HX-10000の写真
YAMAHA HX-10000
NATURALSOUND PHONO EQUALIZER AMPLIFIER
                             ¥350,000

1987年にヤマハが発売したフォノイコライザアンプ。楽器メーカーとして1887年に創業したヤマハが創業
100年を迎える記念碑としての限定生産モデルともいえるシリーズ「10000シリーズ」フォノイコライザアン
プとして発売されました。同じ「10000シリーズ」のコントロールアンプCX-10000がフォノイコライザーアン
プを内蔵しないタイプで,そのための外付けイコライザーとも考えられるものでしたが,その贅沢ともいえる中
身は凄いもので,単体イコライザーアンプとして一級品でした。

基本的な回路構成は,超ローノイズTrによる全段プッシュプルMCヘッドアンプと高GmデュアルFETによる
カスコードブートストラップ差動のイコライザアンプで,それらを充実した電源部と高剛性の筐体が支えるとい
うオーソドックスに物量を投入した設計でした。

フォノ入力は2系統装備され,MCヘッドアンプはフォノ1,フォノ2にそれぞれL・R独立で合計4基搭載され,
その後段で,フォノ1フォノ2共用のL・R独立のイコライザアンプ2基へ送り出されるという構成になっていま
した。これは,MCカートリッジの微少な信号に対して接点を少なくするため,MCカートリッジの出力をフォノ1
フォノ2独立のカートリッジロードセレクターのみを介して,MCヘッドアンプに直結させる形をとり,かつ,フォノ
入力2系統で,それぞれ異なるカートリッジ仕様のプレーヤーシステム2台を常時固定使用可能としたため
でした。
HX-10000のMCヘッドアンプは,初段に超ローノイズトランジスタ8個を使用した,4パラレル入力コンプリ
メンタリー・プッシュプル回路,続く電圧増幅段,出力段ともコンプリメンタリープッシュプルとした,計3段増幅
による全段A級コンプリメンタリープッシュプル構成となっていました。この高性能MCヘッドアンプトータルで,
入力換算雑音レベル−160dBV(S/N比88dB,250μV入力時)の超低ノイズとイコライザーアンプ部との
トータルで,0.002%以下(20Hz〜20kHz,3V出力時)という低歪みを実現していました。

MCヘッドアンプ及びイコライザーアンプ基板

イコライザーアンプは,初段に高GmのデュアルFET2個を使用した,差動入力カスコードブートストラップ回
路を搭載し,差動入力により安定度を確保し,カスコードブートストラップにより,広帯域・高ゲインを確保して
20Hz〜20kHz間で,0.001%(3V出力時)の低歪率を実現していました。また,デュアルFETを2個パ
ラレルで使用することにより,カートリッジ実装時のS/N比を向上させ,入力換算雑音レベル−145dB(S/N
93dB,2.5mV入力時)のローノイズ特性を実現していました。
負荷の重いRIAA素子をドライブする出力段は,MOS FETのコンプリメンタリー・プッシュプル構成として,
RIAA素子への余裕ある低インピーダンスドライバビリティを確保していました。

MCヘッドアンプ,イコライザアンプの各アンプ間の相互干渉を抑え,性能追及を行う設計とするために,MC
ヘッドアンプ(フォノ1,フォノ2),イコライザアンプ(L/R)はそれぞれ独立した回路基板で組まれたユニット
アンプ構成となっていました。各ユニットアンプ基板は,振動の影響を抑えるために,コーナーとセンターの5
ヶ所を8ミリ径の真鍮削り出しポスト5本により,高剛性の内部シャーシに厳重に固定され,さらに,外来ノイ
ズへのシールド対策として,非磁性アルミ押し出し材による高剛性アルミハウジング4個にそれぞれ納めら
れていました。

HX-10000の内部

微弱信号を扱うイコライザアンプとして,さらにコンストラクション上でも電気的,磁気的,物理的影響を受ける
ことを避けるための対策がしっかり行われていました。電気的,磁気的ノイズの発生源となりやすい電源部を
アンプ部から分離させ,それぞれを独立のBOXに格納した,高剛性2BOXシャーシ構造としていました。アン
プ部と電源部は,3ミリ厚のアルミ押し出し材で仕切られ,電源トランスを中心とした磁気ループがアンプ部に
影響をあたえないようにされていました。また,シャーシには,機械曲げ加工などの金属疲労を伴わない非磁
性アルミ押し出し材を使用し(安価な機器では,曲げ加工を行っているものが多い),フロントパネル9ミリ厚〜
トップ&ボトムプレート5ミリ厚〜リアパネル3ミリ厚の部材を使い分け,それぞれを強固にビス留めして外部
振動を寄せ付けない高剛性シャーシとしていました。

