Victor
JP-V1000
4Channel Control Amplifier ¥480,000
1975年に,ビクターが発売したコントロールアンプ。ビクターが高級機に付ける名称「ラボラトリーシリーズ」
が冠されたコントロールアンプで,ビクターが特に力を入れて開発した最上級機に付ける「1000」という型番
や堂々たる筐体を持つことからも分かるように,ビクターの意欲作でした。
JP-V1000を含む「ラボラトリー1000シリーズ」は,スタジオなどの業務用向けに特別開発された高信頼度
高性能をめざしたシステムで,コントロールアンプ,パワーアンプ,4チャンネル・ディモジュレーターがあり,全
機実測データで特性が保証され,さらに目的に応じて若干の仕様変更も可能など,通常の民生用オーディオ
機器とは,やや毛色の異なるシリーズでした。そして,この「ラボラトリー1000シリーズ」のコントロールアンプ
(プリアンプ)であるJP-V1000は,高音質とともに多彩な機能を備えていました。
JP-V1000は,「4チャンネル・コントロール・アンプ」と称されているとおり,通常の2チャンネルステレオの他
当時各社が展開していた4チャンネル再生に対応していたことが大きな特徴でした。そのために,4チャンネル
分の入力を備えていることはもちろん,ビクター自慢のSEA(サウンド・エフェクト・アンプ=グラフィックイコライ
ザー)を4系統装備していました。このSEAは,中心周波数が40Hz,150Hz,400Hz,1kHz,2.4kHz,
6kHz,15kHzの7素子で,同軸の2重ボリュームと独立ON-OFFスイッチで,フロントとバックチャンネルを
別々に調整することができ,別々にディフィートすることもできるようになっているなど,まさに4チャンネル対応
のグラフィックイコライザーでした。そして,再生時の音質調整や音場補正の他,スイッチひとつで録音回路へ
の挿入もできるようになっていました。
4チャンネル再生やSEA等のために,ピンクノイズ発生回路が搭載されていました。このピンクノイズ発生回
路は,フロント・バックとレフト・ライトの位相切り換えが独立しており,4つのどのチャンネル間でも位相チェッ
クが行えるようになっていました。また,4連マスターボリュームの他に,4チャンネルのレベルを各々単独に
調整できるサブ・レベル・ボリュームも装備されていました。そして,フロントパネルには,入力レベルを表示す
る4チャンネル分のレベルメーターが備えられていました。このレベルメーターは,磁気回路のリニアリティの
よい中央部分を利用する狭角度動作の高精度なものが採用されていました。
基本的な回路構成は,PHONOイコライザーアンプとSEAアンプ,そしてヘッドホンアンプからなり,ヘッ
ドホンアンプ以外は,インバーテッド・ダーリントンA級出力アンプという,同じ基本回路構成がとられてい
ました。出力段がA級シングル動作となっており,クロスオーバー歪みが原理的にないなど,すぐれた特
性が実現されていました。
PHONOイコライザーアンプは,±75Vの高電圧動作となっており,裸ゲインが90dB以上で,これに50dB
(1kHz)におよぶ負帰還をかけることで,低歪率と最大400mV(RMS)という大きなダイナミックレンジと,
RIAA偏差±0.3dB(20Hz〜20kHz)以内というすぐれた特性が確保されていました。SEAアンプは,
±35V動作で,新しく設計されたパーマロイシールドのハイリニア・コイルを組み合わせることで,高いリニ
アリティが確保されていました。
ヘッドホンアンプも4チャンネル対応型で,front用兼2ch時用の端子に加え,back用の端子が備えられ
マスターボリュームと関係なく動作するヘッドホン専用のレベルコントロールツマミも装備されていました。
PHONO入力は3系統装備され,3系統とも入力抵抗3段切り換え付きで,PHONO1入力には,入力容
量3段切り換えが装備されていました。その他にTUNER,AUX1,AUX2入力が備えられ,PHONO2,3
AUX1,2にはレベルアジャストツマミが装備されていました。さらに,MIC入力端子も装備されていました。
また,その他機能的には,ラウドネススイッチ,サブソニックフィルター,ハイカットフィルターも備えられてい
ました。
これらのアンプ回路等を支える電源部には,EIコア・トランスの約10倍の効率をもち,リーケージフラックス
(磁束洩れ)がきわめて少ない,重量2.9kgもの重量級大容量トロイダル電源トランスを搭載していました。
この電源トランスをベースにした±75V,±35V,±25Vの3系統の定電圧回路により,全回路に安定した
電源を供給していました。
JP-V1000は,上述のように業務用を意識した設計であるため,サービス性を重視し,回路基板はプラグ
イン・ユニット化され,使用頻度の多いマスターボリュームやセレクタースイッチなども基板ごと取り外して交
換できるようになっていました。
