Lo-D HS-1500
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥600,000(受注生産)
ローディー(日立)が,1974年に発売したスピーカーシステム。ローディーは,日立のオーディオ
ブランドで,当時,家電メーカーがオーディオに本格的に乗り出し,オーディオ部門にブランド名
を付けるようになり,日立もLow Distortion(低歪み)の意味を持つ「Lo-D」のブランド名を名
乗っていました。自社に半導体部門から重電部門,素材部門までもつ総合メーカーの力を発揮
し,すぐれた技術力を示していました。スピーカーにおいても,ギャザードエッジ,メタルコーンな
どの画期的な技術を開発し,製品化していました。そんなローディーが,性能を最優先し,コスト
面の制約を排除して作り上げたとされる,受注生産の最高級スピーカーシステムがHS-1500
でした。
L-301
WOOFER UNIT ¥120,000
ウーファーは,30cm口径のサンドイッチメタルコーンL-301が搭載されていました。サンドイッ
チメタルコーンはアルミ合金で発泡樹脂をサンドイッチした三層構造で,軽く剛性の高いものと
なっていました。こうしたアルミ三層構造の振動板は,1950年代に,日本電気音響がミラフォン
ブランドで,スチレンペーパーをアルミ箔でサンドイッチしたスピーカーユニットを出していました
が,本格的にスピーカーシステムとして採用したのはローディーが最初でした。
こうした構造のサンドイッチメタルコーンは,高域共振を抑え,高域共振周波数以下の領域の音
質の向上が実現されていましたが,特徴的な1次の高域共振が残るため,ピークコントロール回
路によって制御するようになっており,さらに,剛にして柔な特徴をもつギャザードエッジの採用
により±12mmの振幅をもたせ,空気排除量0.6リットルという高性能を実現していました。ギャ
ザードエッジは,ウーファーのfo(最低共振周波数)を下げるために,エッジ部のスティフネス(剛
さ)を下げてウーファーの振動板のピストン振動を十分に行わせかつ振動系をしっかり支持しよ
うとする二律背反の命題を実現しようとしたもので,通常使用されていたロールエッジを改良して
独自のヒダ(ギャザー)を加えたV型のエッジで,構造的に伸びと縮みの応力が一定で,かつ円
周方向にも伸び縮みが一定であるために振動板の機械的直線性が改善され,大振幅時のひず
み,エッジの共振によるひずみが低減され,foを低くとることができるという画期的なものでした。
このエッジは,当時日立のオーディオ部門でスピーカー開発を行っていた日本有数のスピーカー
技術者・河村信一郎氏が中心となって開発したものでした。
駆動系は,ロングボイスコイルで,磁気回路で偶数次高調波が発生しやすいため,銅ショートリ
ングの工夫などによって低歪み化を図ったローディーアクチューエーターが搭載されていました。
また,磁気回路外のボイスコイル磁束を打ち消し,インピーダンス特性を平坦化したボイスコイ
ルが採用されていました。
M-60
MIDRANGE UNIT ¥70,000
ミッドレンジM-60は,アルミ合金製のセーラーキャップ型振動板を採用していました。上述の川
村信一郎氏が開発したセーラーキャップ型振動板は,コーン型とドーム型を複合した形のもので
この形状は,後に各社に影響を与えました。このピストン剛円板を実現しやすいアルミ合金製セー
ラーキャップ型振動板を2点支持としてfoを下げ,高域共振を約11kHzと,再生帯域の上限の3
倍以上とし,低歪みを実現していました。また,ボイスコイル巻線を0.18mmと太くすることで大
入力に対応していました。
H-35H
TWEETER UNIT ¥80,000
トゥイーターは,ホーン型のH-35Hが搭載されていました。2種のエキスポネンシャルホーン(指
数関数による滑らかなカーブ形状のホーン)を途中で滑らかに接合した形のカスケードホーンを
採用し,すぐれた指向性のパターンを実現していました。振動板は,アルミ合金製のドーム型で
ロールエッジに支えられ,高音圧に耐える構成となっていました。振動板の大きさ,アニュラス
(ホーン導入口)面積を適切にすることで50cm,100dBの高音圧でも歪率は1%以下に抑え
られ,35Wの連続入力にも耐える性能を実現していました。駆動系は,高性能磁石,純鉄ヨー
クプレートなどが使用され,磁気空隙磁束密度19,000ガウスという高磁束により,ダンピン
