Lo-D HMA-9500
DC STEREO POWER AMPLIFIER ¥230,000
1977年に,ローディー(日立)が発売したパワーアンプ。パワーMOS FETを出力段に採用した世界初の画期的
なアンプで,その性能の高さ,音の良さが評価され,当時としてはかなりの高価格でありながら,数千台という予想
を超える販売数に達する人気モデルとなりました。

MOS FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor=MOS型電界効果トランジスター,ちな
みにMOSは,Metal(金属),Oxide(半導体酸化物),Semicondauctor(半導体)の3層構造になっていること
を表しています)は,従来高耐圧,大出力といったオーディオ用に使える素子ではなく,小出力のものしかなく,高
周波増幅用等に使われていました。現在でもLSIの中の半導体では最も一般的な構造となっています。そして,
ちょうど当時,日立中央研究所で高耐圧のMOS FETつまりパワーMOS FETが開発されていました。これをさ
らに高出力に,そしてPch,Nchのペアとして開発に成功したのがHS8401C,HS8402Cでした。



こうして開発された日立製パワーMOS FETは多くのすぐれた特徴をもっていました。(1)従来の小信号MOS
FETと比較して3桁以上も高い増幅率(相互インダクタンス)をもち,また5極管特性をもっているので,広い電流
範囲で一定の増幅率を保ち,歪の少ないアンプが可能となる。(2)通常のバイポーラトランジスターに比べて1桁
以上も高周波特性がすぐれている。(=周波数帯域が広い,150MHzにも達する。)(3)動作原理上スイッチン
グ速度が速く,従来のパワートランジスターに比べて,高周波歪,高周波消費電力が低減される。(4)原理的に
電流が集中しないという特性をもち,従来のパワートランジスターに比べて電気的な破壊に強く,アンプの保護回
路を簡略化することができる。(5)エンハンストメント特性(=ゲート電圧を加えない状態ではオフとなり,ゲート電
圧を加えるとオンになる。)で,逆のデプレッション特性のFETにくらべてバイアス回路が簡単にでき,適度なバイ
アス電流を選ぶことで,通常の半導体素子で必要となる温度補償回路の省略が可能となる。(6)Pch,Nchの特
性がよく揃っており,コンプリメンタリー回路で使用した際に歪の少ないプッシュプル回路が組める。

こうしたすぐれた特性を持ち,裸特性にすぐれたパワーMOS FETを生かし,HMA-9500は,シンプルな回路構
成をとっていました。1段目は差動増幅器,2段目は,A級アンプをそのままひっくり返した形(差動させた)の差動
増幅器となっており,この2段目の差動増幅器が保護回路を挟んでパワーMOS FETピュアコンプリメンタリーパ
ラレルプッシュプル回路の電力増幅段をドライブするようになっていました。このように入力から出力までわずか3
段というきわめてシンプルな回路構成を実現していました。

NFBループ内からコンデンサーをなくし,入力のコンデンサーまでも除去したDCアンプ構成がとられ,シンプルな
回路構成とともに,音質劣化の原因となる部品を排除して正確な波形伝送を実現していました。また,このDCア
ンプ構成のために,初段にはペア特性が揃った低雑音デュアルFETと高耐圧低雑音トランジスターを組み合わせ
た差動増幅器を採用し,高い入力インピーダンスと低い中点ドリフト特性を得るとともに,高利得を実現していまし
た。

2段目の差動増幅器は,上述のようにパワーMOS FETの電力増幅部をドライブする役割ももっていますが,パ
ワーMOS FETは,裸特性,周波数特性がよいことに加え,駆動電力を必要としないため,ドライバーの役割をす
る差動増幅器には,小信号用のトランジスターが使え,高域周波数まで安定した負帰還がかけられるようになって
いました。これにより,5Hz~100kHzの広帯域にわたって100W+100Wの大出力,0.01%以下という低歪
率を実現していました。

