F-717の写真
PIONEER F-717
FM/AM DIGITAL SYNTHESIZER TUNER ¥54,500

1987年にパイオニアが発売したFM/AMチューナー。パイオニアは,チューナーのイメージはあまり強い
ブランドではありませんが,1970年代より,性能がよく実用的なチューナーを作り続けてきたブランドで,
パルスカウント検波のバリコン式チューナーF-700や,DDデコーダーのF-120など印象に残る優れた
チューナーも数々あります。そして,人気機種F-120,F-120Dの技術的流れを汲むチューナーがこの
F-717でした。

F-717にもパイオニア自慢のD.D.デコーダーが搭載され,最大の技術的特徴となっていました。D.D.
は,デジタル・ダイレクトの略で,検波,復調をデジタル信号で行おうという方式でした。パルスカウント方式
など,FM波をパルスに変換しデジタル化して扱う技術が進められていきましたが,それを一歩進めた形に
なった方式でF-120で開発され初搭載されました。従来のチューナーは,アナログ信号であるFM信号に
パルス波の一種,矩形波であるサブキャリアを掛算して復調していました。D.D.デコーダーでは,発想を
転換し,FM信号をパルス波にし,サブキャリアを正弦波にして掛算するという方式でした。これにより,検
波,復調という2つの行程を一気にやってしまうシンプルな回路となり,また,サブキャリアがなめらかな正
弦波であるためオーディオ信号への悪影響も抑えられ,さらに53kHz以上のノイズをカットするためのアン
チバーディーフィルターも必要としないという巧妙な方式でした。このD.D.デコーダーは,1985年発売の
F-120DでD.D.デコーダーTYPEUに改良されていました。TYPEUでは,FM信号をデジタル信号に変
換するパルス変換部にC-MOS ICを採用して波形そのものの精度を向上させ,いっそう低歪率・高SN比
を実現していました。
F-717に搭載されたD.D.デコーダーはTYPEVにあたり,TYPEUまでのD.D.デコーダーがメインの検
波方式にパルスカウント方式を採用していたのに対し,TYPEVではよりシンプルなPLL方式を採用し,第2
IFが不要となるため,さらに信号系のシンプル化が実現され,SN比も向上していました。F-717の後継機種
F-757ではクオドラチュア検波となっており,そのため,F-717はパイオニアの単品コンポーネントしての本
格派チューナーの中では,唯一のPLL検波採用の機種でもありました。

DDデコーダータイプVローカル発振器のブロック

フロントエンド部は,F-120シリーズを継承し,相互変調特性を高める(隣接局の妨害を防ぐ)ために,同調
素子にバリキャップを2つ使ったツインバリキャップを採用し,4連バリコン相当となっていました。また,FET
採用のバランスドミキサーを搭載していました。また,トラッキングオシレーター回路という,アンテナ同調段と
ローカル発振部の周波数の関係を常にリニアに保つ回路を採用し,歪みの発生を抑えていました。ローカル
発振部は,振動による音質への影響が出るのを防ぐため,樹脂を充填した構造となっていました。さらに,底
部に強度を高めたハニカムシャーシを採用することで,外部からの振動に強い筐体構造としていました。

IF部は通常,WIDEとNARROWのフィルターを用意し,受信状態に応じて選択度切り換えを行う方式がとら
れていますが,歪みは少ないが選択度の低下するWIDEフィルター,選択度は高いが歪みが多いNARROW
フィルターとというジレンマが生じます。F-717では,この問題を解決するべく「ARTS(Active Real Time
Tracing System)」が新搭載されていました。「ARTS」は,フィルターをNARROWのみとし,選択度のすぐ
れたNARROWフィルターの中心周波数をを受信信号に合わせて追随させることで,歪率と選択度の両方の
性能を向上させていました。

チューナーとして,機能的にはオーソドックスですが,必要な機能はしっかり搭載されていました。プリセットは
FM,AMランダムに24局が可能で,オートチューニングは,電界強度に合わせて弱・中・強の3段階に選択で
きるようになっていました。また,プログラムメモリー機能を利用すると,電源のON,OFFごとにメモリーした順
番に3局までメモリーした放送局を呼び出すことができ,オーディオタイマーと組み合わせると3局まで別の放
送局のエアチェック(死語?)も可能となっていました。そのほか,ステレオ/モノ/ハイブレンドのMPXモード切
替えや330Hz,50%変調のREC基準信号の発信回路も装備されていました。
また,FMアンテナの端子が2系統備えられ,前面パネルのスイッチで切り換えられるようになっており,アンテ
ナを2つの方向に使い分けられるようになっていました。

以上のように,F-717は,F120シリーズを受け継ぎ,さらに新技術を投入したチューナーで,音質と受信性能
のバランスのとれた使いやすいチューナーでした。バランスのとれたクセのない音はパイオニアらしいものでし
た。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




新システムARTS搭載。
高感度(9.3dBf)高S/N(92dB:ステレオ)
低歪率(0.008%:1kHz・ステレオ)。


◎長距離受信や近距離受信でも高感
 度を保つ,新システムARTSを搭載。
◎メイン検波にPLL方式を採用。高S/N
 低歪を達成したDDDタイプV搭載。
◎各部の振動や共振を徹底して解析。
 ハニカム形状などの採用で無共振化を
 はかっています。
◎聴きたいそれぞれの局に向けて,アンテ
 ナを切り換えて使い分けられるFMマルチ
 アンテナ端子。
◎その他の機能

  ●24局ランダムプリセット
  ●チューニングモード機能
  ●プログラムメモリー機能
  ●MPXモード機能
  ●RECレベルチェック




●主な仕様●



■FMチューナー部■

受信周波数
76〜90MHz
実用感度 モノラル9.3dBf(0.8μV/75Ω)
SN比 モノラル:100dB ステレオ:92dB
高調波歪率 モノ    :0.008%(100Hz),0.005% (1kHz),0.01%(10kHz) 
ステレオ:0.01%(100Hz),0.008%(1kHz),0.05%(10kHz) 
キャプチュアレシオ 0.8dB
実効選択度 90dB(400kHz) 60dB(300kHz)
ステレオセパレーション 1kHz:70dB 20Hz〜10kHz:54dB
周波数特性 20Hz〜15kHz +0.2,−0.8dB
イメージ妨害比 80dB
IF妨害比 100dB
スプリアス妨害比 80dB
AM抑圧比 70dB
サブキャリア抑圧比 65dB
ミューティング動作レベル 25.2dBf(5μV/75Ω)
アンテナ 75Ω不平衡型
出力端子
出力レベル/出力インピーダンス:650mV/900Ω(FM100% 変調)



■AMチューナー部■

受信周波数
522〜1,629kHz
実用感度 150μV/m(付属ループアンテナ)
選択度 40dB(±9kHz)
SN比 50dB
イメージ妨害比 40dB
IF妨害比 60dB
アンテナ
ループアンテナ(付属)
出力端子
出力レベル/出力インピーダンス:150mV/900Ω(AM30%変 調)



■電源部・その他■

電源電圧 AC100V,50/60Hz
消費電力(電気用品取締法) 18W
外形寸法 420(W)×84(H)×316(D)mm
重量 4.6kg

※本ページに掲載したF-717の写真,仕様表等は1989年9月の PIONEER
 のカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。

 

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