TRIO KA-3300
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥34,500
1975年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したプリメインアンプ。トリオはエレクトロニクス分野で
高い技術をもち,FMチューナーで高い評価を受けていました。アンプの分野でも,回路技術に冴え
を見せ,プリメインアンプを中心に画期的な製品を送り出していきました。特に,1975年というこの
年,トリオは左右独立電源を提唱したKA-7300など,画期的なプリメインアンプを送り出し,人気
を高めた年となりました。そうした中,コストパフォーマンスの高さを代表した機種がKA-3300でし
た。
プリアンプ部は,初段FET差動増幅ICL方式のイコライザーが搭載されていました。FETが通常の
電流増幅型のトランジスターと異なり電圧増幅型で,入力回路に電流が流れないためPHONO入
力を直接受け入れられることを利用して,PHONO入力からの微小な音楽信号を扱うプリアンプ部
のコンデンサーをカットすることが可能となり,ICL(インプット・コンデンサー・レス)方式が実現され
ていました。これにより,位相特性,歪み特性が改善されていました。初段FET差動方式を使用し
た±2電源方式ICLアンプは,特に高耐圧のFETを使用して±26Vの高電圧をかけて,1kHzで
210mV,10kHzの実測イコライザー許容入力は1,000mVという大きなダイナミックレンジを確
保していました。
パワーアンプ部は,全段直結+純コンプリメンタリーOCL回路が採用されていました。特に出力段
に新開発の音響素子であるパワーダーリントンブロックを採用していました。4トランジスターと温度
補償回路で構成される純コンプリメンタリー・パワーダーリントン・ブロックで,三重拡散型40Wの性
能をもち,これを余裕をもって35Wで使用して低歪率を実現していました。また,広いプレートをもつ
構造で,熱放射率も高く,安定性もすぐれたものがありました。
また,電源部は,6,800μFの大容量コンデンサーを2本使用したもので,大きなパワーゲインを
確保していました。
KA-3300は,定価¥34,500というエントリークラスのアンプながら,35W+35Wという出力を実
現していました。この当時,アンプはパワーアンプの出力が重視される傾向があったため,1Wあた
りいくらかというパワーコストが話題になり始めていました。そこで,トリオ自身も「業界初の1Wあたり
1000円を切ることに成功しました。」と宣伝し,話題を集め,人気モデルとなりました。そのためこれ
以降,各社とも熾烈なパワーコスト競争を始め,1Wあたり1000円を切るアンプが多く発売されるこ
ととなりました。
KA-3300は,エントリークラスのプリメインアンプであり,幅380mmとやや小さめのフロントパネ
ルながら,ツマミ類が整然と配置されたシャープなデザインとなっていました。機能的には比較的
シンプルながら,プリメインアンプとして標準的な機能は装備されていました。
入力は,PHONO,TUNER,AUX各1の3系統とTAPE端子が2系統搭載され,TAPEは相互ダ
ビングも可能となっていました。そして,41接点のボリュームツマミとBASS,TREBLE独立の11
接点のトーンコントロールツマミ,ラウドネススイッチ,ヘッドホン端子などが搭載されていました。
ACアウトレットも,チューナー,プレーヤー,テープデッキを接続することを考慮して3系統装備さ
れていました。
この当時,各社ともプリメインアンプと同時にサイズ,デザインに統一感をもたせたペアとなるチュー
ナーを発売していました。KA-3300にもペアとなるFM/AMチューナーKT-3300(¥25,500)
が同時に発売されており,組み合わせるとエントリークラスのシステムの核となるペアができ,デザ
イン的にも精かんなかっこよさを感じさせるものでした。また,別売のブラジリアンローズウッド仕上
げのウッドケースSRA-3000(¥4,500)も用意されており,収めるとエントリークラスを超えた落
ち着いた高級感が味わえるようになっていました。
以上のように,KA-3300は,トリオがエントリークラスのプリメインアンプに投入した戦略モデル
ともいえ,「1Wあたり1000円を切る」といったわかりやすいPRでハイパワーとコストパフォーマ
ンスの高さをを印象づけ,人気モデルとなり,その後のプリメインアンプのコストパフォーマンス競
争にも影響を与えたという意味でも画期的な1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
初段FET差動増幅ICL方式イコライザー,
(全段直結+純コンプリメンタリー)OCL方式メインアンプ・・・
実効出力35W+35W(20Hz~20kHz両ch動作8Ω)
アンプKA-3300 価格¥34,500
◎イコライザーは新設計FET差動ICL方式
◎35W+35Wのハイパワー設計
◎ディレースタート・サーキット(特許出願中)
◎41接点のボリュームツマミ,11接点のトーン
コントロールツマミを採用して,オーディオフィー
リングあふれるツマミの感触を得ました。
◎2系統のテープ端子
◎3組のACアウトレット
(パワーアンプ部)
実効出力 | 35W+35W(20Hz~20kHz,両ch動作8Ω) 38W+38W(1kHz,両ch動作8Ω) 40W+40W(1kHz,両ch動作4Ω) |
ミュージックパワー | 96W(IHF規格8Ω) 100W(IHF規格4Ω) |
全高調波歪率 | 0.8%(定格出力時,8Ω) 0.08%(定格出力-3dB時,8Ω) |
混変調歪率 | 0.5%(定格出力時,8Ω) 0.1%(定格出力-3dB時,8Ω) |
出力帯域幅 | 10Hz~40kH(IHF規格) |
残留雑音 | 0.8mV |
ダンピングファクター | 30 |
最適負荷インピーダンス | 4Ω~16Ω |
(プリアンプ部)
入力端子
感度/インピーダンス/SN比 |
PHONO 2.5mV/50kΩ/70dB TUNER 150mV/50kΩ/90dB AUX 150mV/50kΩ/90dB TAPE PLAY 150mV/50kΩ/90dB |
出力端子 出力レベル/出力インピーダンス |
150mV(TAPE REC PIN) |
プリアウト出力インピーダンス | 500Ω |
プリアンプ部 出力歪 | 0.04%(AUX 1V出力時) |
許容最大入力 | 210mVrms |
周波数特性 | TUNER・AUX・TAPE PLAY 20Hz~20kHz±2dB PHONO RIAA偏差 ±0.8dB |
トーンコントロール | BASS 100Hz ±8dB TREBLE 10kHz ±8dB |
ラウドネスコントロール | 100Hz+6dB,10kHz+10dB(定格出力-30dB時) |
(電源部・その他)
電源電圧・電源周波数 | 100V 50Hz/60Hz |
定格消費電力 | 90W(電気用品取締法に基づく) |
電源コンセント | 電源スイッチ連動 2
非連動 1 |
寸法 | 380W×140H×255Dmm |
重量 | 7.5kg |
※本ページに掲載したKA-3300の写真,仕様表等は1975年7月の
TRIO(KENWOOD)のカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
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