AKAI
GX-9
STEREO CASSETTE DECK ¥99,800
1984年に,アカイが発売したカセットデッキ。アカイは,オープンリールデッキの時代から伝統的に高い
テープデッキ技術を持ち,すぐれたテープデッキを多く発売していました。1980年代に入って,1981年
には,
GX-F95,1982
年には,
GX-F91,1983
年には
GX-R99と,高性能の
高級デッキを発売してい
きました。そんな中1984年に発売された本機は,発売当時,これらの最上級機的存在のモデルたちに
比べ,やや地味な印象を与えていましたが,オーソドックスに煮詰められた高性能デッキでした。
ヘッドは,アカイ自慢の「スーパーGX(Glass & X’tal Ferrite)ヘッド」によるコンビネーション3ヘッドが
搭載されていました。この「スーパーGXヘッド」は,フェライト素材を独自の加工技術によりローノイズ・ク
リスタル化(単結晶化)し,これをヘッドコアとシールドコアに用い,全体を高硬度ガラスで固めたもので,
高域でのエディカレントロス(渦電流損失)が極めて小さく,高い透磁率と飽和磁束密度,広い周波数特
性を実現し,かつ高い耐摩耗性を持ち,ゴミが付着しにくいなどの利点も持ち,優れた音質と高い耐久性
を実現していました。GX-9では,3ヘッドの利点を生かし,録音ヘッドに4μ,再生ヘッドに1μと,それぞ
れに最適なヘッドギャップ巾が設定され,音質面でさらに優れた特性を実現していました。
走行系は,2組のキャプスタンとピンチローラーでテープを挟み込み,安定走行とヘッドタッチの均一化
を実現する,クローズドループ・ダブルキャプスタン方式が採用されていました。キャプスタン軸は,テイ
クアップ側の直径を2.3mm,サプライ側を2.5mmとわずかに径を変え,回転周期の重なりによる変調
ノイズ等の発生を抑えていました。さらに,2本のキャプスタン・シャフトにアカイ独自の逆電ハードクロー
ムメッキ処理を採用して,テープのグリップ率を上げ,スリップ現象を抑えていました。
駆動系は,キャプスタン用とリール用,メカ駆動用それぞれに専用のモーターを搭載した3モーター構成
がとられていました。キャプスタン駆動には,高い回転精度とハイトルクを誇るアカイ独自のブラシレス,
コアレス,スロットレスFGサーボDDモーターが搭載されていました。フライホイールには十分な厚みをとっ
た慣性モーメントを高めたものが搭載され,リール用には,ハイトルクのDCモーターが搭載され,シンプ
ルなリールドライブ機構により,安定したテープ走行が確保されていました。さらに,テープのホールド範
囲を広げて圧着ムラをなくし,アジマスズレやテープエッジのカールを防ぐ独自のデュアルワイドテープガ
イドや,リールドライブ機構に内蔵されたテープたるみ除去機構もあいまって,より確実なテープ走行が実
現されていました。
メカニズムの動作は,プランジャーによらず,マイコン制御のメカ駆動専用カムモーターとカムの組み合わ
せで行われる「クィック&クワイエットメカニズム」が採用され,迅速で静かな動作が実現されていました。
録再アンプ系は,アンプ回路,電源部,パーツ等の面で,音質重視の設計で強化されていました。全増幅
段の完全DC化,再生ヘッドと再生イコライザーアンプのダイレクトカップリング,アンプブロックとドルビー
ブロックの完全分離,オーディオ専用パーツの投入などが行われていました。
再生イコライザーアンプには,新開発のカレント・インバーテッド・プッシュプルアンプが採用されていました。
このアンプは,FETの差動アンプ出力を電流反転(カレント・インバート)し,カレントミラー段を介してプッシュ
プル構成としており,この出力にSEPPバッファーが設けられていました。これにより,広帯域化,低歪化
高スルーレイト,広ダイナミックレンジが実現されていました。
録音アンプ系は,対称型ドライブ段に,プッシュプル型定電流出力回路が採用され,広帯域にわたって直線
性にすぐれた録音ヘッド駆動が実現されていました。また,録音アンプ自体は,完全な無帰還型アンプとさ
れていました。
アンプ動作の源となる電源部には,負荷変動に対して高速かつ高平衡で,高精度の制御能力が実現された
新設計のツインアクティブ電源が採用されていました。
GX-9の大きな特徴として,「ダブルチューニングバイアスシステム」がありました。これは,2段階のバイアス
