OTTO FMT-650
FM/AM STEREO TUNER 49,800
1973年に,オットー(三洋電機)が発売したFM/AMチューナー。三洋電機は,1966年に,OTTO(オットー)の
ブランド名でモジュラーステレオ・DC-434を発売し,オーディオブランド・オットーをスタートしました。ブランド名の
OTTOは”Orthophonic Transistorised Technical Operation”の略で,「トランジスタ技術を駆使し,真の音
を追求した音響装置」という意味でした。FMT-650は,中級プリメインアンプDCA-650のペアを想定された中級
クラスのチューナーで,チューナーではブランド的にあまり知られていないオットーブランドでしたが,正攻法で作り
上げられたチューナーでした。

フロントエンドは,アンテナ回路,ジャンクション型FETを使用したRF増幅段,ダブルチューニング,そしてバイポー
ラトランジスターによる局部発振とミキサー段から構成され,4連バリコンが搭載されていました。4連バリコンとFET
の組み合わせの本格的な構成で,弱電界に対しては感度1.6μV,強電界に対しては100dB以上までの特性を
保証していました。さらに,フロントパネルには-20dBのアッテネーターが装備され,120dB以上の超強電界に対
しての対応も行われ,弱電界から強電界まで受信のダイナミックレンジが極めて広く確保されていました。

IF段の構成は,最初にAGC回路があり,すべてIC化された6個の差動増幅回路と3個のリニアフェイズフィルター
そして最後にディスクリミネーターとなっていました。当時のチューナーとしては珍しく,IF段の性能を大きく左右す
るフィルターにリニアフェイズフィルターが搭載されていたことが大きな特徴でした。リニアフェイズフィルターには,
(1)位相特性が平坦,(2)リップルが存在しない,(3)完全調整可能,(4)減衰度良好などのメリットがあり,IF段
の特性を大きく高めていました。リニアフェイズフィルターを世界で初めて搭載したチューナーは,マッキントッシュ
のMR-77ですぐれた低歪率特性を実現していました。FMT-650は,世界で2番目,国産では初のリニアフェイズ
フィルター搭載のチューナーということでした。リニアフェイズフィルターの性能を最大限に発揮させるために,全段
がすべて差動増幅ICになっており,理想的な電流リミッタがかかり,入出力インピーダンスが入力レベルに対して
変わらないという特徴を利用していました。さらに,逆伝達容量が極めて小さいので高い利得を安定して確保でき
ていました。
こうした構成のIF段により,キャプチュアレシオは,70dB入力で1dB以下,90dB以上で0.5dB以下というすぐれ
た特性を実現していました。実効選択度も,40dB入力に対して400Hz離調時に約65dBを実現していました。
ディスクリミネーター(検波回路)は,Sカーブのきわめてリニアなレシオ検波方式が採用され,ピーク幅は700kHz
と広帯域が確保されていました。ディスクリトランスの位相特性も厳密に検討されていました。AGC回路も,このク
ラスでは贅沢ともいえる4倍電圧整流回路になっていました。

MPX回路は,PLL方式が採用されていました。PLL(フェイズロックドループ)方式では,電圧により制御される周
波数発振器で76kHzをパルス発振し,これを2回分周して19kHzを作り,これをパイロット信号と位相比較して,
ずれていれば直流電圧を発生させ,この直流電流がサーボ系を通して発振周波数,スイッチングに必要な38kHz
を周波数的にも位相的にパイロット信号と正しい関係になるように制御する回路となっており,通常のLCの同調回
路で19kHzのパイロット信号を逓倍して38kHzの復調信号をつくる方式に比べ,コイルレスで,外部からの妨害
や雑音の影響を受けにくく,安定したスイッチングでセパレーションが改善されていました。
スイッチング回路は,2組のトランジスターによる差動回路からなるGilbert掛算器によるトランジスター差動ダブル
バランス型スイッチングで,メインの差動回路で復調した信号に,サブの差動回路で復調した信号を逆相にして注
入してクロストーク成分をキャンセルして低域から高域まで平均して大きなセパレーションを実現していました。さら
に,クロストーク成分は,低周波段のFETによるセパレーション・コントローラにより,LとRの一部が逆相で互いに
注入されてキャンセルされるようになっていました。

