JM-S1000の写真
Victor  JM-S1000
STEREO POWER AMPLIFIER ¥480,000

1975年に,ビクターが発売したパワーアンプ。スタジオなどの業務用向けに特別開発された高信頼度高性
能をめざしたシステム「ラボラトリー1000シリーズ」のパワーアンプで,ビクターが高級機に付ける名称「ラボ
ラトリーシリーズ」の一員で,ビクターが特に力を入れて開発した最上級機に付ける「1000」という型番や堂々
たる筐体を持つことからも分かるように,ビクターの意欲があふれた1台でした。

基本的な回路構成は,カスケード差動入力型全段直結トリプル・プッシュプル・ピュアコンOCL方式となってい
ました。
入力回路には,カスケード差動回路を採用することで,交流負荷インピーダンスを下げ安定した広帯域増幅
を確保し,定電流回路で差動安定性も向上させていました。また,中段にもブートストラップに代わる定電流
回路を設け,安定した負帰還とフラットな特性が実現されていました。
終段のピュアコンプリメンタリー・トリプル・プッシュプル回路は,各チャンネル6石ずつのパワートランジスター
がコンパクトながら放熱面積延べ6574cm2(新 聞紙の1.5倍)のチムニー型ヒートシンクに取り付けられ,
180W/ch(20Hz〜20kHz・8Ω両ch動作)の大出力を安定して実現していました。また,前面の切換スイッ
チでBTL動作にすると,600Wのモノラルパワーアンプとしても使えるようになっていました。

JM-S1000の内部

強力なアンプ回路を支える電源部も強力なものが搭載されていました。電源トランスは,リングコアーにコイル
を隙間なく巻いたトロイダル・トランスで,コアー自体の磁気抵抗が小さく,通常のEIコアートランスに比べて,無
負荷損失も1/10以下という高効率なトランスでした。しかも,このトロイダル・トランスは,ケースなしで重量8.7
kgに及ぶ超重量級ともいえるものでした。電解コンデンサーは47,000μF×2という大容量のものが搭載され,
ここから直接パワー段に電力が供給されるようになっていました。これらにより,強力で瞬発力のある電源部となっ
ていました。A級動作の前段増幅段に対しては,±75Vの高圧安定化電源で供給を行い,安定した動作条件が
確保されていました。

出力メーターは,ピークメーターとVUメーターの機能を併せ持つピーク・VU同時表示メーターが搭載されていまし
た。針式のVUメーターのスケール面にLED(発光ダイオード)が埋め込まれており,−3,−2,−1,0,1,2,3,
4,5,7,10,12dBのピーク値が表示されるようになっていました。応答速度は10mS,復帰時間は300mSとなっ
ていました。VUメーターはBTS規格に準拠したもので,メーター感度は3段切り換え(0VU=180W・8Ω,0VU=
18W・8Ω,0VU=1.8W・8Ω)となっており,OFFにもできるようになっていました。

スピーカー出力は2系統あり,前面のスイッチでON・OFFできるようになっていました。入力レベルをL・R独立で
5段階に減衰できる入力レベルコントロールも搭載されていました。フィルターは,18Hz,27kHz 18dB/octの
フィルターが搭載されていました。また,大出力アンプらしく,スピーカーの能率や耐入力に合わせて最大出力を
フルパワー,1/2,1/4,1/8に切り換えられる,4ウェイ・パワーリミッターが搭載され,リミッター動作時には
LEDによって表示されるようになっていました。

筐体構造は,「1000シリーズ」に共通する頑丈なフレーム構造がとられ,業務用を意識した設計であるため,サー
ビス性を重視し,回路基板はプラグイン・ユニット化され,内部も整然とした作りとなっていました。また,ラックマウン
トに対応した設計となっており,そのために,頑丈なサイドフレームが採用され,BTS標準に対応しているほか,注
文時にRCAタイプにもできるようになっていました。別売で,受注生産の「1000シリーズ」専用ラックも用意されて
おり,システム化できるようになっていました。

1000システム

以上のように,JM-S1000は,業務用も考慮されたしっかりした作りの機能的かつ堂々たるパワーアンプで,ビクター
のパワーアンプの中では,やや異色な存在ともいえました。音の方も,いわゆるビクタートーンとは少し異なり,繊細さや
やさしさよりも,力強さを感じさせる明るい音で,また別の魅力をもっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



無上の信頼性と機能性をくわえて,
最高峰ラボラトリー1000シリーズ。


コンティニュアス180W×2,
BTL600Wモノ・オペレーションも可能な
精強パワーアンプ。


◎ステレオ−BTL(モノ)動作切換え
◎ピーク−VU同時表示メーター装備
◎パワー・リミッター付き
◎BTS標準ラックマウント・サイズ




●JM-S1000型 規格●

回路方式
全段直結トリプル・プッシュプル・ピュアコンプリメンタリーOCL
ミュージック・パワー
400W+400W(IHF・4Ω),250W+250W)IHF・ 8Ω)
800W(BTL MONO・8Ω)
実効出力
片ch動作・1kHz:330W/330W(4Ω), 200W/200W(8Ω)
片ch動作・20Hz〜20kHz:300W/300W(4Ω),190W/190W(8Ω)
両ch動作・1kHz:300W+300W(4Ω),190W+190W(8Ω)
両ch動作・20Hz〜20kHz:270W+270W(4Ω),180W+180W(8Ω)
BTL MONO・1kHz:600W(8Ω)
BTL MONO・20Hz〜20kHz:540W(8Ω)
全高調波歪率
0.08%(定格出力時),0.05%(1/2定格出力時)
混変調歪率
0.1%(定格出力時)
SN比
100dB
入力感度
1V(定格出力時)
入力インピーダンス
50kΩ(1kHz)
ダンピング・ファクター
50(8Ω)
定格負荷インピーダンス
4〜16Ω(NORMAL)
8〜16Ω(BTL MONO)
周波数特性
5Hz〜40kHz(+0,−0.5dB)
サブソニック・フィルター
18Hz,27kHz(−18dB/oct)
ピーク/VUメーター
0dB=180W(8Ω・NORMAL)
    360W(4Ω・NORMAL)
    720W(8Ω・BTL MONO)
使用半導体
IC・3,トランジスター・113,ダイオード・81,LED・2
(ピーク/VUメーター=IC・18,ダイオード6,LED・22)
消費電力
390W
寸法
H212.5×W478×D488mm
重量
30.5kg(段ボール・ケースを含まない)


※本ページに掲載したJM-S1000の写真,仕様表等は1975年2月の Victor
 のカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に著作権があります。し
 たがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられてい
 ますのでご注意ください。

  
 
 
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