1987年に,オンキョーが発売したDATデッキ。1987年は,DAT元年で,各社からDATデッキが発売され,オン
キョーも同年にDAT第1号機DT-2001を発売しました。スピーカーのMONITOR2001,プリメインアンプA-2001
CDプレーヤーC-2001と同じく2001の型番をもつ高級機のシリーズ「2001シリーズ」の1台であり,しかも第1号
機らしく,各部に物量と技術が投入された力作となっていました。
DT-2001の最大の特徴は,デジタル部とアナログ部を電気的に完全分離するために,マイク入力からのアナログ
光伝送も含めて15の全信号ラインに光伝送方式を採用した,世界初の光伝送DATデッキであったことでした。世界
初の「スーパー・バイディレクショナル・オプトカップリング・光多重伝送方式」により,デジタル,アナログ,マイクアン
プの全信号回路を完全分離していました。さらに,デジタル/アナログ完全独立分離電源トランス及び独立7電源回
路が採用され,録音入力,再生出力に挿入されたインフェイズ・トランスによるデジタル信号妨害(D・S・I)のアナロ
グ回路への混入の防止などの諸対策により音質の向上が図られていました。
オンキョーは,1985年に世界で初めて光伝送を内部に取り入れたCDプレーヤー・C-700を発売し,その有効性を
示したメーカーで,その後,各メーカーから光ファイバー,フォトカプラーなどを内部に用いてアナログ部とデジタル部
等との干渉を抑えるCDプレーヤーが発売されるようになりました。しかし,DATにおいては,内部にデジタル部とアナ
ログ部の電気的分離のための光伝送を搭載したものは出ていませんでした。その最大の理由は,発光側の発光遅
れ,すなわち発光素子に流れる高周波電流の立ち上がり及び立ち下がりに対して光の出方がわずかに遅れることに
ありました。CDプレーヤーでは,一方向のみの伝送でよいため,時間遅れが発生しても,全伝送系が同じだけ遅れる
のであれば問題とはなりません。しかし,DATの録音側では,双方向に往復で信号のやりとりを行うため,遅れが重
責し,ここでの遅れが致命的な影響となり録音側が正常に動作しない事態も発生する可能性が出てきます。
DT-2001の「スーパー・バイディレクショナル・オプトカップリング・光多重伝送方式」では,双方向伝送の時間ズレを
見かけ上ゼロにするため,ADコンバーターと信号処理部の間に大掛かりなインターフェース回路を設け,ADコンバー
ターより出力されたADシリアルデータ信号を信号処理部のクロック信号に対して,見かけ上光伝送系の時間遅れを補
正することによって信号処理回路が完全に動作できるようにしていました。また,再生側の光伝送方式アナログミュー
ティングの動作を確実にするために,ミューティング信号とクロック信号の多重光伝送を行っていました。
アナログ録音次のADコンバーターには,DAT用として新しく開発されたC-MOS逐次比較型ADコンバーターが採用さ
れていました。クロック信号発振器を必要としない逐次比較型であるために,他のクロック信号とのビート妨害が発生す
る心配もなく,正確なトリミングで下位ビットの補正を行い,16ビット量子化の極限性能のS/N,歪率が実現されてい
ました。しかも,左右独立でADコンバーターが搭載され,定位感も改善されていました。
再生側のデジタルフィルターには,4倍オーバーサンプリング225+41次という高次デジタルフィルターを採用して,オー
ディオ帯域内のリップルを皆無にし,さらに7次アクティブローパスフィルターを併用して群遅延歪を抑えていました。
DAコンバーターには,,ADコンバーターと同じく逐次比較型のものを左右独立で採用し,ゼロクロス歪調整機能を設け
ローレベル時の歪率の改善を図っていました。
DT-2001には,ライン入力に加えマイク入力も装備され,プロ用機器としても十分通用する性能のマイクアンプが搭
載されていました。マイクロフォンは,一般的に出力電圧が低く,マイクアンプの利得は,通常250μV入力を基準とし
これは,ほぼ低出力MCカートリッジに近いものがあります。そのため,少なくとも60dB=1000倍の増幅のマイクア
ンプが必要となります。しかし,これだけの増幅を行うヘッドアンプとなると,熱雑音によって全体のS/Nの低下を招く恐
れがあり,さらに,デジタル信号を扱うDATでは,デジタル信号妨害(D・S・I)による音質の劣化の恐れがあります。こ
れを防ぐために,マイクラインを録音側アンプに入れる前に電気的に絶縁する方法として,マイクラインを直接光伝送す
るアナログ光伝送方式が開発・搭載されていました。この方式は,直接強度変調法という手法を用いて,アナログ信号
の強弱を直接発光ダイオードの光の強弱に変換して光ケーブルで伝送し,受光素子でふたたび電気信号に戻すとい
