PIONEER F-500
STEREO TUNER ¥49,800
1979年に,パイオニアが発売したFM/AMチューナー。パイオニアは,チューナーのブランドイメージは強くはあり
ませんが,早くからすぐれたチューナーを作っていました。そして,あまり知られていませんが,トリオのチューナーの
イメージが強い「パルスカウント方式」の検波回路を採用したチューナー・F-700を発売し,すぐれた技術を示して
いました。F-500は,そうしたF-700の弟機として発売された中級クラスのチューナーでした。
F-500最大の特徴は,上級機のF-700同様に,「ビートレス・パルスカウント方式」と呼ぶパルスカウント検波を採
用していることでした。パルスカウント方式は,トリオが初めてFMチューナーに採用した方式で,従来LCによる共
振回路を用いて行っていた検波段にデジタル技術を導入したものでした。FM波を一度パルス化しデジタル的に処
理することで,ひずみの原因となる非直線性や温度変化によるドリフトを排除したすぐれた検波方式でした。
そして,IF(中間周波数)を2段階設けるダブル・コンバート方式を採用して高感度と優れた特性を実現していました。
ダブルコンバート方式で発生しやすいビートに対する対策をとっていることが特徴で,わざわざ「ビートレス」と称した
のもそのためでした。第2ミキサー段にリニア掛け算器を使用し,高調波による和や差の成分によるビートを抑え,
さらに,第2ローカル発振器にプッシュプル回路を採用し,ここでも高調波を出にくくし,ビートの発生を抑える設計
でした。F-500では,このパルスカウント検波のブロックはIC化され合理化された設計となっていました。
フロントエンドは,5連バリコンを搭載し, DD(Double Diffused=二重拡散)MOS FET及びD(Dual Gate)MOS
FETによるシングル・チューン→ダブル・チューン→シングル・チューンという構成になっていました。RFコイルには,
空芯コイルを使用し,実用感度の高さとRF相互変調特性をはじめとする各種妨害排除能力の高さを両立させてい
ました。
IF部は,受信状態に合わせてWIDE,NARROWの切換が可能で,WIDE時には,群遅延特性が平坦で低歪みの
セラミックフィルターのみの構成で音質を重視し,NARROW時には,2素子の狭帯域セラミックフィルター5個を使
用し,実効選択度60dB(300kHz)という高選択度を確保した構成でした。
MPX部は,コンポジット信号そのものが,能動素子を通過せず,不要な信号はアースに落とされるようにしたダイレ
クトスルーMPXとしてSN比と歪率特性を高めていました。チューニングノブから手を離すと周波数をロックするタッ
チセンサー・サーボロックも,備えられ,温度や湿度の変化による同調点のズレを抑えていました。
比較的薄型の筐体としてデザインされ,ワイドな横行スケールにサーボロック状態を示すインジケーターを兼ねる指
針が配されたデザインで,メーターはシグナル(信号強度)メーターとチューニングメーターが装備されていました。
機能的には,オーソドックスで,MPXノイズフィルター,バズミューティング回路,RECレベルチェック機構,マルチ
パス端子などが装備されていました。
AM部は,ICによるものでしたが,背面にバーアンテナが搭載され,WIDE/NARROW切り換えも装備されており,
WIDEでは音質もかなりすぐれたものがありました。
以上のように,F-500は,パイオニア初のパルスカウント方式チューナーの上級機F-700の技術を継承し,より合
理化した設計などもあり,性能的にほぼ匹敵するものをもちながら,価格は抑えられていました。その意味で,よりコ
ストパフォーマンスが高い使いやすいチューナーであったといえると思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
広帯域・低歪率,
しかもビートをおさえた音質重視設計。
ビートレス・パルスカウントチューナー。
◎ビートの発生を抑えた,広帯域直線検波。
ビートレスパルスカウント方式。
◎IF部は,WIDE-NARROW切換え回路を
装備。
◎SN比と歪率特性を高めた
ダイレクトスルーMPX。
●チューニングノブをまわし,同調点でノブから手を離すと
その周波数をロックする,タッチセンサー・サーボロックを
採用。
●AM局の9kHz間隔チャンネルプランに対応して,
AMのIF部にもWIDE-NARROW切換えを装備。
●MPXノイズフィルター,バズミューティング回路,
RECレベルチェック機構,マルチパス端子。
●主な仕様●
(FM部)
SN50dB感度 | 1.8μV 新IHF16.2dBf(モノ)
20.0μV 新IHF37.2dBf(ステレオ) |
実用感度 | 0.95μV 新IHF10.8dBf(モノ) |
SN比 | 90dB(モノ,85dBf入力時) 85dB(ステレオ,85dBf入力時) |
高調波歪率 | WIDE モノ:0.03%(100Hz)
0.03%(1kHz) 0.03%(10kHz) ステレオ:0.04%(100Hz) 0.04%(1kHz) 0.09%(10kHz) NARROW モノ:0.08%(1kHz) ステレオ: 0.2%(1kHz) |
キャプチュアレシオ | WIDE:0.8dB NARROW:2.0dB |
実効選択度 | WIDE :40dB(400kHz) NARROW:60dB(300kHz) |
ステレオセパレーション | WIDE:60dB(1kHz) 50dB(20Hz~10kHz) |
周波数特性 | 20Hz~15kHz±0.5dB |
RF相互変調特性 | 97dB(2.5MHz離調),85dB(800kHz離調) |
イメージ妨害比 | 120dB |
IF妨害比 | 100dB |
スプリアス妨害比 | 110dB |
AM抑圧比 | 70dB |
サブキャリア抑圧比 | 70dB |
ミューティング動作レベル | 4.9μV(25dBf) |
アンテナ入力インピーダンス | 300Ω平衡型,75Ω不平衡型 |
(AM部)
実用感度 | 300μV/m(バーアンテナ) 15μV(外部アンテナ) |
選択度 | WIDE:18dB,NARROW:50dB |
SN比 | 50dB |
キャプチュアレシオ | WIDE:0.8dB NARROW:2.0dB |
イメージ妨害比 | 45dB |
IF妨害比 | 40dB |
(出力部)
出力端子
(出力レベル/出力インピーダンス) |
FM(100%変調):650mV/2.2kΩ(FIXED) 0mV~1.3V/2.2kΩ(VARIABLE) |
マルチパス出力 | 130mV/10kΩ(VERTICAL) 400mV/10kΩ(HORIZONTAL) |
(電源部・その他)
電源電圧 | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 22W |
外形寸法・重量 | 420(W)×98(H)×403(D)mm・6.8kg |
※本ページに掲載したF-500の写真,仕様表等は1979年11月の
PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に
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