,耐寒性にすぐれたポリイミド・フィルムを採用し,耐入力性を飛躍的に高
めるとともに,ボイスコイルで発生した駆動力が,損失なく振動板に伝わるように設計し,より
ハイスピードな再生をめざした設計になっていました。
トゥイーターは2.3cm口径,ミッド・ハイは4cm口径のハードドーム型ユニットで,ともに直接駆
動型ボロン化振動板が採用されていました。
高域再生を行うスピーカーユニットにおいては,(1)高域再生限界周波数を高くし可聴帯域外に
出すこと,(2)指向性を良くすること,(3)歪を少なくすること,などが必要と言われています。この
ため,振動板素材としては,軽く硬く,比弾性率が大きく,小口径であり,耐候性,耐久性にもす
ぐれたものが望ましいことになります。そのため,DS-505では,チタンを高温ボロン化処理(ボ
ロン=ホウ素は,溶融,焼結等で金属元素と合成することが可能であり,高硬度,高融点など
の性質を示す。)を行い,ボロン化チタンとチタンのサンドイッチ構造の振動板を開発し,採用し
ていました。さらに,このボロン化チタン振動板の成形は,生産工学的なアプローチから,それ
まで困難とされていた深絞りに成功したもので,振動板部とボイス・コイル・ボビン部とを一体構
造とする,新しいダイヤトーン独自の直接駆動形振動板・DUD(DIATONE Unified Diaphr-
agm)としていました。
DUDという直接駆動形振動板を採用することにより,ボイスコイルに発生する駆動力を損失なく
振動板に伝達することが可能となり,高音域の減衰が少なく,入力信号に対する応答性も大幅
に改善されていました。また,ボイスコイルに発生した熱もダイアフラムに直接伝導し,放熱効果
も高くなり,耐入力性を高めていました。
また,トゥイーターのボイスコイルには,純アルミ線を採用し,従来のものに比べ振動系のマスを
30%軽量化することで,高域限界周波数を高め,ユニット自身の広帯域化を可能にしていまし
た。トゥイーターとミッド・ハイのマグネットには。大形のストロンチウム・マグネットを採用し,磁気
回路を飽和領域で動作させることにより,磁気回路に起因する駆動系の歪を排除し,高い磁束
密度を確保していました。
こうしたミッド・ハイ,トゥイーターは,ピストン駆動領域が広く,トランジェント特性にすぐれたワイ
ドレンジで反応の速い中・高域再生が実現されていました。また,ミッド・ハイ,トゥイーターには
アッテネーターが装備されていました。
ネットワーク回路自身も低歪化が図られたものでした。ネットワーク用コイルには,コア入りの
ダンピングの良さ,空芯の歪の少なさという双方の利点を活かす最適設計が行われ,コイル
の形状を徹底的に追求するとともに,巻線径を1.4mmと太くし,直流抵抗と歪を低減していま
した。また,有害なコア鳴きをなくすために特殊接着剤により珪素鋼板を加熱圧着した圧着鉄
芯を用いるなど,細心の注意が払われていました。コンデンサは,高域特性のすぐれたポリエ
ステル・フィルム・コンデンサを,その素子自身の振動までも見つめ,二重防振構造のものを
用い,電解コンデンサも漏れ電流,導電体損失をきわめて低く抑えた低歪形を用いていました。
さらに,ネットワークの部品配置,配線方法にも留意して,部品相互間の干渉を少なくするよう
に設計されていました。線材の選定,接続方法にも配慮がなされ,ネットワーク回路の配線を
中心に無酸素銅線をを採用し,接続方法にもハンダ付けを排し,無酸素銅のスリーブを用い
た圧着による接続を行っていました。
エンクロージャーは,エアーサスペンション方式,つまり密閉型で,モーダル解析と,徹底した
ヒヤリングで吟味された複合構造と厳選された材料の採用された,大形バックチャンバー付
ブックシェルフ形エンクロージャーでした。バッフル面のユニット配置も,こうした解析が活かさ
れたもので,ミッド・バス・ユニットが上部に位置しているのも特徴で,混変調歪を大きく低減し
ていました。
以上のように,DS-505は,ブックシェルフ形スピーカーとしては大型のモデルで,ミッド・バス
ユニットを採用した4ウェイシステムとして,当時のブックシェルフ形スピーカーの限界に挑戦し
たモデルでした。4ウェイシステムに起こりがちな音像のまとまりの悪さもなく,レンジが広く,
シャープで繊細な音は,音が微粒子となって散乱するような魅力的な音で,その後のダイヤトー
ンの4ウェイシステムの進化へとつながっていった画期的なスピーカーシステムでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
デジタルソースへの対応をめざし
ブックシェルフは外苑を越えて音を磨く
ミッド・バス4ウェイbyダイヤトーン。
◎ミッド・バス4ウェイ構成
◎アラミッド・ハニカム振動板
◎直接駆動形ボロン化振動板
◎ハイスピード化
◎低ひずみ磁気回路
◎低ひずみネットワーク回路
◎隅々のパーツにも最高のものを
◎大形バックチェンジャー付
ブックシェルフ・エンクロージャー
●主な定格●
スピーカー方式 | 4ウェイアコースティック・エアー・サスペンション方式 |
使用ユニット | 低音用 32cmコーン型 中低音用 16cmコーン型 中高音用 4cmドーム型 高音用 2.3cmドーム型 |
公称インピーダンス | 6Ω |
再生周波数帯域 | 28~40,000Hz |
低域共振周波数 | 35Hz |
最大許容入力 | 100W |
定格入力 | 30W |
出力音圧レベル | 90dB/W/m |
クロスオーバー周波数 | 350Hz 1,500Hz 5,000Hz |
レベルコントロール | MID-HIGH:1,500~5,000Hz4段切換 HIGH:5,000~40,000Hz4段切換 |
外形寸法 | 幅420×高さ720×奥行425mm |
重量 | 42kg |
※本ページに掲載したDS-505の写真・仕様表等は
1980年8月のDIATONEのカタログより抜粋したもの
で,三菱電機株式会社に著作権があります。したがって
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