電源部は,イコライザアンプとしては非常に強力なものが搭載されていました。シールドケース入りの大型トラ
ンスに加えて,平滑コンデンサとしてオーディオ用アルミ電解コンデンサを搭載していました。メインに10,000
μF×6本,さらに,4,700μF×6本,1,000μF×8本,470μF×12本を搭載し,複数個をパラレルで
段階的に使用することで電源インピーダンスを低く抑える設計で,パワーアンプ並の総容量100,000μF超え
る大容量となっていました。
また,電源部は,誘導ノイズの発生原因となりやすい内部配線材を最小限に抑えるために,マザーボードにMC
ヘッドアンプ用,イコライザアンプ用の各定電圧回路を一括搭載する方式が採用されていました。電源マザーボ
ードは,他のユニットアンプと同様,高剛性のシャーシ下部に真鍮削り出しポストで固定され,各ユニットアンプ
基板±B電源へ,コネクタにより内部シャーシをストレートに貫通してリジッドにジョイントするロスの少ない構造
となっていました。さらに,定電圧回路は,各ユニットアンプ間の電源を介しての干渉を防ぐために,イコライザ
アンプ用の第1次レギュレータと,MCヘッドアンプ用のフォノ1,フォノ2独立の第2次レギュレータの3つの定
電圧回路が搭載され,それぞれは,すべてディスクリートパーツで組まれたものとなっていました。

HX-10000は,「10000シリーズ」のイコライザアンプとしてパーツの面でも他の「10000シリーズ」同様に
高品位なものとなっていました。
イコライザアンプのRIAA素子用コンデンサに,2%級・高精度ポリプロピレンフィルムコンデンサ,位相補正用
コンデンサには,マイカコンデンサ及びポリプロピレンフィルムコンデンサが使用され,出力カップリングコンデン
サには,10μFの高音質フィルムコンデンサが使用されていました。また,RIAA素子を含むすべての信号系
抵抗には,1%級・高精度角形金属皮膜抵抗が使用されていました。各ユニットアンプ基板,電源マザーボー
ドには,ガラスエポキシ両面基板が採用されていました。そして,アースラインの低インピーダンスかを図るため
に,基板上の要所に金メッキ処理のOFCバスバーが埋め込まれていました。また,パワースイッチ連動の出力
ミューティングリレー回路には,金クラッド接点・窒素ガス封入のオーディオ専用リレーを使用し,高信頼・高安
定性を確保していました。フォノ入力端子及び出力端子にはすべて真鍮削り出し金メッキピンジャックを搭載し
グランド端子にも同じく金メッキ処理の真鍮削り出し端子を搭載していました。AC電源コードは,OFC線による
10ミリ径の極太ケーブルが使用されていました。

以上のように,HX-10000は,贅沢ともいえる設計と高品位パーツによる高性能な超弩級イコライザーアンプ
となっていました。その内容は,総重量20kgという重さにも表れていましたが,HX-10000を通して聴かれ
るカートリッジの新たな魅力を発見したような音は,本当にすばらしいものでした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




永遠への回帰。
アナログディスクならではの
感動の資質を不変のものとします。

微少信号の切換接点を最小に,
入力インピーダンスを設定可能。
フォノ2系統独立の高性能4MCヘッドアンプ搭載。

◎フォノ1・フォノ2独立1MCヘッドアンプ搭載。
 2イコライザアンプ構成。
◎超ローノイズTr4パラ入力全段プッシュプル構成
 高性能MCヘッドアンプ。
非磁性アルミハウジング収納のユニットアンプ構成。
アンプ部,電源部を分離した高剛性2BOXシャーシ構造。
◎高GmデュアルFETパラレル入力
 パワーMOS FET出力高安定イコライザアンプ。
◎電源部とアンプ部を分離。
 非磁性アルミ押し出し・高剛性2BOXシャーシ。
◎外来ノイズの侵入を防止する
 高剛性アルミハウジング収納ユニットアンプ。
◎大容量100,000μFを超えるオーディオ用ケミコン搭載。
 ローノイズ・強力電源部。
◎配線材を使用しないリジッドなコネクタ・ジョイント給電。
 電源マザーボード方式採用。
◎6ポジション切換,フォノ1・フォノ2独立
 カートリッジロードセレクター。
◎贅を尽くした高品位パーツ群。
 隅々に息づくキメ細かな配慮がアナログの純度を守ります。
 
 
●SPECIFICATIONS●


入力感度/インピーダンス MCハイゲイン:60μV/10Ω,30Ω
MCローゲイン:200μV/30Ω,100Ω
MM:2.5mV/47kΩ・100pF,47kΩ・330pF
最大許容入力
(1kHz,0.01%THD)
MCハイゲイン:3.4mV
MCローゲイン:12mV
MM:120mV
出力電圧/インピーダンス 150mV/470Ω
最大出力電圧 5V(20Hz〜20,000Hz,0.01%THD)
RIAA偏差 ±0.2dB(20Hz〜20,000Hz)
全高調波歪率
(20Hz〜20,000Hz,3V出力時)
MC:0.002%
MM:0.001%
S/N比(IHF-A補正) MC:88dB(250μV入力ショート)
MM:93dB(2.5mV入力ショート)
入力換算雑音レベル MC:−160dBV(250μV入力ショート)
MM:−145dBV(2.5mV入力ショート)
チャンネルセパレーション(1kHz) MC:50dB
MM:86dB
電源電圧・消費電力 AC100V 50/60Hz・20W
外形寸法 475W×130H×432Dmm
重量 20kg
本ページに掲載したHX-10000の写真,仕様表等は1987年9月のYAMAHA
 のカタログより抜粋したもので,日本楽器製造株式会社に著作権があります。
 したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられて
 いますのでご注意ください。
 
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