AKAI GX-93
STEREO CASSETTE DECK ¥99,800
1986年に,アカイが発売したカセットデッキ。当時のアカイのカセットデッキの最上級機で,アカイブ
ランド最後の高級デッキとなった1台でした。そして,この後A&Dブランドへと移行していくこととなりま
した。
GX-93の最大の特徴は,カセットデッキとしての音質をより高めるために,電源部,アンプ部の強化
が徹底的に行われていたことでした。
マイコン制御のメカニズム系と音楽信号に関わる信号系の電源を,パワートランスの巻線から分離し
た独立電源構成とし,マイクロコンピュータのパルスによる高周波雑音成分の音質への悪影響を抑え
ていました。さらに,アンプ回路と非直線信号成分の多いノイズリダクション回路の電源も独立させ,そ
れぞれ±2電源構成として,相互干渉を防ぎ,アンプ系への悪影響を抑えていました。録再アンプ回路
には,負荷変動に対して高速かつ高平衡で,高精度の制御能力が実現されたGX-9以来のツインアク
ティブ電源が採用され,安定した電源供給能力と低出力インピーダンス化による低域信号への応答性
が確保されていました。
録音アンプは,無帰還プッシュプルというシンプル化を追求した回路構成で,これを定電流駆動駆動す
るという強力なドライブ方式により,広帯域にわたって直線性にすぐれた録音ヘッド駆動が実現され,
高域のリニアリティが高められていました。
再生イコライザーアンプも録音アンプ同様に,シンプル&ストレートをめざしたもので,ヘッド/アンプ初
段間のカップリングコンデンサーを排した直結入力が採用され,増幅素子には,入力段差動回路を
ローノイズJ-FETで構成した高入力インピーダンスのデュアルオペアンプが採用されていました。さら
に,外部位相補償を行うことで,安定性の高いツインアクティブ電源ともあいまって高スルーレート,高
安定度の動作が確保されていました。
録再ヘッドには,「スーパーGXヘッド」を改良強化した「NEWスーパーGXヘッド」が搭載されていました。
アカイ自慢の「スーパーGXヘッド」は,フェライト素材を独自の加工技術によりローノイズ・クリスタル化
(単結晶化)し,これをヘッドコアとシールドコアに用い,全体を高硬度ガラスで固めたもので,高域での
エディカレントロス(渦電流損失)が極めて小さく,高い透磁率と飽和磁束密度,広い周波数特性を実現
し,かつ高い耐摩耗性を持ち,ゴミが付着しにくいなどの利点も持ち,優れた音質と高い耐久性を実現
していました。GX-93では録再独立型のコンビネーションヘッドであるため,録音ヘッドに4μ,再生ヘッ
ドに1μと,それぞれに最適なヘッドギャップ巾が設定されていました。「NEWスーパーGXヘッド」では
これをベースにさらにリファインしたもので,ヘッドの巻線に伝送歪が少ないLC-OFC(線形結晶無酸
素銅)を採用したことで,微小レベルの解像力を一段と向上させていました。
走行系は,2組のキャプスタンとピンチローラーでテープを挟み込み,安定走行とヘッドタッチの均一化
を実現する,クローズドループ・ダブルキャプスタン方式が継承されていました。キャプスタン軸は,テイ
クアップ側とサプライ側の径をわずかに変え,さらにフライホイールの直径を変えることにより,回転周
期の重なりによる変調ノイズ等の発生を抑えていました。さらに,2本のキャプスタン・シャフトにアカイ
独自の逆電ハードクロームメッキ処理を採用して,テープのグリップ率を上げ,スリップ現象を抑えてい
ました。また,一般にヘッド側面に配置されるテープガイドを分離配置し,同時にテープとの接触面を
幅広のアール面とした構造のデュアルワイドテープガイドとして,カセットハーフのバラツキへの対応
性,テープのカール,トラックズレ,ヘッドタッチの不均一,テープの蛇行などの問題の改善を実現して
いました。
