SONY DTC-55ES
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥98,000
1990年に,ソニーが発売したDATデッキ。ソニーは,1974年に,X-12DTCという固定ヘッド方式のデジタル
テープレコーダー(試作品で,デジタルの父と言われる中島平太郎氏によるもので,重量も250kgもあったそう
です。)を開発するなど,デジタル録音機の分野では先駆者で,DAT規格の立ち上げにおいても中心的存在で
した。そんなソニーが,1987年のDATスタートから3年後,DATの普及をめざして発売した1台がDTC-55ES
でした。

1987年にスタートしたDATは,録音機としての性能の高さ故に,音質を損なわないコピーが可能であり,著作
権の問題が音楽業界から指摘され,CDからのデジタル信号でのダイレクト録音ができない仕様となっていまし
た。その点が,普及を妨げていると考えられ,DATでCDからのダイレクト録音を可能とする規格としてSCSI
(Serial Copy Management System)がこの年スタートしました。SCSIでは,CDからのダイレクトなデ
ジタル録音が可能な一方,録音したテープからのデジタルコピーはできない仕様で,コピービットを記録するこ
とで,デジタル→デジタルの録音を1世代のみに限るというシステムでした。このSCSI搭載のDAT第1号機が
DTC-55ESでした。

デッキメカには,DTC-500ES以来の合理化した標準メカニズムと考えていた2DD+1BSLモーターメカニズ
ムが搭載されていました。キーとなるキャプスタン駆動用,ヘッドドラム回転用に2つのダイレクトドライブモーター
を搭載し,テープ走行精度を確保しつつ,テイクアップ用とサプライリール用は1つのモーターを合理的に使用し
たメカニズムで,早送り,巻き戻し時の高速サーボなど,巧みな構成により,上級機の4DDメカニズムと比較し
て遜色のないオペレーションが実現されていました。精密さが要求されるメカシャーシには,非磁性体の高硬質
アルミ合金を使い,高い信頼性を確保していました。また,カセットコンパートメントには,テープが目視できる正
立透視型のコンパートメントが採用されていました。このコンパートメントにより,テープを入れて音が出るまで
の時間を従来の約半分に抑え,スピーディーな操作が可能となっていました。
回転ヘッドには,ソニーがVTRで培ったヘッド技術を応用した2ヘッドタイプのものを搭載し,長時間使用しても
均一なギャップ幅が維持できるDAT用のヘッドを開発・搭載していました。



録音系のA/Dコンバーターには,当時最新の1ビットタイプのハイデンシティ・リニアA/Dコンバーターを搭載し
ていました。A/D変換にともない発生する不要スペクトラムを音楽信号のはるかかなたへシフトさせることがで
き,折り返し雑音を防ぐためのローパスフィルターもゆるやかな特性の1次CR型というきわめて軽いタイプの
ものを使い,群遅延特性や位相特性をの悪化を抑えていました。
再生系のD/Aコンバーターには,当時,単体D/AコンバーターやCDプレーヤーで多くの使用実績を持ち,安
定した能力を持つ8倍オーバーサンプリング・18ビットD/AコンバーターをL・R独立構成で搭載していました。

モーターサーボは,大幅にソフトウェア化していました。ソフトウェアサーボとすることで,ソフトウェアの設定い
かんで,多彩なコントロールができ,サーチなどでもテープに負担をかけないように走り始めと停止直前はゆっ
くり,走行途上は最大200倍速の高速サーチを実現し,音出し時間の短縮,キュー/レビュー音の改善などに
も実現していました。キュー/レビュー機能は,音を確認しながら約2.5倍速でスタートし,ボタンを押し続ける
と約8倍速にへ自動的に変化し,音を出しながら早送り,巻き戻しができる便利な機能でした。
エラー訂正・補正として,ダブルエンコーデッド・リードソロモン方式が採用されていました。これは,テープとい
う記録媒体に対応したもので,テープ方向の長手のバーストエラーや2つのヘッドの片方が再生不能になった
場合でも,訂正補正が可能でした。さらに,スーパーストラテジーに加えて,エラー情報を先取りして最適な訂
正を行うフィードフォワードスーパーストラテジー方式を採用しており,より高い信頼性と,防振性を確保してい
ました。



DTC-55ESでは,エラー訂正,RAMコントロール,デジタルI/Oなど信号処理用のLSIをわずか1個に集積し
た新開発の第2世代LSIを採用していました。このLSIは,1個でゲート数に換算して約2万ゲートに及ぶ高集
積度を誇るものでした。そのほか,ソフトウェアサーボ,メカニズムコントロールなどを制御するマイコンも1個
のLSIに集約し,それにともない,部品点数は大幅に削減され,基板構成もシンプルになっていました。これに
より,信頼性が向上し,エラー訂正能力も高まっていました。当時,ソニーは,デジタルオーディオ機器におい
て,集積化をいち早く進めていたメーカーでした。