マスターボリュームは,4連タイプで,アッテネーターとボリュームの特徴を併せ持った,22点クリック付き
315度広角回転ボリュームが採用されていました。このボリュームは,左に回しきった3ノッチは10dBステッ
プで正確に切り替わるアッテネーターになっており,それ以上は精密ボリュームとなっており,連続可変が
できるようになっていました。この構造により,小音量時には連動誤差が少なく,それ以上になると,段階的
に音量が変化するという不自然さも抑えられていました。そして,このマスターボリュームは,上述のように
プラグイン基板にマウントされ,良好なサービス性が確保されていました。
セレクタースイッチも上述のように独立した基板に取り付けられており,外して交換できるようになっていまし
た。また,PHONOのLとRのウェハーを別にして間にシールド板を入れ,入力と出力の間にもシールド板を
入れるなど,信号の飛びつきやクロストークなどを抑えていました。
入力端子基板と回路基板の接続には,ポリイミド・シートをベースとした新開発のフレキシブル・ワイヤーを
使用していました。このフレキシブル・ワイヤーは,5層構造になっており,その構造自身で良好なシールド
効果を持つとともに,自在に曲げることができ,SN比やクロストークの改善を実現するとともに,基板のチェ
ックや取り外しも簡単にできるなど,サービス性も高められていました。
筐体は,コントロールアンプあるいはプリアンプとは思えないほどの厚みのある堂々たるもので,頑丈なフ
レーム構造がとられ,内部も整然とした作りとなっていました。特に,業務用途を考えられているため,ラッ
クマウントに対応した設計となっていました。そのために,頑丈なサイドフレームが採用され,BTS標準に
対応しているほか,注文時にRCAタイプにもできるようになっていました。
以上のように,JP-V1000は,「ラボラトリー1000シリーズ」のプリアンプとして,しっかりした作りと高い
機能性を実現し,ビクターの気合いを感じる1台となっていました。音の方は,業務用を意識しているため
か,ビクタートーンながらも色づけの少ない力強い音を実現していました。
Victor CD4-1000
CD-4 Disc Demodulator ¥480,000
「ラボラトリー1000シリーズ」のCD-4ディモジュレーターとして発売されたのがCD4-1000でした。2
チャンネルの次は4チャンネルというのは自然な発想で,国内でも1960年代から4チャンネル化の
動きが見られ,1970年にサンスイがクォードフォニック・シンセサイザーQS-1(¥39,900)を発売
すると,一気に4チャンネル戦争が始まりました。4チャンネル戦争と称されたとおり,各社各様の名称
と方式が乱立し,競争となりました。4チャンネルステレオの方式には,大きく分けると2
つの方向があり,2チャンネルソースを4チャンネル化する,あるいは,4チャンネル録音されたソース
を2チャンネルにまとめ,再び4チャンネルにして再生するマトリックス方式と,4チャンネルソースを4
チャンネルとして記録し,4チャンネル再生するディスクリート方式がありました。
マトリックス方式には,QS(サンスイ),サラウンドコンポーザー(オンキョー),オートマトリックス(オン
キョー),QX(コロムビア),QM(東芝),クォードリックス(トリオ),クオドライザー(ヤマハ),クォードラ
イザー(三洋),クォードラライザー(パイオニア),MA(日立),AFD(松下),QM-4(三菱),SFCS(ビ
クター),SQ(ソニー)などがあり,ディスクリート方式にはCD-4(ビクター),UD-4(コロムビア)がある
など,大混乱をきたしました。このような方式の乱立,不統一はユーザーの4チャンネル離れを招くこと
となり,各メーカーは,急ぎ,規格統一を行い,マトリックス方式は,QSをベースにしたRM(レギュラー
マトリックス)とSQの2種類に,ディスクリート方式はCD-4の1種類にまとめることが決められました。
ビクターは,このうちディスクリート方式のCD-4を開発したブランドで,1970年に発売しました。当時の
4チャンネルでは,ソースの記録媒体としてアナログレコードとが使われることになり,現在のDVD等の光
ディスクや半導体メモリーほどの記録容量がなく,4チャンネル分の信号を2チャンネル用の器に記録する
ために独自の工夫がされていました。そのために,マトリックス方式ではエンコーダーとデコーダーが必要
であり,ディスクリート方式ではディモジュレーター(復調器)が必要でした。
ビクターの開発したCD-4方式は,アナログレコードの音溝の片側の音域を50kHzまで拡大し,ここに
FM放送のステレオ方式と似た方法で2チャンネル分をカッティングするもので,周波数特性の上限は
15kHzに制限されるものの,セパレーションがFMステレオ放送並みに確保されていました。反面,カー
トリッジの高域特性が最低でも45kHz以上,理想は50kHz以上が必要で,それに達していないとノイズ