パワーMOS FETは,大電流時の電流温度特性が負なので,半導体基板の一部分に電流が集中しようとしても
その部分の温度が上昇すると電流が減るという特性があります。したがって,通常のバイポーラトランジスターの
ような2次破壊の原因となる電流集中や熱暴走の危険がないとうすぐれた特徴がありました。そのうえに,ヒート
シンクに放熱効果の高い大型のアルミダイカスト製のものを左右独立で使用し,裸シャーシ構造をとっていました。

パワーMOS FETの出力段を支える電源部は,強力なものが搭載されていました。左右独立に電源トランスを設
け,パワー増幅段の整流平滑回路はもとより,小信号用の安定化電源まで左右独立として,電源を介してのトラ
ンジェントクロストークを排除していました。また,平滑用コンデンサーには,高周波特性のよい大容量(18,000
μF×4)のケミカルコンデンサーを使用し,しっかりとした低域再生を可能としていました。
アンプ全体のコンストラクションも,左右チャンネル間のクロストークなどの影響さけるため,左右独立2電源だけ
でなく,左右対称セパレート配置の入出力端子,回路ブロックなど,モノラルアンプ指向で設計され,そのまま2分
割すればモノラルアンプとして使用できるほどの構造になっていました。

以上のように,HMA-9500は,世界初のパワーMOS FETを搭載したオーディオアンプとして画期的な1台でし
た。親会社が総合電機メーカー日立であり,自社内の中央研究所の高い技術を生かせるローディーならではの
アンプでした。機能そのものが形になったその精悍なデザインも魅力的でした。外観から受ける無骨さとは異なり
繊細でスピード感のある音は,独自の魅力をもつものでした。1979年には,改良型のMKⅡが発売され,ともに
記憶に残る今でも愛される名機の1つとなったのではと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



はやくも,「名器」の呼び声高く。
パワーMOS FET採用
左右独立2電源DCパワーアンプ。


パワーMOS FET

◎パワーステージに新しい音の息吹を
◎楽器波形の正確な再現のためには
 可聴帯域を越えた広帯域が必要でした。
◎パワーMOS FETの特長

 1.増幅率が高く直線性が良い
 2.周波数特性が良い
 3.スイッチング速度が速い
 4.電気的な破壊に強い
  (安全動作領域が広い)
 5.使いやすいエンハンスメント特性
 6.コンプリメンタリー性が良い

回路構成

◎パワーMOS FETをA級増幅段が
 ダイレクトにドライブするシンプルな回路
◎超広帯域(5Hz~100kHz)にわたり,
 大出力(100W+100W),低ひずみ(0.01%)
◎正確な波形伝送のDCアンプ構成
◎左右独立2電源方式の採用
◎広い安全動作領域
◎モノアンプ指向のシステム設計




●HMA-9500 Specifications●

回路方式 2段差動増幅全段直結パワーMOS FET 
純コンプリメンタリーOCL回路
実効出力(両ch駆動) 100W+100W(5Hz~100kHz,8Ω) 
120W+120W(5Hz~20kHz,8Ω)
全高調波ひずみ率(8Ω) 0.01%(5Hz~100kHz,定格出力時) 
0.005%(5Hz~20kHz,定格出力時) 
0.002%(1kHz,定格出力時) 
0.002%(1kHz,50W出力時)
混変調ひずみ率(60Hz:7kHz=4:1) 0.003%(定格出力時,8Ω) 
0.003%(50W出力時,8Ω)
周波数特性 DC~100kHz +0,-0.5dB(DC) 
DC~300kHz +0,-1dB(DC) 
3Hz~300kHz +0,-1dB(LOW CUT)
入力感度/インピーダンス 1V/50kΩ
S/N(入力ショート) 110dB
チャンネルセパレーション(入力ショート) 85dB(5Hz~100kHz) 
95dB(5Hz~20kHz)
ダンピングファクター 70(5Hz~20kHz)
負荷インピーダンス 4Ω~16Ω
電源電圧 AC100V 50/60Hz共用
定格消費電力 350W(電気用品取締法)
外形寸法 435(W)×192(H)×410(D)mm
重量 28kg
※本ページに掲載したHMA-9500の写真,仕様表等は1978年11月のLo-Dの
 カタログ
より抜粋したもので,日立家電販売株式会社に著作権があります。したがっ
 て,これらの
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