ヤマハが1984年に発売した高級カセットデッキ。同社のカセットデッキの中で最上級機でした。であるとともに,同社のYAMAHA K-1X
STEREO CASSETTE DECK ¥118,000
カセットデッキ史上,最強の1台であり,1978年発売のK-1からスタートした同社の最高級デッキの型番である「K-1」
の名を冠した最終モデルでした。そして,ヤマハの高級カセットデッキの系譜は1988年のKX-1000で終わりを告げた
のでした。K-1シリーズは,1978年に,2ヘッドで最高の性能を追求したデッキとして登場しました。1980年にはメタルテープ
に対応したK-1aが登場,1981年にはdbxを搭載したK-1dとなりました。その後,1982年には,3ヘッド,コンピュ
ータによるバイアスチューニングシステムを搭載したK-2000をはさんで,1984年に本機K-1xが登場しました。技術
的に見るとこれらの流れを汲み,その技術の蓄積を生かした集大成的なモデルとなっていました。ヘッドは,ヤマハ自慢の高純度ピュアセンダストによるコンビネーション型3ヘッドでした。TC-1000で初めて採用したヤ
マハのピュアセンダストヘッドは,99.999999〜という高純度のセンダストを高真空のカプセル内で溶かし,同じカプセ
ル内にセットされた高速回転するセラミックの鋳型の中に流し込んで鋳造するという結晶方向の揃った超高純度のローイ
ンピーダンスのセンダストヘッドでした。K-1xでは,このピュアセンダストをコア材として3枚ラミネート構造としたマルチラ
ミネート構造とし,3ヘッド化して,再生用0.7μ,録音用2.0μのヘッドギャップをとっていました。また,消去ヘッドには
フェライトを使用し,さらに0.3μ厚のガラス結晶をイオンプレーティングによりコーティングしたイオンプレーティング・フェ
ライトヘッドとして,20kHz以上の超高域再生時の自己消磁による録音内容のレベル低下を防いでいました。走行系は,K-1シリーズで初のクローズドドループデュアルキャプスタン方式を採用していました。それまで,K-1シリ
ーズは,シングルキャプスタンのシンプルな走行系で高精度なテープ走行を追求して実現していました。本機で初めて
デュアルキャプスタンの採用となりました。ピンチローラーとキャプスタンの径を,サプライ側とテイクアップ側で微妙に変
えて共振を防ぐ周波数分散型としていました。また,走行系随所に従来比2.5倍の剛性を持つ厚肉鋼板を使用し,ヘッ
ドブロックには精密で重量のある亜鉛ダイキャストを用いて振動を吸収する構造としていました。テープ駆動モーターは,
キャプスタン系とリール系,メカニズム系を完全に分離させた2+1モーターの3モーター・セパレートドライブ方式を採用
していました。アンプ系は,自慢のアンプ技術を生かし,信号電流がアースラインに流れ込まないようにしてアースラインからの影響を
抑えたピュアカレントダム装備の高性能デュアルFET差動入力・ダイレクトカップリング・再生イコライザアンプを搭載して
いました。録音系統用には,高出力の得られる高性能オペアンプを搭載,さらに安定化±2電源,Bus-Barアースライ
ンなどマスターデッキとして高性能のアンプ系を構成していました。機能的には,バイアスを4ビットマイコンでチューニングする「ORBiT(Optimum Reccrd Bias Tuning)」を搭載して
いました。約2秒でチューニングが完了するというシステムでした。これは,前モデルのK-2000から搭載された機能で
した。ノイズリダクションは,ドルビーに加え,K-1dからの伝統のdbxを搭載し,dbx INでは30〜40dBのノイズリダク
ション効果がありました。ドルビーには本モデルから,Bタイプに加えCも搭載され,さらに動的バイアスを最適に保ち高
域周波数特性を改善するドルビーHX-PROを搭載し,フル装備という感じでした。以上のように,K-1xは手堅い作りのオーソドックスな高性能デッキでした。また,翌年の1985年にK-1xのスペシャル
モデルK-1xwが登場しました。K-1xをベースにして,新たにメカ部,アンプ部独立電源トランスを搭載して独立給電に
なっていたほか,各部のパーツをさらに厳選したものにしていました。シルバーパネルにサイドウッドが,また違った高級
感をもつ美しいデザインを作り上げていたように思います。
ヤマハはカセットデッキの分野では,派手な活躍はありませんでしたが,安定した技術を持ち,特に,K-1シリーズはオ
ーソドックスな技術を積み上げ,完成度を重視したしっかりした高級デッキでした。
YAMAHA K-1XW
STEREO CASSETTE DECK ¥138,000
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
デジタルソースにも完璧に対応する
高度な基本性と贅沢な機能の数々です
新時代の高級デッキのあり方を示唆します
◎音楽の全景をベスト録音するマスターデッキです
◎そして,ヤマハ・ピュアセンダスト3ヘッド搭載
◎走行系もアンプ系も,機能も操作性も最高です
●K-1xの主な規格●
テープ駆動方式 | クローズドループデュアルキャプスタン |
モーター | キャプスタン用 DCサーボモーター リール用 フラットトルクDCモーター アシスト用 DCモーター |
ヘッド | 録音 ピュアセンダスト3枚ラミネート 再生 ピュアセンダスト3枚ラミネート 消去 イオンプレーティングダブルギャップフェライト |
メータ | 最適録音レベル範囲インジケーター付き20セグメントワイドレンジ(−∞から+20dB)2色ピークメータ |
ヘッドアンプ | デュアルFET差動入力DCアンプ |
バイアス調整 | ダイナミック ドルビーHXプロフェッショナル スタティック ヤマハORBiT |
カウンタ | 4桁デジタルリニアカウンタ |
ワウ・フラッタ | 0.03%(JIS-WRMS) 0.06%(EIAJ・Wピーク) |
周波数特性 | 20Hz〜18kHz±3dB(ノーマル:−20dB録音) 20Hz〜20kHz±3dB(クローム:−20dB録音) 20Hz〜23kHz±3dB(メタル:−20dB録音) |
SN比 | 95dB(dbx ON) 73dB(ドルビーC ON) 56dB(NR OFF) |
総合歪率(EIAJ) | 0.5%(ノーマル) 0.5%(クローム) 0.8%(メタル) |
クロストーク | 60dB |
入力端子 | ライン40mV |
出力端子 | ライン360mV |
消費電力 | 25W |
寸法 | 435W×134H×380Dmm 474W×129H×378Dmm(K-1xw) |
重量 | 7.6kg 9.8kg(K-1xw) |
※本ページに掲載したK-1xの写真,仕様表等は1984年10月のYAMAHAのカタログ
より抜粋したもので,日本楽器製造株式会社に著作権があります。したがって,これらの
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