が発生する欠点がありました。当時のカートリッジは高域特性は20kHzが上限で,よくても25kHz程度
逆にそれ以上は必要ないと考えられていたため,ビクターは,1971年に,シバタ針を採用した4MD-X1
を開発し,50kHz以上の特性を実現しました。これ以降,カートリッジではラインコンタクト針などが発達し
通常の2チャンネルステレオ再生においても,高域特性が大きく改善されるという副産物を生みました。
当時,4チャンネルステレオは,家具調のセパレートステレオで主に展開されていましたが,数は多くない
ものの,プリメインアンプ等のコンポーネントタイプのものも発売されていました。ビクターも,単体のディ
モジュレーターCD4-1を1971年に発売するなどCD-4の開発メーカーとして,様々な機器を発売してい
ました。そして,CD4-1000は,そういった4チャンネル用の機器群の中でも最高級機にあたり,CD-4
方式のディモジュレーターとしても最高級機でした。CD-4方式が展開されていた最後期の時期にあたる
ため,それまでの技術やノウハウがしっかりと投入された高級ディモジュレーターとして完成されていまし
た。
CD-4方式のディモジュレーターとして,高品位のパーツにより構成され,業務用のCD-4再生標準機と
しても使えるだけの性能(歪率,S/N比,セパレーション特性等)が実現されていました。そして,再生時の
細かなチェックや補正が行える機能が搭載されていました。
CD-4録音系では,復調時にカートリッジとディモジュレーターによって生じるサブ・チャンネルのディレイ
タイムを補正するため,メインチャンネルを40μS遅らせるように設定されています。CD4-1000では
さらに,カートリッジの遅延特性のバラツキに対応して11ステップのスイッチによって±25μSの範囲で
ディレイタイムを調整できるディレイタイム・アジャスト回路が搭載されていました。この調整により,レコー
ド再生時に,30dB以上のセパレーションが確保されるようになっていました。
さらに,カートリッジのクロストークによって生じる歪みを低減するクロスモジュレーション・リダクション回路
ICとディスクリート混成のハイリニアーPLL回路を用いた復調回路などにより,高S/N,広セパレーション
特性が追求されていました。また,レコードから発生する中高域のノイズをおさえてS/N比を向上させるた
めに,ドルビーとよく似た動作を行うビクター独自のANRS(Automatic Noise Reduction System)
回路が装備され,ON/OFFができるようになっていました。さらに,背面パネルには,DET BAND CO-
NTROLスイッチが装備されていました。通常AUTO位置にしておくことで,入力に応じてサブ・チャンネル
の復調検波帯域が自動的に変化し,ときにはハイブレンド動作も加わってノイズが抑えられるようになって
いましたが,FIX位置では,これらの動作が行われず,レコードやカートリッジのテストができるようになって
いました。これらの回路は,1000シリーズ共通の仕様として,すべてプラグイン基板化されており,サービ
ス性も高められていました。
その他,サブ・チャンネルだけにハイ・カットフィルターが入るノイズフィルタースイッチや,18Hz以下をカット
するサブソニックフィルターも装備されていました。マスターボリュームは,JP-V1000と同一の4連マスター
・トリミング・ボリュームが装備され,連動誤差の少ない精密な音量調整が可能となっていました。
CD-4ソースの正確な再生のために,調整用レコードが付属し,各種の調整を行うスイッチが装備されて
いました。JP-V1000と同仕様のレベルメーターが装備され,テストレコードの信号を使って,キャリアー
レベル,セパレーション,4CHレベルバランスをチェック・調整するようになっていました。
PHONO入力は2系統装備され,カートリッジ2種類の瞬時の切換えが可能となっていました。PHONO 1
PHONO 2それぞれに,セパレーション・レベル調整ボリューム,ディレイタイム切換スイッチ,4CHレベル
アジャスト・ボリュームが備えられ,プリセットすることができるようになっており,また,それぞれに100kΩ
と47kΩの2段階の負荷抵抗切換が装備されていました。PHONO2系統を切換えることでカートリッジ2種
類の切換え比較使用が可能となっていました。また,AUX入力が1系統,テープモニターが2系統装備され
ていました。
以上のように,CD4-1000は,ビクター自慢の4チャンネル技術,CD-4専用のディモジュレーターとして
考え得る限りの多機能と高い性能が実現されていました。しかし,4チャンネル方式そのものが,方式競争
やユーザーにとっての使いこなしの難しさ,そして何よりソースとなるレコードがあまり増えなかったことなど
から,次第に尻すぼみになってしまいました。マルチチャンネル再生そのものは,後に映画館やAV(オーディ
オ・ビジュアル)等,映像分野で復活を遂げることとなりました。