調整とクィックオートチューニングを組み合わせ録音ソースや好みに合わせた音づくりができる,アカイ独自
のチューニングシステムで,GX-R99に搭載されていた,クィックオートチューニング+AT(オート)チューニン
グバイアスをベースに改良したものでした。クィックオートチューニングは,イコライザー,録音感度を調整して
周波数特性をフラットにするオートチューニングで,わずか2秒以内でチューニングが終了する驚異的なスピ
ードも大きな特徴でした。GX-R99のATチューニングバイアスは,周波数特性をフラットに保ちながらMOL
特性を変えて音づくりができるシステムでしたが,ダブルチューニングバイアスシステムでは,さらに高域の周
波数特性を可変として,より微妙な音づくりが可能となっていました。
具体的なシステムとしては,最初にMOL特性に主眼を置いて録音ソースのエネルギーバランスに応じてバイ
アスを設定し,その後クィックオートチューニングで周波数特性がフラット化され,その上で,2度目のバイアス
調整で高域の周波数特性を微妙に変化させて音づくりを行うというもので,シャープなエッジの効いた音から
マイルドな落ち着いた音まで自在にコントロールできる便利なものでした。
前面パネルの中央部上半分には,FL表示によるディスプレイ部が配置され,各種の表示が行われるようにな
っていました。FLバーメーターによるレベルメーターは,PEAK表示に加えてSPECTRUM表示が設けられた
2モード,2色表示のものが搭載されていました。SPECTRUM表示は,アカイ独自のもので,入力ソースの中
低域成分と高域成分を分割表示し,バーメーターの上下に使用テープタイプに応じた中低域MOL(MML)と
高域MOL(SOL)を表示するMOL表示とあわせ,バイアス設定の目安となる機能でした。
テープカウンターは,4桁電子カウンターで,通常の4桁カウンター表示に加えて,分秒単位のプレイ経過時間
表示(ELAPSED),残量表示(REMAIN)が可能となっていました。残量表示は,自動的にテープのサイズ
(C-90,C-60,C-46)を検出するオートテープサイズ検出機構が搭載されており,プレイ中のテープでも残
量を高精度に計算して表示するようになっていました。
GX-9はシーリングパネルを採用しているため,シンプルに見えますが,カセットデッキとしては多機能な1台で
した。誤って録音した時,ワンタッチでミス録音の頭へ巻き戻し4秒間のミュート録音スタンバイとなる「レックキャ
ンセル機能」,テープ収録曲のイントロを10秒間ずつスキップ再生する「イントロスキャン機能」,前後1曲の頭
出し機構「IPLS」,ワンタッチでカウンターの”0000”位置へ巻き戻し/早送りし,オートプレイを開始する「QM
SS(クィック・メモリー・サーチ・システム)」が搭載されていました。「オートフェーダー」「オートモニター」「オート
ミュート」「オートテープセレクター」など,録音時の自動化機能を搭載し,カセットドアは,GX-F91以来のダイ
レクトリードイン,パワーイジェクトを採用するなど,GX-F91以来の多機能化,自動化が継承されていました。
ノイズリダクションとしては,ドルビーが搭載され,Bタイプに加えCタイプも搭載されていました。
パーツの面でも,コンデンサー,抵抗等,オリジナル仕様のオーディオ専用品が使用されていました。再生イコ
ライザーや録音イコライザー等には,信頼性の高い金属皮膜抵抗が採用され,再生イコライザーアンプの入力
段には,低ノイズのデュアルFETが,ツインアクティブ電源には,ハイスピード,ハイパワーのMBIT(Multi Base
Island Trasistor)が使用されていました。また,標準トランジスターとして,FBET(Fold Back Electrode
Tran
-sistor=折り返し電極トランジスター)が採用されていました。基板上の重要箇所,付属ケーブルにいたるまで
音の経路に純度99.99%のOFCによるシールド線が使用されていました。
以上のように,GX-9は,スリムな筐体にしっかりとした技術と物量,多機能が収められた高性能なデッキでした。
テープデッキに伝統的にすぐれた技術をもつアカイらしさがしっかりと表現された1台でした。上位モデルと下位
のモデルの間にはさまれ,やや地味な存在となっていたモデルでしたが,帯域内をきちんと再生するクリアな音
を持つ実力機でした。そして,このモデルをベースに,さらに後継の主力モデルが作られていくことになりました。