AKAI GX-F71
STEREO CASSETTE DECK ¥89,800
1982年に,アカイが発売したカセットデッキ。アカイは,オープンリールデッキの時代からすぐれた技術を発揮
して多くの名機を作り上げてきたブランドでした。そんなアカイが,それまでの技術や経験を生かし,使いやすさ
と性能をトータルにレベルアップした新しいシリーズとして「TOTAL ADVANCE DECK」GX-F91,GX-F71
GX-F51,GX-F31を発売しました。その中で最上級機GX-F91に次ぐ機種として発売されたのがGX-F71で
した。

GX-F71は,3ヘッド方式で,録・再ヘッドには,アカイ自慢の「スーパーGXヘッド」によるコンビネーションヘッド
が搭載されていました。「スーパーGX(Glass & X’tal Ferrite)ヘッド」は,フェライト素材を独自の加工技術に
よりローノイズ・クリスタル化(単結晶化)し,これをヘッドコアとシールドコアに用い全体を高硬度ガラスで固めた
もので,(1)従来のフェライトが抱えていたノイズや粒子脱落などの難点を解決(2)高域でのエディカレントロス
(渦電流損失)が極めて小さく,高い透磁率と広い周波数特性を実現(3)ヘッドギャップの工作精度が非常に高
くできるなどの利点を持ち,優れた音質と高い耐久性を実現していました。この「スーパーGXヘッド」を録音用と
再生用に専用化して用い,高精度に一体化したコンビネーションタイプの3ヘッドとして,録音用ヘッドのギャップ
は4ミクロン巾,再生用ヘッドのギャップは1ミクロン巾とそれぞれにあった理想的なギャップ巾で搭載していまし
た。消去ヘッドには,ダブルギャップフェライトヘッドが搭載されていました。



走行系は,クローズドループ・ダブルキャプスタン方式で,変調ノイズを大きく低減し,キャプスタン駆動はダイレ
クト・ドライブ方式が採用されていました。キャプスタン駆動用モーターには,高い回転精度とハイトルク性をもつ
FGサーボDDモーターが 搭載され,さらに,ハイトルクDCモーターによるリールドライブ機構や独自のテープガ
イドが採用されていました。
メカニズムは,新開発の「クイック&クワイエットメカニズム」が搭載されていました。再生,巻き戻し,早送りなど
各モードの設定を,マイコンが専用モーターを制御して行うコンパクトなシステムコントロールメカニズムで,メカノ
イズが極小で,ストップ状態でもヘッドブロックはポーズ位置までリフトアップされており,プレイ動作の立ち上がり
もきわめて速いという特徴を持っていました。
さらに,カセットハーフをセットすれば,あとは希望のオペレーションボタンを押すだけで自動的にカセットドアが閉
まり,テープがローディングされ,テープのたるみを除去して指示された動作に入るダイレクトリードインシステム
が採用され,イジェクト機構も,マイコン制御のパワードライブ方式で,プレイ中でもイジェクトボタンを押せば自動
的に安全にイジェクトされるというパワーイジェクトも採用されていました。こうした方式は,数年後には各社のカセ
ットデッキに採用されていきましたが,当時はまだ例がなく,その操作性には高い評価が与えられ,他社にも大き
く影響を与えることとなりました。

録再アンプには,厳選したディバイスを使った±2電源方式によるDCアンプが搭載されていました。特に再生系
は,デュアルFET,デュアルトランジスター採用の初段差動アンプとSEPP構成で,再生ヘッドにダイレクトカップ
リングとしていました。また,録音アンプは,リニアリティにすぐれたICオペアンプを採用していました。電源部も強
力なものが搭載されていました。
ノイズリダクションとして,従来のドルビーBタイプに加えて新たにドルビーCタイプも搭載され,録音時の同時モニ
ター時でも使えるように,再生系,録音系にそれぞれ専用のドルビー回路を搭載したダブルプロセス方式となっ
ていました。



GX-F71には,コンピュータによるオートチューニングが搭載され,テープごとに最適な録音バイアス,イコライ
ザー,録再感度を自動的にチューニングし,データをテープポジションごとに1つずつメモリーできるようになっ
ていました。このオートチューニング機構は,まず,1jHzの基準信号で録再レベルの粗調整を行い,その後,
バイアス設定を行うようになっていました。バイアス設定は,ワンステップ3%で32ステップ設けられており,
Rchを代表に選び浅い方から徐々に深く,逆に深い方から浅くと,2方向からバイアスを変化させた結果を
平均し,この平均値よりさらに4ステップオーバーのポイントを最適値とするという精度の高い方式がとられて
いました。続いて,5kHz・7kHz・15kHzの3つの周波数で1kHzの基準レベルをもとにイコライザーおよび
録再感度を調整してフラットな周波数特性を得るようになっていました。このチューニングにかかる時間は約
17秒で,終了と同時に巻き戻し,録音スタンバイとなるようになっていました。
その他,タイマースタート機構の中に,PLAY,RECに加えてTUNING RECというポジションが設けられ,タイ
マーを使っての録音時に,チューニングをしてから録音を開始するということも可能となっていました。

