TRIO KP-5050
DIRECT DRIVE TURNTABLE ¥55,000
1979年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したプレーヤーシステム。当時のトリオは,チューナー,
アンプ等のイメージが強く,まだアナログプレーヤーではあまりブランドイメージは強くありませんでし
たが,1976年,大慣性質量の重量級ターンテーブルを搭載したKP-7300を出し,オーソドックス
に性能を追求した,しっかりしたプレーヤーシステムとして評価を受けました。その後もKP-7700,
KP-7600など,重量級ターンテーブルを核にしたプレーヤーシステムを開発・発売し,評価を高め
ていきました。その後継の主力機として発売されたのがKP-7070で,その弟機として発売されたの
がKP-5050でした。
KP-5050は,重量2.6kg,直径330mmのアルミダイカスト製の重量級ターンテーブルを搭載し,
慣性質量550kg・cm2という慣性モーメントによりトリオの称した「慣性ロック」が働くようになってい
ました。サーボでは対応しにくい動的負荷ともいうべきレコードの音溝の複雑な音楽波形による過渡
的負荷変動に対しては「慣性ロック」が有効に働き,過渡的な負荷変動を抑え,静的負荷ともいうべ
き周波数成分の低い(ゆるやかな)変動に対しては,サーボ回路で補正するようになっていました。
重量級のターンテーブルを支えるセンターシャフトは直径7mmのものを使用して偏芯やねじれを抑
え,このセンターシャフトがそのままモーターの回転軸になる設計となっていました。モーターは,20
極30スロットのDCモーターで,1.0kg・cm以上の起動トルクを持っていました。
トーンアームは,アームレゾナンスと1次分割共振という同時に制御することが難しい2つの外乱の
影響を抑えようとする「弾性カップリング質量分離型トーンアーム」が搭載されていました。これは,
NHK技術研究所との共同開発から生まれたもので,アームレゾナンスと1次分割共振が逆相であ
ることを利用して同時にキャンセ ルしようとするもので,ハウリングマージンを上げるとともに,レベ
ルの大きな低域共振・f0共振を抑えて音質の改善を実現していました。アームパイプとメインウェイ
トはブチルゴムでカップリングされ,メインウェイト部で発生する分割振動をカートリッジに伝えない設
計となっていました。
ヘッドシェルは,ネック部から接合部をなくしたアルミダイキャスト製一体成形タイプで,アームパイプ
とネックの接合にはコレクトチャック方式を採用して,剛性,防振性を高めていました。端子は金メッ
キが施され,接触ロス,伝送ロスを抑えていました。
アームの固定には,新方式のウェッジチャック・アーム固定が採用されていました。①を手前に引くこ
とでスライドカム②が上方に持ち上げられ,ウェッジカム③が左方に移動し,アームシャフトをアーム
ベースに押さえつけるという仕組みで,ウェッジカムには,高硬度の焼結合金を使用し,ネジ固定の
45倍以上の接触面積でアームシャフトを圧着することになり,きわめて剛性のアーム固定方式となっ
ていました。アームの高さ調整には,光学機械の焦点合わせにも使われる高精度でスムーズな調整
が可能なヘリコイド方式が採用されていました。アームエレベーションはレバーで行うタイプで,完全
密閉型のオイルタンクを持ったオイル式エレベーション機構が採用され,スムーズかつ誤操作に対し
てもトーンアームがバウンドすることが防止されていました。アンチスケーティング機構は,動作が安
定したスタティックタイプのアンチスケーティング機構で,トーンアームがレコード盤上にスライドした位
置で動作する構造で,ゼロバランス調整位置では,糸かけ式のようにアンチスケーティング・フォース
が加わらないようになっていました。
キャビネットは,硬質のホモゲンチップボードに,レジンコンクリートを主原料として天然石の補強を加
えたARCB(アンチ・レゾナンス・コンプレッションベース)キャビネットが採用されていました。トーンアー
ムを支えるトーンアームベースは,直径90mm,厚さ6mmという接触面積の大きい剛性の高いもので,
キャビネットだけでなくARCB材をもホールドする構造で,トーンアームが,キャビネットに根を張った
かの防振設計となっていました。
また,スタート・ストップ切換スイッチおよび回転数切換スイッチには,操作時に振動の発生しにくい導
電型を採用していました。
以上のように,KP-5050は,主要部分にしっかりと物量を投入し,KP-7070などよりコストパフォー
マンスを高めた,質実剛健ともいえるプレーヤーでした。機能をシンプルにまとめ,ひとクラス上のプ
レーヤーに匹敵する性能を実現しようとした意欲作でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
550kg・cm2の慣性LOCK。
防振効果の高い
アンチレゾナンス設計
◎慣性モーメント慣性モーメント550kg・cm2
のターンテーブル
20極30スロットDCサーボモーターが
トランジェント負荷変動を抑止
◎超ド級ターンテーブルの核に
7φのセンターシャフト
◎キャビネットとARCB材,2層を
ホールディングするトーンアームベース
◎ウェッジチャック式アームホールディング
◎弾性カップリング方式
質量分離型トーンアーム
●ヘリコイド方式アーム高さ調整機構
●スタティックタイプのアンチスケーティング機構
●KP-5050定格●
■フォノモーター部■
駆動方式 | ダイレクトドライブ |
モーター型式 | 20極30スロットDCモーター |
起動トルク | 1.0kg・cm以上 |
ターンテーブル | 330mm/2.6kgアルミ合金ダイキャスト |
慣性モーメント | 550kg・cm2(ゴムシート含む) |
回転数 | 331/3,45rpm |
ワウ・フラッター | 0.027%(WRMS)以下 |
SN比 | 62dB(JIS),80dB(DIN-B) |
トランジェント負荷特性
(400Hz331/3,20kg・cm負荷) |
0.00030%以下 |
トランジェント負荷特性
(1000Hz331/3,20kg・cm負荷) |
0.00015%以下 |
■トーンアーム部■
型式 | スタティックバランスS字型パイプアーム |
構造 | 弾性カップリング質量分離方式 |
アーム実効長 | 245mm |
オーバーハング | 15mm |
トラッキングエラー | +1.8°~-1.0° |
針圧可変範囲 | 0~3.0g(0.1gステップ) |
適用カートリッジ重量 | 2~12g(付属シェル使用時) |
付属シェル | 一体成形アルミ合金ダイキャスト |
アーム高さ調整 | 6mm |
■総合特性■
電源 | AC100V,50/60Hz |
消費電力(電気用品取締法に基づく表示) | 10W |
寸法 | 490W×165H×458Dmm |
重量 | 15.5kg |
付属機構 | スタティック型アンチスケーティング トーンアーム高さ調整,ウェッジチャック方式アームロック オイル式アームエレベーション,タッチ式操作スイッチ 回転数確認メーター |
※本ページに掲載したKP-5050の写真・仕様表等は1979年
10月のTRIOのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
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