Victor KD-970SA
STEREO CASSETTE DECK ¥83,800
1975年に,ビクター(現JVCケンウッド)が発売したカセットデッキ。ビクターは,特にカセットデッキの時代
になると,多くの機種を投入してテープデッキの分野に台頭してきたブランドで,独自のノイズリダクションシ
ステム,センダスト合金を使用したヘッドなどすぐれた技術を発揮していきました。当時,カセットデッキは上
面にテープメカニズム,操作系統が配置された水平型から,前面パネルに操作系統が配置されたコンポタイ
プへと主流が移りつつあり,KD-970SAは,当時のビクターのコンポタイプのカセットデッキのトップモデル
として発売された1台でした。

ヘッドは2ヘッド構成で,録再ヘッドには,ビクター自慢のSA(センアロイ)録再ヘッドが搭載されていました。
当時,多くのテープデッキには,パーマロイヘッドやフェライトヘッドが主に使われていました。パーマロイヘッ
ドは磁気特性にすぐれ音質が良い反面,摩耗に弱く,フェライトヘッドは,耐摩耗性にすぐれる反面,割れや
欠けの心配があり,磁気特性ではパーマロイに劣るといわれていました。ビクターは,東北大学で開発された
合金・センダストを使用したSAヘッドを世界に先駆けて新開発し,1975年に過半型デッキKD-3に初搭載し
ました。SAヘッドは,パーマロイ積層コアーにコイルを巻き,その先端のテープ摺動部にフェライトに匹敵す
る硬さで,しかもリニアリティ,温度特性はパーマロイをしのぐ素材・センダスト合金をチップとして高温接着し
た構造で,従来のヘッドに比べて,長寿命と高音質を高いバランスで実現していました。KD-970SAは,こ
のSAヘッドをコンポスタイルのカセットデッキとして初めて搭載していました。


テープ走行メカニズムは,「スラント・メカニズム」が採用されていました。このころ,カセットデッキは,水
平型からコンポスタイル(現在のカセットデッキに見られるアンプのような形で前面パネルにカセットリッ
ドがあるタイプ)への移行期で,両方のタイプが併存していました。そして,この時期に,水平駆動タイプ
のメカニズムをやや斜めにした「スラント・メカニズム」というタイプが作られていました。当時,もともと水
平駆動のメカニズムからスタートしたカセットテープは,立てて正常に動作するかという技術的な不安が
いわれていたためでした。(実際には,問題はなく,この後,立てて動作するタイプが主流となったこと
はご存じの通りです。)KD-970SAは,水平型のメカニズムをそのまま30度傾けた「スラント・メカニズ
ム」が搭載されていました。


テープを見やすくし,前面操作を可能にするため,メカニズム自体を30度傾けたKD-970SAの「スラン
ト・メカニズム」は,シシングルキャプスタンのオーソドックスなものですが,ID(Independent Drive)メ
カニズムが採用されていました。IDメカニズムは,キャプスタンの駆動ベルトを他の駆動系から独立させ
たもので,リール台等からの干渉を遮断して,より安定したテープ走行を確保しようとしたものでした。ま
た,キャプスタンは0.1ミクロンの真円度を誇る西ドイツのシュマーグ社製のものが搭載されていました。
心臓部のモーターには,周波数発電機を組み込んだ回転精度の良いDCサーボモーターを搭載していま
した。このモーターのサーボ方式は,回転数に比例した発電周波数によって駆動回路をコントロールする
純電子制御で,スピード偏差やドリフト,ワウ・フラッターが少なく,長寿命の高性能サーボモーターでした。
大型フライホイールや高精度・長寿命ネオプレン・ゴムベルトとの組み合わせで,サーボモーターのメリッ
トを生かした高安定度と低ワウ・フラッターを実現していました。
テープメカニズム系は,ピアノキー式の操作系を搭載し,メカニズム操作レバーには,ポーズレバーを除い
て丈夫なSK鋼材(炭素工具鋼)を使用したものでした。また,レバーの下部にはプロテクターが配されてい
ました。そして,CdS(硫化カドミウム)フォトセルでテープエンドを検出して電磁ソレノイドを操作させるフル
・オートストップ機構が搭載され,早く確実な動作で,テープやメカニズムへの負担をかけない設計になっ
ていました。

イコライザー回路は,SN比,過渡特性,歪率を重視してCR型が採用され,ハイゲイン設計で前2段に十
分な負帰還をかけていました。クロームイコライザーは,高域とともに低域のリニアリティを向上させるよ
う,3180μs-70μsの時定数が採用されていました。
バイアス発振回路は,低歪みのものが搭載され,可変コイルを用いた厳重なバイアスとラップ回路も搭載
されていました。
テープセレクターは,バイアス,イコライザー独立の2段切換となっており,ノーマル,クロームに加えフェリ
クロームテープも使用できる設計となっていました。