グのすぐれた再生音を実現していました。
エンクロージャーは,通常多く用いられている木材チップを固めたパーティクルボードではなく,
30mmもの厚さの積層合板による頑丈なもので,スピーカーシステム全体の重量は68kgにも
達するものでした。エンクロージャー型式は,密閉型で,内容積も150リットルと,ユニットに対
してしっかりととられていました。米檜の白木調の明るい仕上げのエンクロージャーは,面取り
がなされた独特の形状となっており,回折効果をおさえる形となっていました。入力端子は,通
常のものとは異なり,側面に外れにくいキャノン端子が設けられ,業務用スピーカー的なものと
なっていました。とにかくコストのかかったエンクロージャーであったのは確かだと思います。
以上のように,HS-1500は,当時のローディーが作り上げた作品ともいえるスピーカーシステ
ムでした。当時のローディーの資料にも「設計のテーマは性能を最優先して,コスト面の制約を
一切排除すること」と書かれており,新開発の画期的な金属系ユニット,無駄な振動や回折効
果を抑えた頑丈なエンクロージャーなど,当時の技術者・川村信一郎氏の設計がしっかりと投
入された記念碑的な1台でした。音域の広がり音場の広がりなど,しっかりした再生能力は,
現在でも高いレベルにあるものでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
高性能への飽くなき追求。
オールメタル振動板の3ウェイシステム
言わばスピーカーの”芸術品”
●HS-1500 Specifications●
エンクロージャー形式 | 密閉 |
エンクロージャー内容積 | 150リットル |
使用スピーカー | ウーハー:30cmサンドイッチメタルコーン ギャザードエッジ(L-301) ミッドレンジ:セーラーキャップ形メタル振動板(M-60) ツィーター:カスケードホーン(H-35H) |
再生周波数帯域 | 20~18,000Hz(-8dB無響室) |
クロスオーバー周波数 | 750Hz,3,200Hz |
入力インピーダンス | 8Ω |
最大入力 | 35W |
出力音圧レベル | 89dB(1W・1m) |
外形寸法 | 620W×810H×450Dmm |
重量 | 68kg |
エンクロージャー仕上げ | 米檜 |
●L-301 Specifications●
再生周波数帯域 | 30Hz~700Hz |
最低共振周波数 | 15Hz(2.8V) |
共振尖鋭度(Qo) | 0.38(2.8V) |
推奨クロスオーバー周波数 | 700Hz以下 |
高域共振周波数 | 1650Hz |
出力音圧レベル | 89.2dB(1W・1m) |
最大音圧レベル | 105dB(32Hz以上,1m) |
定格入力 | 35W(連続,JIS) |
外径 | 22.9cm |
公称インピーダンス | 8Ω |
実効半径 | 127mm |
最大外径 | 326mm |
最大呼ビ径 | 310.5mm |
重量 | 9.8kg |
●M-60 Specifications●
再生周波数帯域 | 600~2,500Hz(無指向性) 600~11,000Hz(軸上-3dB) |
最低共振周波数 | 175Hz |
共振尖鋭度(Qo) | 0.45 |
推奨クロスオーバー周波数 | 600Hz以上,3,800Hz以下 |
出力音圧レベル | 89dB(1W・1m) |
最大音圧レベル | 108dB(1m) |
定格入力 | 20W(連続,JIS) |
公称インピーダンス | 8Ω |
最大呼ビ径 | 153mm |
重量 | 4.2kg |
●H-35H Specifications●
再生周波数帯域 | 3,200~4,400Hz(無指向性,ka=√2) 2,200~16,000Hz(軸上-3dB) |
最低共振周波数 | 2,250Hz |
推奨クロスオーバー周波数 | 3,200Hz以上 |
出力音圧レベル | 106dB(1m,1W相当) |
最大音圧レベル | 109dB(1m) |
定格入力 | 2W(連続,JIS) |
公称インピーダンス | 8Ω |
最大呼ビ径 | 120mm |
重量 | 3.3kg |
※本ページに掲載したHS-1500の写真,仕様表等は1978年
1月のLo-Dのカタログより抜粋したもので,日立家電販売株式
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