SONY DTC-57ES
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥88,000
1991年に,ソニーが発売したDATデッキ。ソニーは1987年にスタートしたDATを中心になって開
発したメーカーで,デジタルオーディオにおいてもテープレコーダーにおいても,さらに回転ヘッド搭載
のDATのベースとなったVTRにおいてもすぐれた技術を持っていました。こうした技術が総合的に生
かされたDATの分野では,高性能な高級機の開発とともに,普及をめざした機種も展開していきまし
た。そして,DTC-55ESの後継機,あるいはDTC-77ESの弟機として発売されたのがDTC-57ES
でした。

デッキメカには,合理化された2DD+1リールモーターメカニズムが搭載されていました。要となるキャ
プスタン用とヘッドドラム回転用にそれぞれ専用のダイレクト・ドライブモーターを配し,リール用にも専
用のモーターを使用した合理的なメカニズムで,カセットコンパートメントには,テープが目視できる正
立透視型のコンパートメントが採用されていました。
回転ヘッドには,ソニーがVTRで培ったヘッド技術を応用した2ヘッドタイプのものを搭載し,長時間使
用しても均一なギャップ幅が維持できるDAT用のヘッドを搭載していました。

走行系をコントロールするモーターサーボには,大幅にソフトウェア化されたソフトウェアサーボを採用
していました。ソフトウェアの設定いかんで,多彩なコントロールができ,サーチなどでもテープに負担
をかけないように走り始めと停止直前はゆっくり,走行途上は最大200倍速の高速サーチを実現し,
音出し時間の短縮,キュー/レビュー音の改善なども実現していました。

エラー訂正,RAMコントロール,デジタルI/Oなど信号処理用のLSIをわずか1個に集積した新開発
の第2世代LSIを採用していました。このLSIは,1個でゲート数に換算して約2万ゲートに及ぶ高集
積度を誇るものでした。そのほか,ソフトウェアサーボ,メカニズムコントロールなどを制御するマイコ
ンも1個のLSIに集約し,それにともない,部品点数は大幅に削減され,基板構成もシンプルになって
いました。これにより,信頼性が向上し,エラー訂正能力も高まっていました。

録音系のA/Dコンバーターには,当時最新の1ビットタイプのA/Dコンバーターを搭載していました。
A/D変換にともない発生する不要スペクトラムを音楽信号のはるかかなたへシフトさせることができ,
折り返し雑音を防ぐためのローパスフィルターもゆるやかな特性のきわめて軽いタイプのものを使い,
群遅延特性や位相特性の悪化を抑えていました。



再生系のD/Aコンバーターには,当時最新の1bitタイプのパルスD/AコンバーターCXD2561が搭
載されていました。1つの電流源を1つの電子スイッチで毎秒5000万回という高速でON/OFFして
音楽信号をパルスの疎密波として表現する方式で,原理的にグリッチ,ゼロクロス歪み,微分非直線
歪みの発生がないという特徴をもっていました。

DATは,テープ上に音楽とは別にサブコードを記録するスペースが設けられ,それを利用したデジタル
ならではの多彩な機能が実現されていました。スタートID,スキップID,エンドIDという信号を自動・手動
で打ち込むことにより,自在な頭出しが可能になっていました。手動打ち込み時には,0.3秒単位で移
動可能で,打ち込み位置を確認できるリハーサル機能が付いていました。
①テープを分単位で前後に移動させるタイムサーチ,②ボタンを押す回数に応じて前後の曲が頭出し
できるAMSプレイ,③10キーと前後方向のAMSボタンを併用することで頭出しが行えるAMSサーチ
④プログラムナンバーで直接頭出しできるプログラムナンバーサーチ,⑤スタートIDで曲の頭を約8秒
間ずつ再生するミュージックスキャン,⑥1曲,テープ全体,A-B間のリピート,⑦プログラム曲を好き
な順に並べ替えて再生するRMSプレイ,⑧エンドIDあるいは未録音部分をすばやく探すエンドサーチ
などの機能が搭載されていました。
また,専用の時計を内蔵し,録音時に自動的にサブコードに録音した日時を記録するDATE機能も搭
載されていました。