低周波段は,ステレオミューティング回路にセパレーションコントロール回路が続き,ローパスフィルターを介して
エミッタフォロアの低歪率の二段直結アンプという構成になっていました。ローパスフィルターはLC三段構成で,厳
重にパックされており,オーディオ帯域の周波数特性,残留パイロット信号やスイッチング信号のカットなど,厳密
な特性を保持していました。
電源部は,プリメインアンプDCA-650のプリアンプのものとほぼ同一の,リップルフィルターを兼ねた定電圧回路
で定電圧化されたものが搭載されていました。

機能的には,オーソドックスながらしっかりと各機能が搭載されていました。弱電界でのステレオ受信時に多い高
域ノイズをL・Rchブレンドして聴感上のS/N比を改善するMPXノイズフィルター,ONにしておいて選局するとステ
レオ局のみ入るステレオミューティングスイッチ,トランジスターを3石使った本格的なシュミットトリガー回路によっ
て局間ノイズ,離調時ノイズをカットする16μV~160μVにわたって連続可変で最適のレベルを選べるFMミュー
ティング,超強電界に対応し,20dBの入力減衰回路・FMアッテネーター,音量を調整する出力レベル調整ツマミ
などが搭載されていました。メーターは,電波強度を表示するシグナルメーターと同調点を表示するFMチューニン
グメーター(センターチューニングメーター)が搭載されていました。

AM部は,3連バリコンによる同調型RF1段増幅回路を採用し,イメージ妨害比,IF妨害比を向上させていました。
AGC回路は,従来のリバースタイプではなく,フォワード型を採用しており,電流を増加させることで入力ゲインを
低下させ,高調波歪,混変調歪を抑えていました。



以上のように,FMT-650は,FMAMチューナーとして中級機でしたが,三洋がオットーブランドとしてしっかり
と技術的に吟味した設計を行い,オーソドックスながら安定した性能を実現していました。ブランド故に人気モデ
ルとはいえませんでしたが,しっかりと作り上げられたチューナーでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



「リニアフェイズフィルタ」内蔵。
低歪率,明澄の音。
高分離,豊麗な拡がり・・・。

◎4連バリコンとFETのコンビ・・・
 極めて広い受信のダイナミックレンジです。
◎栄光のリニアフェイズフィルタ・・・
 平坦な遅延特性!
◎リニアフェイズフィルタは,
 素晴らしい歪率とセパレーションに結果・・・!
◎リニアフェイズフィルタの特長は,
 さらに完全な同調と十分な離調特性!
◎PLL方式!・・・あらゆる条件下で
 常に正確な38kHzの復調信号を作ります。
◎トランジスタ差動ダブルバランス型スイッチング!
◎キャリアリークをシャープにカットする
 三段LCローパスフィルタ,など・・・・・。
◎AMも,三連バリコンRF増幅付きで,
 Forward AGC採用・・・クリアで低歪率!




●FMT-650 定格●


(FM部)

感度(IHF)  1.6μV 
キャプチュアレシオ  1.0dB 
実効選択度  65dB 
SN比  70dB 
イメージ妨害比  85dB 
IF妨害比  100dB 
スプリアス妨害比 95dB 
AM抑圧比  55dB 
高調波歪率  0.2% 
ミューティング感度  16μV~160μV 
アンテナ入力アッテネーター  -20dB 
アンテナ入力インピーダンス  300Ω平衡,75Ω不平衡 



(FM MPX部)

セパレーション 1kHz      :40dB
20Hz~15kHz:30dB 
周波数特性 20Hz~15kHz 
キャリアリーク抑圧比  70dB 
SN比  65dB 
高調波歪率  0.4% 



(AM部)

感度(バーアンテナ)  200μV/m 
選択度  35dB 
SN比  50dB 
イメージ妨害比  65dB 
IF妨害比  65dB 
歪率  0.6% 
アンテナ  フェライトバーアンテナ 



(低周波部・電源その他)

出力端子(レベル,インピーダンス) REC OUT:700mV 3kΩ
VARIABLE:0~1V 1kΩ 
電源電圧  AC100V 50/60Hz 
定格消費電力  17W 
電源コンセント(スイッチ非連動)  1個 200W 
寸法  420W×130H×330Dmm 
重量  7.5kg 
※本ページに掲載したFMT-650の写真,仕様表等は,1973年の
 OTTOのカタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に著
 作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
 等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

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