DATであるDTC-55ESは,テープ上に音楽とは別にサブコードを記録するスペースが設けられ,それを利用
したデジタルならではの多彩な機能が実現されていました。スタートID,スキップID,エンドIDという信号を自動・
手動で打ち込むことにより,自在な頭出しが可能になっていました。手動打ち込み時には,0.3秒単位で移動
可能で,打ち込み位置を確認できるリハーサル機能が付いていました。
①テープを分単位で前後に移動させるタイムサーチ,②ボタンを押す回数に応じて前後の曲が頭出しできる
AMSプレイ,③10キーと前後方向のAMSボタンを併用することで頭出しが行えるAMSサーチ,④プログラ
ムナンバーで直接頭出しできるプログラムナンバーサーチ,⑤スタートIDで曲の頭を約8秒間ずつ再生する
ミュージックスキャン,⑥1曲,テープ全体,A-B間のリピート,⑦プログラム曲を好きな順に並べ替えて再生
するRMSプレイなどの機能が搭載されていました。

機能としては,さらにデジタル・フェードイン/アウトが装備されていました。アナログ入力録音およびテープから
のデジタル出力/ラインアウト出力再生で,レベルを徐々に高めたり,徐々に絞ったりすることが可能となって
いました。フェードイン,フェードアウトタイムは,0.2秒から15秒の範囲できめ細かく設定できるようになって
いました。
入/出力端子は,アナログLINE IN/OUT(ピン端子)と光と同軸のデジタル入/出力端子がそれぞれ1系統ず
つ搭載されていました。光入力と同軸入力の切替は同軸入力の切替は,フロントパネル上のスイッチで行える
ようになっていました。また,光入力は,光ケーブルによるジッターを吸収するサーボ型のデジタル・シグナル・
ノーマライザー回路が採用されていました。

FL表示による表示部には,テープ走行時間を示すカウンター表示や残量時間を示すリメイニング表示,演奏
中の曲の経過時間を示すプログラムタイム,テープトップからの絶対時間を示すアブソリュートタイムの4モード
に切替できるリニアカウンターと-60~0dBを22セグメントで表示するワイドレンジ・デジタルピークメーターを
装備していました。さらに,録音の際,あとどのくらい録音レベルに余裕があるかをdB単位でデジタル表示する
デジタルピークマージン表示を搭載していました。この表示のもととなるデータは,レベルメーター表示用もあわ
せてデジタル処理回路のデータを利用していました。また,デジタルピークレベルメーターを利用したfsマップ機
能により,テープ上のおおよその位置にどのサンプリング周波数で録音されているかを視覚的に知ることがで
きるようになっていました。
表示部は,OFF機能を搭載しており,メーター部のみ消灯/操作時は点灯し,録音・再生時は自動消灯/全点灯
の3つのモードを選択できるようになっていました。さらに,表示部の輝度を3段階に変えられるディマー機能も
装備されていました。


以上のように,DTC-55ESは,DATの開発において中心的なメーカーであったソニーならではの1台でした。
半導体技術を生かした合理的設計や多機能,VTR技術を生かしたメカニズムなど,バランスのとれたコスト
パフォーマンスにすぐれたDATデッキでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



CDからのデジタル直接録音も
可能にしたSCMS対応。
数多くのDATデッキを作り続けてきた
ソニーならではのコストパフォーマンス
の高さを実感いただけるDATデッキです。

いま,もっとも身近なデジタルソース,CDの高音質がそのまま録音できる
SCMS(シリアルコピーマネージメントシステム)対応。
音質劣化を気にすることなくさまざまなCDからお好きな曲をチョイスしたオリジナルテープを作ったり,
8センチCDを編集録音してアルバム風に聴くことも可能。
もちろん衛星放送のデジタル音声も,Aモード/Bモードステレオともデジタルのまま録音できます。
テープオペレーションのための機能も充実。
ソニーオリジナルのリハーサル機能をはじめ,
サブコードを活用したさまざまなプレイが楽しめます。
積極的にDATの開発に取り組み,たゆまず進化させ続けてきたソニーならではの,
クオリティに裏打ちされたコストパフォーマンスの高さをぜひ,あなたのシステムで実感してください。



●主な仕様●


型式 デジタルオーディオテープシステム
チャンネル数 2チャンネルステレオ
サンプリング周波数 48kHz/16ビット直線(録音/再生)
44.1kHz/16ビット直線(DIGITAL INのみ録音/再生)
32kHz/16ビット直線(DIGITAL INのみ録音/再生)
32kHz/12ビット非直線(録音/再生)
エラー訂正 ダブルエンコーデッドリードソロモンコード
エンファシス プリエンファシス(録音時,アナログ入力に対して)OFFに固定
ディエンファシス(再生時)ON/OFF自動切替え
変調方式 8-10変換
周波数特性 2~22,000Hz±0.5dB
ダイナミックレンジ 92dB以上(録音時,エンファシスOFF)
SN比 93dB以上(録音時,エンファシスOFF)
全高調波歪み率 0.005%以下(1kHz)
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・Peak)以下
インターフェース アナログ LINE IN/OUT(ピンジャック)
DIGITAL IN/OUT(EIAJ準拠同軸および光)
電源 AC100V(50/60Hz)
消費電力 28W
大きさ 430(幅)×125(高さ)×350(奥行)mm
重さ 約7.5kg
※本ページに掲載したDTC-55ESの写真,仕様表等は1990年10月のSONYの
 カタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって,
 これら
の写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますので
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