う方式ですが,光伝送用の発光素子はもともとデジタル信号伝送用につくられており,S/Nと直線性が悪く,アナログ
信号に用いると良好なS/Nと歪率が得られないため、見かけ上発光素子のS/Nと直線性をよくする光負帰還法とい
う回路を開発・搭載していました。新開発の高性能マイクヘッドアンプとあいまって,DATデッキ実装時に,S/N:70dB
歪率:0.05%,周波数特性:20Hz〜20kHz±1.5dBというすぐれた特性が確保されれていました。
また,デジタル系は,光ケーブル及び同軸ケーブルによる入・出力端子が装備され,様々なデジタルオーディオ機器と
の接続が可能となっていました。
DATにとって心臓部ともいうべきトラッキングメカニズムは,ドラム,キャプスタン,巻取り,送り出しがそれぞれ独立の
ダイレクトドライブの4モーターで構成され,さらにテープローディング専用のモーターを搭載した4DD・5モーターのメカ
ニズムが搭載されていました。また,回転ヘッドにはセンダストヘッドが採用され,回転系のベースには高硬質アルミ
合金を使用して信頼性が高められていました。さらに,回転ヘッドの結露による走行不良やテープ損傷を防止する結
露センサー,結露ヒーターも搭載されていました。
DATは,テープ上に音楽とは別にサブコードを記録するスペースが設けられ,それを利用したデジタルならではの高度
な機能が実現されていました。スタートIDという信号を自動・手動で打ち込むことにより,CD等のように自在な頭出し,
プログラムプレイやリピートプレイが可能になっていました。また,早送り・巻戻しはDATの標準は200倍速ですが,逆
に速すぎて使いにくいときもあるため,FF・FRキーを1度押すと16倍速,2度押すと200倍速という,より使いやすい2
段階切換式になっていました。
ディスプレイ部も,カウンター表示は,リニアカウンター,プログラムタイム,連続プレイタイム,残量タイムの4段階切換
方式になっており,レベルメーターは,デジタルデータ信号をそのままピークインジケーターに入力して表示誤差を追放
し,ピークホールド機構も付属した大型のデジタルビット・ピークメーターが搭載されていました。
以上のように,DT-2001は,オンキョーがDATデッキ第1号機として非常に力を入れて開発・設計した1台で,各部に
技術,物量が投入された正に力作でした。オンキョーらしい元気な明るい音をもつ実力機でしたが,第1世代DAT共通
の問題として,DATの高性能故に,著作権の問題から,CDからのデジタル伝送での録音ができない仕様となっていた
のは,残念なことでした。
オンキョーの独創技術が生み出した,
世界初・光伝送DAT。
A/D:6系統,D/A5系統,マイク:2系統(アナログ光伝送),デジタルIN/OUT:2系統,
全15系統におよぶ「光伝送」でデジタル/アナログ/マイク回路を完全分離。
●主要定格●
テープ | デジタルオーディオテープ |
ヘッド | 回転ヘッド |
録音時間 | 120分 |
テープスピード | 8.15mm/sec,(12.225mm/sec) |
ドラム回転数 | 2,000rpm |
エラー訂正方式 | 二重ソロモンコード |
トラックピッチ | 13.6μm(20.4μm) |
サンプリング周波数 | 48kHz(44.1kHz) |
変調方式 | 8-10変換 |
伝送レート | 2.46Mbit/sec |
チャンネル数 | 2チャンネルステレオ |
量子化 | 16bit直線 |
周波数特性 | LINE:2〜22,000Hz(±0.5dB) MIC:20〜20,000Hz(±1.5dB) |
SN比 | LINE:92dB以上 MIC:70dB以上 |
ダイナミックレンジ | 90dB以上 |
高調波ひずみ率 | LINE:0.005%以下(1kHz) MIC:0.05%以下(1kHz) |
ワウ・フラッター | 測定限界(±0.001%W.PEAK)以下 |
LINE入力 | 200mV/47kΩ |
MIC入力 | 250μV/47kΩ |
DIGITAL入力 | 0.5Vp-p/75Ω |
LINE出力 | 2.0V/220Ω |
DIGITAL出力 | 0.5Vp-p/75Ω |
ヘッドフォン出力 | 50mW/32Ω |
電源 | AC100V 50/60Hz共用 |
消費電力 | 38W |
外形寸法 | 471W×421D×122Hmm |
重量 | 14.0kg |
※本ページに掲載したDT-2001の写真,仕様表等は1987年6月のONKYO
のカタログより抜粋したもので,オンキョー株式会社に著作権があります。した
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