機能としては,さらにデジタル・フェードイン/アウトが装備されていました。アナログ入力録音およびテー
プからのデジタル出力/ラインアウト出力再生で,レベルを徐々に高めたり,徐々に絞ったりすることが
可能となっていました。フェードイン,フェードアウトタイムは,0.2秒から15秒の範囲できめ細かく設定
できるようになっていました。
入/出力端子は,アナログLINE IN/OUT(ピン端子)と光と同軸のデジタル入/出力端子がそれぞれ1
系統ずつ搭載されていました。光入力と同軸入力の切替は同軸入力の切替は,フロントパネル上のス
イッチで行えるようになっていました。また,光入力は,光ケーブルによるジッターを吸収するサーボ型
のデジタル・シグナル・ノーマライザー回路が採用されていました。

FL表示による表示部には,テープ走行時間を示すカウンター表示や残量時間を示すリメイニング表示
演奏中の曲の経過時間を示すプログラムタイム,テープトップからの絶対時間を示すアブソリュートタイ
ムの4モードに切替できるリニアカウンターと-60~0dBを表示するワイドレンジ・デジタルピークメーター
を装備していました。さらに,録音の際,あとどのくらい録音レベルに余裕があるかをdB単位でデジタル
表示するデジタルピークマージン表示を搭載していました。また,デジタルピークレベルメーターを利用し
たfsマップ機能により,テープ上のおおよその位置にどのサンプリング周波数で録音されているかを視
覚的に知ることができるようになっていました。

以上のように,DTC-57ESは,ソニーが当時積み上げてきた技術を投入して,コストパフォーマンスを
高めた巧みな設計が行われた1台でした。外装デザインも,それまで同社のDATデッキがブラックパネ
ルのみであったのに対し,新たにゴールドパネルも登場し,上級機同様にサイドウッドも装備されていま
した。スイッチ類がプラスチック化されていたり,内部のパーツが合理化されていたりと,コストの面の限
界は見られますが,デジタル録音機としてすぐれた性能を持ちつつ,普及をめざしたソニーの意欲が感
じられた1台だったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



デジタル録音のすばらしさをより広く実感していただくため,
高性能化とハイコストパフォーマンスを同時に実現。
DATをよく知っているソニーが作った最新鋭デッキです。

いち早くDATの可能性に注目したソニーは,その能力を高次元に磨き上げる一方,
できるだけ幅広い方に楽しんでいただけるモデルの開発にも取り組んできました。
DTC-57ESは,現時点でのひとつの解答。ある意味で最も進化したDATデッキといえるでしょう。
最新鋭のパルスD/Aコンバーターの搭載をはじめ,デート機能など,機能面も充実。
SCMS(シリアルコピーマネージメントシステム)対応により
音質劣化を気にすることなくさまざまなCDからお好きな曲をチョイスしたオリジナルテープを作ったり,
8センチCDを編集録音してアルバム風に聴くことも可能。
長時間モードを使えば最大4時間(DT-120R使用時)の連続録音が行えますから,
NHK衛星放送やJSBの音声,St.GIGAのデジタル音楽放送も余裕をもって録音できます。
ソニーならではの,クオリティに裏打ちされたコストパフォーマンスの高さをぜひ,実感してください。




●主な仕様●


型式 デジタルオーディオテープシステム
チャンネル数 2チャンネルステレオ
サンプリング周波数 48kHz/16ビット直線(録音/再生)
44.1kHz/16ビット直線(DIGITAL INのみ録音/再生)
32kHz/16ビット直線(DIGITAL INのみ録音/再生)
32kHz/12ビット非直線(録音/再生)
エラー訂正 ダブルエンコーデッドリードソロモンコード
エンファシス プリエンファシス(録音時,アナログ入力に対して)OFFに固定
ディエンファシス(再生時)ON/OFF自動切替え
変調方式 8-10変換
周波数特性 2~22,000Hz±0.5dB
ダイナミックレンジ 92dB以上(録音時,エンファシスOFF)
SN比 92dB以上(録音時,エンファシスOFF)
全高調波歪み率 0.0045%以下(1kHz)
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・Peak)以下
インターフェース アナログ LINE IN/OUT(ピンジャック)
DIGITAL IN/OUT(EIAJ準拠同軸および光)
電源 AC100V(50/60Hz)
消費電力 24W
大きさ 470(幅)×125(高さ)×350(奥行)mm
サイドウッド取り外し時の幅430mm
重さ 約8.2kg
※本ページに掲載したDTC-57ESの写真,仕様表等は1991年6月の
 SONYの
カタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があり
 ます。したがって,これら
の写真等を無断で転載・引用等することは法
 律で禁じられていますのでご注意ください。        
  
  
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