駆動系は,キャプスタン用とリール用,メカ駆動用それぞれに専用のモーターを搭載した3モーター構成
がとられていました。キャプスタン駆動には,高い回転精度とハイトルクを誇るアカイ独自のブラシレス,
コアレス,スロットレスFGサーボDDモーターが搭載されていました。さらに,GX-93では,キャプスタン
のダイレクトドライブモーターに水晶発振器の高精度な周波数を基準に位相制御するクォーツロック方
式が採用され,より安定した回転を確保していました。リール用には,ハイトルクのDCモーターが搭載
され,シンプルなリールドライブ機構により,安定したテープ走行が確保され,
メカニズムの動作は,プ
ランジャーによらず,マイコン制御のメカ駆動専用カムモーターとカムの組み合わせで行われる「サイレ
ントメカニズム」が採用され,迅速で静かな動作が実現されていました。
GX-93は,アカイのデッキらしく,録音・再生に関する多機能化や自動化が行われていました。誤って
録音した時,ワンタッチでミス録音の頭へ巻き戻し4秒間のミュート録音スタンバイとなる「レックキャン
セル機能」,テープ収録曲のイントロを10秒間ずつスキップ再生する「イントロスキャン機能」,前後1
曲の頭出し機構「IPLS」,巻き戻し後自動的に再生する「オートプレイ」等が搭載されていました。「オー
トモニター」「オートミュート」「オートテープセレクター」など,録音時の自動化機能,カセットドアには,
GX-F91以来のダイレクトリードイン,パワーイジェクトを採用していました。
ノイズリダクションとしては,ドルビーがBタイプ,Cタイプが搭載され,それに加え,ダイナミックレンジ
が大幅に拡大されるdbxが搭載されていました。
その他,使用テープに合わせて,バイアス値を±20%の範囲でコントロールできるマニュアルバイア
スコントロールが装備されていました。消去用のマスターバイアス発振回路とは別に,録音専用のスレ
イブバイアス発振回路が設置されており,消去電流には全く変動を与えずにバイアスの変化を行える
ようになっていました。
レベルメーターは,−40dB〜+12dBを17セグメントでピークレベル表示する2色FLディスプレイが
搭載され,ピークホールド付となっていました。また,使用テープに応じた許容録音レベルを指示する
インジケーターが点灯するようになっており,レベル設定がしやすくなっていました。
テープカウンターは,4桁電子カウンターで,通常の4桁カウンター表示に加えて,分秒単位のプレイ経
過時間表示(ELAPSED),残量表示(REMAIN)が可能となっていました。残量表示は,自動的にテー
プのサイズ(C-90,C-60,C-46)を検出するオートテープサイズ検出機構が搭載されており,プレイ
中のテープでも残量を高精度に計算して表示するようになっていました。
パーツや筐体の面でも,音質重視の配慮が行われていました。増幅系から電源部まで接合部を複数
分割してハイスピード化した,FBET(折り返し電極トランジスター)が採用されていました。増幅系の補
償回路用及びイコライザー素子用のコンデンサーには,銅箔ポリプロピレンコンデンサー,西独ERO
社製メタライズドポリエステルコンデンサー,マイカコンデンサーなどの高品質なパーツが適材適所で
使用され,増幅系の重要部には精密級の金属皮膜抵抗が使用されていました。高周波の遮断用や高
域補償用のコイル類はすべて伝達歪の少ないLC-OFCが使用され,コア材には低歪率コアが採用さ
れていました。
筐体は,強度の高い底板,外来振動に強い大型フットの採用に加え,堅牢な側板を配するなど,筐体
全体の高剛性化が図られ,振動・共振による音質劣化を抑えていました。
以上のように,GX-93は,アカイ最後の高級デッキとして,各部に音質重視の設計が行われ,使いや
すく高音質の実力機でした。