GX-F71は,「TOTAL ADVANCE DECK」の名の通り,様々な自動化機構を持っていました。上述のモー
ターによるカセット扉の開閉「ダイレクトリードイン,パワーイジェクト」を採用したたぶん最初のデッキではなかっ
たかと思います。さらに,上述のオートチューニングを筆頭に自動テープセレクター,録音時ソースからテープ
へのモニターの自動切替機構,録音やり直し時に,自動的に4秒の無録音部分を作ってレックポーズ状態に
入るレックキャンセル機構,自動頭出し機構「IPLS」,曲の頭を10秒ずつ再生していくイントロスキャン機構,
録音の最後に自動的に4秒間の無録音部分を作ってレックポーズ状態になるオートミュート,録音スタンバイ
状態でフェードボタンを押すと設定した録音レベルまで5秒間でフェードインして録音開始し,録音中フェードボ
タンを押すとフェードアウトして4秒間の無録音部分を作って録音スタンバイ状態になるオートフェードなど,使
い勝手がよく洗練された自動化機構が数多く採用されていました。

表示部はFL表示で,レベルメーター,テープカウンター,テープポジション,ノイズリダクション等の表示が横並
びで集中配置されていました。レベルメーターは,2色18セグメントによるFLバーメーターで,VU/PEAK切換
式で,VUとPEAKで読みとりやすいようにスケールも切換わるようになっていました。また,メーター上にもテー
プポジション表示が設けられており,最大録音入力レベルのワーニングゾーンを示すようになっていました。
テープカウンターは,4桁電子カウンターで,分/秒の経過時間表示とテープ走行量表示の切換式となっていま
した。

以上のように,GX-F71は,「TOTAL ADVANCE DECK」と称するとおり,アカイがそれまで積み上げてき
たすぐれたテープデッキ技術にマイコン制御を組み合わせた先進的な内容を持つ1台となっていました。10cm
のパネル高のスリムな筐体にシーリングパネルを配したデザインも新しさを感じさせるものとなっていました。
そこに組み込まれたすぐれた自動化機構や操作性は,その後の各社のデッキに次第に組み込まれていくよう
になるなど,多くの影響を与えたといえると思います。GXヘッドから生まれるシャープな音は,アカイらしさをも
つものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



いま,トータル・アドバンス思想の
至極の結晶を贈りたい。

ダブルキャプスタンDD&
オートコンピュータチューニング搭載。
ドルビーC内蔵のスーパーGX・3ヘッドデッキ。

ハイクオリティサウンド
◎スーパーGX・3ヘッドシステム
◎ドルビーCタイプNR搭載
◎DCアンプ採用の録再アンプ


プレシジョン・メカニズム
◎クローズドループ・ダブル・キャプスタン&DD
◎クイック&クワイエットメカニズム
◎ダイレクトリードイン&パワーイジェクトシステム


コンピュータ・オペレーション
◎オートコンピュータチューニングシステム
◎鋭敏さをさらに追求したコンピュータサーチ機構

●レックキャンセル機構
●イントロスキャン
●IPLS(自動頭出し)
●メモリーオートプレイ機構

◎機能性をさらに充実させる先進のオートシステム
●オートフェーダー
●オートモニター
●オートミュート
●オートテープセレクター


◎見やすいFL集中ディスプレイシステム
◎アウトプットレベルとヘッドホンレベルが
 調整できるアウトプットボリューム
◎離れて,オートフェード録音もできる
 リモートコントロール機構
◎留守録,目覚し再生ができる
 タイマースタート機構
◎高さわずか10cm,先進のスリムボディ




●GX-F71の主要規格●

トラック方式 コンパクト・カセット・ステレオ
ワウ・フラッター 0.028%WRMS(JIS) ±0.055%WPeak(EIAJ)
周波数特性 20~17,000Hz ±3dB Normalテープ 
20~18,000Hz ±3dB CrOテープ 
20~21,000Hz ±3dB Metalテープ
歪率(1kHz0VU) 0.7% Metalテープ
SN比 60dB(3%THDレベルWTD),56dB(EIAJ) 
ドルビーNR使用時  
  Bタイプ 1kHzで5dB,5kHz以上で10dB改善 
  Cタイプ 500dBで15dB,1kHz~10kHzで20dB改善
ヘッド スーパーGX録音ヘッド×1 
消去ヘッド×1 
スーパーGX再生ヘッド×1
モーター FGサーボDDモーター(キャプスタン駆動用)×1 
DCモーター(リール駆動用)×1
早巻き時間 約90秒(C-60テープ使用時)
入力レベル ライン70mV(47kΩ)
出力レベル ライン410mV(2kΩ以下) 
ヘッドホン1.3mW(8Ω)
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 28W
最大外形寸法 440W×100H×377Dmm(EIAJ)
重量 約7.4kg
※本ページに掲載したGX-F71の写真,仕様表等は1982年4月のAKAIのカタ
 ログより抜粋したもので,赤井電機株式会社に著作権があります。したがって,こ
 れらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注
 意ください。
   
 
 
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