TEAC
F-1
2TRACK TAPE DECK ¥800,000
1976年にティアックが発売したオープンリールデッキ。いわゆる2トラ38機で,その中でも
最上級機にあたるモデルでした。そして,ティアックのデッキ史上の中でも最高級機といえる
まさにプレステージモデルでした。
F-1の最大の特徴は,各部に水晶制御が取り入れられ,非常に精度が高められていること
にありました。高い精度の水晶振動子の発振周波数をキャプスタンモーターの回転制御だけ
でなく,録音バイアス,テンションサーボ,LSIロジックの各部に使用し,テープデッキの神経系
ともいえる部分を水晶精度でロックし,高い精度と安定度を実現していました。
走行系は,デュアルキャプスタン方式で,供給リール側からの外乱をほとんどシャットアウトし
フラッター成分を大幅に低減していました。ヘッドタッチも安定し,スクレープフィルターの効果
とあわせて音の濁りを抑えていました。キャプスタンはダイレクトドライブ方式で,クォーツロッ
ク・ACサーボモーターが使用されていました。また,リールには振動の少ないエディカレントモ
ーターが2基搭載され,全体では,高精度な3モーター構成となっていました。ピンチローラー
は,従来のネオプレン(合成ゴムの一種)に代えて研磨精度が高く耐摩耗性,化学的安定性
にすぐれたポリウレタンが使用されていました。テープガイドは,テープの保護とスムーズな走
行を確保するためにすべてローラーベアリングが使用され,走行摩耗を低減していました。
メカニズムのベースは,本格的なアルミ鋳物で,取り付け部品の垂直精度を高め,重量級の
モーターもしっかり支え,安定性,信頼性を確保していました。
これらの高精度な走行系によりワウ・フラッター0.02%以下(38cm速度)の安定したテープ
走行が実現していました。
定速走行時,早巻き時いずれの場合にもテープテンションを一定に保つために,左右にテンシ
ョンアームが搭載されたテンションサーボ機構が搭載されていました。左右のテンションアーム
がテープのテンションを検出し,これを供給側および巻き取り側のモーターにフィードバックして
リールサイズや巻き径に関係なく一定のテンションを確保し,安定したヘッドタッチ,テープの保
護を実現していました。テープテンションの変化を電圧変化として取り出す検出部に水晶制御が
活用されていました。F-1のテンションサーボは,向かい合った2つのコイルのうち1次コイルに
一定の交流バイアスをかえ,テンションの大きさに応じて誘起する2次コイルの電圧をリールモ
ーターにフィードバックするものですが,この基準となる1次コイルの交流バイアスがクォーツロ
ックされているため,より高い精度のテンションサーボが可能となっていました。
テープ走行の操作系は,軽いタッチでダイレクトに定速走行,早送り,巻き戻しの操作ができる
ロジックコントロールが採用されていました。F-1は,メカニズムのより正確な動作のために,
内部にクロック回路を持ち,クロック回路のパルスを決められた数だけ正確にカウントした上で
次のコントロール指令を与えるようになっている同期型LSIロジックコントロールが搭載されてい
ました。このクロック回路に水晶振動子が使用され,外部からのノイズ等の影響を受けにくい
正確な動作が実現されていました。
ヘッドは,録音・再生・消去の3ヘッド構成で,録音ヘッドと再生ヘッドには硬質パーマロイが使
用され,前面シールド部の材質と形状の工夫により,コンターエフェクトが最小限になるように
していました。ヘッドの位置決めは,アジマス以外無調整で決まる準固定ヘッド方式が採用さ
れていました。定速走行時には,録音及び再生ヘッド前面にシールド板がエアーダンプされて
あらわれるようになっており,外部誘導ノイズをシャットアウトしてSN比を向上させていました。
消去ヘッドは,テープ幅を完全にカバーする効率の高いフルトラック消去ヘッドが搭載されて
いました。
テープカウンターは,LED(発光ダイオード)表示によるリニアカウンターで,速度切換機構に連
動してテープの走行時間を分,秒で表示するようになっていました。カウンター精度は,±0.1%
(760mテープ,定速走行時)の高い精度が確保されていました。
レベルメーターは,応答時間10msecの電子回路を搭載した−40dB〜+5dBの高速応答型の
ピークメーターが装備されていました。
F-1は,テープトランスポート部とアンプ部がセパレートした大型の筐体で,調整機構などが多
彩に搭載されていました。
録音バイアス,イコライザーは,FIXED(固定)とADJ(調整可能)の切換式で,FIXEDポジション
では,スコッチ♯206テープに完全に調整されていました。ADJポジションでは,内蔵の1kHz
/10kHzテストトーンオシレーターを使って,測定器なしで精密な調整が可能となっていました。
また,録音・再生のイコライザー特性は,一般的なNAB規格と一部の業務用機器に採用されて
いるBTS規格の両方に対応し,スイッチで切換えられるようになっていました。
入力系は,LINEとMICが備えられ,それぞれ独立したレベルコントロールが装備されていまし
た。また,MIC入力には,20dBのアッテネーターが装備され,SN比の劣化が少ないNF型のアッ
テネーターが採用されていました。
機能的には,早送りの状態でキューレバーを押し下げると音がモニターできるキューイング機構
テープの編集の際,PLAY操作するとテイクアップリールが止まったままテープが送り出されるエ
ディット機構,再生時のテープ速度を±6%変えられるピッチコントロールなどが搭載されていま
した。
ティアックらしいところとして,専用のdbxユニットRX-10(¥78,000・F-1,
AL-700用)
が接
続できるENCORDER端子が装備されていました。
以上のように,F-1は,テープデッキの分野で多くの機種を出していたティアックの中でも最上級
機で,水晶制御を各部に取り入れた高度で高精度な内容は,ティアックの高い技術を示したもの
でした。