入力は,ライン入力に加え,DIN入力,そして前面パネルにL・R独立のマイク入力が装備されていました。
ライン入力は,マイクアンプを通らず,ライン入力とマイク入力は独立したボリュームでレベルを調整できる
方式になっており,マイク入力はDIN入力と兼用の回路となっていました。これにより,マイク入力/DIN入
力とライン入力はミキシングも可能となっていました。さらに,ラインアンプは規定レベル+18dBもの大入
力に耐えるIC回路が採用され,広いダイナミックレンジ,低歪率を実現していました。
レベルメーターは,針式のVUメーターが装備されていました。低出力インピーダンスのIC回路でドライブ
され,精度の高いダンピング特性の優れたメーターの採用により,20kHzでの指示誤差-2dB以内とい
う指示精度を確保していました。また,スイッチの切換により,パルシブな入力に追従するピーク・チェッ
クメーターとしても動作するようになっていました。

ノイズリダクションとして,ビクター独自のANRSが搭載されていました。ANRS(アンルス)は(Automatic
Noise Reduction System)の略で,ビクターが4チャンネルシステムCD-4の開発時にディスクの中
高域ノイズを抑える目的で開発したもので,高域ノイズを最大10dB低減する効果があり,ドルビー(Bタイ
プ)とよく似た動作をするため,ドルビーとの互換性もあるというものでした。このANRSには新開発された
ICが使用されコンパクト化されていました。歪補正回路と可変出力インピーダンス設計によって歪率の向
上が図られ,全段直結構成によって過渡特性,位相特性,ノイズ変調特性が向上していました。録・再切
換をICに内蔵した電子スイッチで行い,回路基板から機械接点を排除して信頼性を高めていました。
ユニット基板化されたアンプ回路は,それぞれ可変箇所を多く設けて1台ずつ入念に調整され,基板間の
連結にワイヤーの使用を極力避けて,ライン基板には印刷抵抗を多用して半田付け箇所を減らすなど,
信頼性を高めていました。
電源部は,漏洩磁束の少ないオリエント・コア材の電源トランスが搭載され,定電圧化電源により,全回路
の安定動作を図っていました。

以上のように,KD-970SAは,コンポスタイルのカセットデッキの方向性を探り,完成度を高めようとして
いたビクターの熱意が感じられる1台でした。水平型のメカ,回路等をベースにコンポスタイルのカセットデ
ッキを作り上げていったビクターの苦心も感じられる設計でしたが,SAヘッドを初めて搭載したコンポスタ
イルのカセットデッキとして記憶に残る1台かと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



SAヘッド採用,留守録音機能もそなえた
充実コンポタイプ・デッキ

高リニアリティ,低ワウ・フラッター
カセットの極をもとめる基本性能重視設計。

フェライトの寿命とパーマロイの音質
高性能SAヘッド

すぐれた基本性能の支え,
高リニアリティ・アンプ・ユニット

◎3段増幅CR型イコライザー回路
◎MIC/DINとLINEのミキシング録音可能
◎ANRS-IC回路
◎ユニット構成,省ワイヤー設計
◎ピークチェック切換え高性能VUメーター
◎バイアスとイコライザー独立の
 2段テープ・セレクター

●歪みの少ないバイアス発振回路と,
 可変コイルを用いた厳重なバイアス・トラップ回路。
●漏洩磁束の少ないオリエント・コア材電源トランス。
●定電圧化電源による全回路高安定動作。
低ワウ・フラッター,高安定,
精密スラント・メカニズム

◎周波数制御DCサーボ・モーター
◎精密IDメカニズム
◎光電式フル・オートストップ機構
◎堅牢なSK鋼材のメカニズム操作レバー
快適な操作性と充実した付属機構
◎タイマー・レコーディング機構
◎エア・ダンプ式カセット・ドアー

●テープ走行を妨げない純電子式テープ・ランインジケーター。
●頭出しに便利なメモリー・カウンター
●再生専用ボリューム付き。
●ACアウトレット(電源スイッチ非連動)付き。




●KD-970SA型規格●

型式 4トラック・2チャンネル・ステレオ・カセットデッキ 
周波数特性  20~18,000Hz(クローム)
20~17,000hZ(ノーマル) 
SN比  56dB(JIS),52dB(ピークレベルより)
ANRS ON時 1kHzで5dB,5kHz以上で10dB改善 
ワウ・フラッター 0.09%(WRMS) 
クロストーク  65dB(録・再飽和レベルにて) 
チャンネル・セパレーション  35dB(録・再飽和レベルにて) 
バイアス・消去  ACバイアス95kHz AC消去95kHz 
ヘッド  録・再(1)SA(センアロイ)ヘッド 消去(1)2ヘッド構成 
モーター  周波数制御DCサーボ 
早送り・巻戻し時間  90秒(C-60にて) 
使用半導体  IC8,Tr37,ダイオード33,FET2 
入力部  MIC(2)最大感度0.2mV 適合・マイクインピーダンス600~10kΩ
LINE-IN(2)最小入力レベル78mV,入力インピーダンス100kΩ
出力部  LINE-OUT(2) ライン出力レベル0~0.5V
出力インピーダンス10kΩ以上
ヘッドホン出力0~0.5mW 8Ω 
録・再コネクター  DIN(1) 入力=最小入力レベル15mV
      入力インピーダンス9.2kΩ
      出力=(ライン出力に準ずる) 
電源 AC100V 50/60Hz 
消費電力  18W 
寸法  420W×159W×297Dmm 
重量  8.5kg 
付属品  接続コード(PIN-PIN)2,ヘッド・クリーニングバー1
チェック・ミラー 
※本ページに掲載したKD-970SAの写真,仕様表等は1975年10月
 のVictorのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で 転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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