AKAI
GX-F90
STEREO CASSETTE DECK ¥128,000
1979年に,アカイが発売したカセットデッキ。アカイは,早くからテープデッキにすぐれた技術を発揮し,オープン
リールデッキからカセットデッキへと,力の入った製品を作り続けていきました。走行系,ヘッド廻りなど,着実に
技術を高めていった中,発売された高級3ヘッドカセットデッキがGX-F90でした。
GX-F90は,3ヘッド方式で,録・再ヘッドには,アカイ自慢の「スーパーGXヘッド」によるコンビネーションヘッドが
搭載されていました。「スーパーGX(Glass & X’tal Ferrite)ヘッド」は,フェライト素材を独自の加工技術により
ローノイズ・クリスタル化(単結晶化)し,これをヘッドコアとシールドコアに用い全体を高硬度ガラスで固めたもの
で,(1)従来のフェライトが抱えていたノイズや粒子脱落などの難点を解決(2)高域でのエディカレントロス(渦電
流損失)が極めて小さく,高い透磁率と広い周波数特性を実現(3)ヘッドギャップの工作精度が非常に高くできる
などの利点を持ち,優れた音質と高い耐久性を実現していました。当時,アカイは他社のデッキがメタル対応のた
めにセンダスト等の合金ヘッドに向かう流れの中,High Bs,High μフェライト材の優れた性能と可能性を信じ
高性能ヘッド「スーパーGXヘッド」を完成させ,自社のデッキに搭載していました。この「スーパーGXヘッド」を録音
用と再生用に専用化して用い,高精度に一体化したコンビネーションタイプの3ヘッドとして,録音用ヘッドのギャッ
プは4ミクロン巾,再生用ヘッドのギャップは1ミクロン巾とそれぞれにあった理想的なギャップ巾で搭載していまし
た。消去ヘッドには,ダブルギャップフェライトヘッドが搭載されていました。
走行系は,シングルキャプスタンで,キャプスタン駆動用とリール駆動用のモーターを搭載する2モーター
構成でし
た。特に,キャプスタン駆動用モーターにはDD方式を採用し,ブラシレスFGサーボDCモーターを搭載していまし
た。ホール素子位置検出による三相全波駆動方式と,高精度で応答の早いFGサーボ回路により,大きなトルク
とワウ・フラッター成分の少ない高い回転精度を確保していました。
2モーターシステムのメカニズムを生かして,走行系のコントロールはICロジック回路で制御されたフェザータッチ
式のダイレクトファンクションチェンジ機構が採用され,軽快でかつ安全なテープ走行のコントロールが可能となっ
ていました。さらに,自照式操作ボタンを採用し,操作モードとスタンバイ状態が光で鮮やかに表示されるセンサー
ライトコントロールシステムが搭載されていました。PLAY,F・F,RWD,REC,PAUSE,REC MUTEのモード
表示の他,リピートスタンバイやポーズスタンバイではPLAYボタンが点滅,レコーディング・ミュート時には録音ボ
タンが1秒間隔で点滅するタイミングインジケーター機能など,動作状態が分かりやすいシステムとなっていました。
さらに,テープ上の信号部分と無信号部分の境界を再生ヘッドが検出して自動的にプレイ状態に入る頭出し機構
IPLS(Instant Program Locating System)が搭載され,前後1曲の自動頭出し再生ができるほか,テープ
カウンター”000”で頭出しができるメモリースイッチ,巻き戻し再生を繰り返すリピートスイッチも備えられ,IPLS
と合わせて,聴きたい曲,聴きたい部分の繰り返し再生ができるなど,便利な操作系となっていました。また,ワン
タッチで録音開始部分の頭の位置まで巻き戻し自動的に録音ポーズ状態になるレコーディングキャンセル機構も
搭載されていました。
レベルメーターとして,高精度の24セグメントデジタルバーメーターが搭載されていました。このメーターは反応が
速く,スイッチ一つでピークメーター,VUメーターの切換えもできるようになっていました。
テープセレクターは,LN,LH,CrO2,METALの4ポジションが装備されていました。ノイズリダクションとしてドル
ビー(Bタイプ)が,3ヘッドシステムに対応して録音用,再生用それぞれ独立の回路で搭載され,400Hzの発振
器内蔵のレコーディングキャリブレーション(録音感度調整)も搭載されていました。また,入力信号の周波数帯域
とレベルに応じて,録音イコライザーが自動的に可変し,高域における減磁作用による歪みを防止する,アカイ独
自開発のADR(Automatic Distortion Reduction)が装備されていました。
以上のように,GX-F90は,テープデッキにすぐれた技術を発揮していたアカイらしく,スーパーGXヘッドを核に,す
ぐれた走行系,機能性を備えた高級デッキでした。シャープでクリアな音は,スーパーGX3ヘッドらしいものでした。
薄型の個性的なデザインをもつ筐体も魅力的でした。そして,ここで開発・搭載された技術やノウハウは次期最高
級機
GX-F95へと継承されていきました。