Victor KD-95SA
STEREO CASSETTE DECK ¥108,000
1977年に,ビクターが発売したカセットデッキ。当時のビクターのカセットデッキのプレステージ機で,歴代の
ビクターカセットデッキ中でも,最大のパネル高,筐体をもつ巨大ともいえるカセットデッキでした。当時カセット
デッキが水平型から正立型のいわゆるコンポスタイルに移行していた時期で,その過渡期の力作でした。
ヘッドは2ヘッド構成で,録再ヘッドには,ビクター自慢のSA(センアロイ)録再ヘッドが搭載されていました。当
時,多くのテープデッキには,パーマロイヘッドやフェライトヘッドが主に使われていました。パーマロイヘッドは
磁気特性にすぐれ音質が良い反面,摩耗に弱く,フェライトヘッドは,耐摩耗性にすぐれる反面,割れや欠けの
心配があり,磁気特性ではパーマロイに劣るといわれていました。それらの問題を解消すべく,ビクターは,東
北大学で開発された合金・センダストを使用したSAヘッドを世界に先駆けて新開発し,1975年にKD-3に初搭
載しました。SAヘッドは,パーマロイ積層コアーにコイルを巻き,その先端のテープ摺動部にフェライトに匹敵す
る硬さで,しかも磁気的特性はパーマロイをしのぐ素材・センダスト合金をチップとして高温接着した構造で,従
来のヘッドに比べて,長寿命と高音質を高いバランスで実現していました。この後,各社からもセンダスト合金を
使用したヘッドが発売されたものでした。また,消去ヘッドには,ダブルギャップフェライトヘッドが搭載されていま
した。
走行系は,シングルキャプスタンのオーソドックスなものですが,2モーター搭載のID(Independent Drive)メ
カニズムが採用されていました。IDメカニズムは,キャプスタンの駆動ベルトを他の駆動系から独立させたもの
で,テイクアップホイールなどからの干渉を遮断して,より安定したテープ走行を確保しようとしたものでした。
KD-95SAでは,キャプスタン駆動に専用のFGサーボDCモーターが搭載され,電子式ロジックオペレーション
でソフトで軽快なテープ走行の操作が可能となっていました。走行系メカニズムは,しっかりした金属製シャーシ
にマウントされて精度が高められ,大型のフライホイールが使用され,ワウ・フラッター0.05%(WRMS)とい
う安定したテープ走行が実現されていました。
KD-95SAオーソドックスな正立型のテープデッキに見えますが,イジェクトボタンを押すとカセットハーフ前面の
カセットホルダーに見える部分(実はカセットドア)が上に開き,カセットハーフが露出する構造となっていました。
つまり,カセットハーフを直接走行メカニズムにマウントするいわゆるダイレクトマウント方式になっており,デュア
ルボール方式で,がっちりカセットハーフが固定されるようになっていました。
テープセレクターは,バイアス,イコライザー独立式で,それぞれNORM,SF,CrO2の3ポジションで, 組み合
わせにより,ノーマル,ノーマルハイアウトプット,クローム(ハイポジション),フェリクロームのテープに対応して
いました。さらに,400Hz発振器とキャリブレーション・ボリュームが装備され,テープの種類による感度の違い
を正確に補正できるようになっていました。これに加え,5段階に録音イコライザーの切換ができるレコーディン
グ・イコライザー・スイッチが装備されていました。これは,録音時の周波数特性を,10kHzで1.5dBステップ
+3dBから−3dBまで変化させ,テープの特性に応じて調整できる機能でした。
ノイズリダクションとして,ビクター独自のANRSとスーパーANRSが搭載されていました。ANRS(アンルス)は
(Automatic Noise Reduction System)の略で,ビクターが4チャンネルシステムCD-4の開発時にディ
スクの中高域ノイズを抑える目的で開発したもので,高域ノイズを最大10dB低減する効果があり,ドルビー(B
タイプ)とよく似た動作をするため,ドルビーとの互換性もあるというものでした。スーパーANRSは,このANRS
をさらに発展させたもので,高域リニアリティ,ダイナミックレンジ等の向上効果ももたせたものでした。反面,ド
ルビーとの互換性はありませんでした。
レベルメーターは,正確な表示の針式のVUメーターで,視認誤差を抑えるミラースケール内蔵型でした。さらに
LEDを用いた5ポイント表示のピーク・インジケーターも搭載されていました。
以上のように,KD-95SAは,オーソドックスに技術と物量を投入して作り上げられた,高性能な1台でした。中
域から無理なくバランス良くレンジを伸ばし,しっかりとエネルギー感のある音は,そこに投入された物量を物語
るものだったと思います。各部に投入された新しい技術や独自の技術は当時のビクターのカセットデッキにかけ
る熱意を感じるものでした。