TRIO KP-7070
QUARTZ PLL DD TURNTABLE ¥70,000
1979年に,トリオ(現ケンウッド)が発売したプレーヤーシステム。当時のトリオのプレーヤーシステムの
中で,中核となる中級機で,オーソドックスに物量を投入したプレーヤーでした。当時のトリオは,チュー
ナー,アンプ等のイメージが強く,まだアナログプレーヤーではあまりブランドイメージは強くありませんで
したが,1976年のKP-7300で,大慣性質量の重量級ターンテーブルを搭載したプレーヤーを出し,重
量級ターンテーブルを核にしたしっかりしたプレーヤーシステムで評価を高めていきました。KP-7070は
そうした中の1台で,KP-700,KP-880D,KP-1100等,1980年台の同社のアナログプレーヤー
の飛躍へとつながっていった1台でもありました。
KP-7070は,慣性ロックとクォーツロックの併用,弾性カップリング質量分離型トーンアーム等,基本的
には1977年発売のKP-7700を技術的に継承しており,よりコストパフォーマンスが高められていました。
KP-7070は,重量2.6kg,直径330mmのアルミダイカスト製の重量級ターンテーブルを搭載し,慣性
質量は550kg・cm2の慣性モーメントによりトリオの称した「慣性ロック」が働くようになっていました。動
的負荷ともいうべきレコードの音溝の複雑な音楽波形による過渡的負荷変動に対しては「慣性ロック」が
有効に働き,静的負荷ともいうべき周波数成分の低い外乱,あるいは時間ドリフトに対しては,水晶精度
のクォーツPLLが有効に働き,それぞれの特性を生かして高精度に定常回転をロックするようになってお
り ,トリオはこれを「ダブルロック」と称していました。
重量級のターンテーブルを支えるセンターシャフトは直径10mmの超弩級のものを使用して偏芯やねじれ
を抑え,このセンターシャフトがそのままモーターの回転軸になる設計となっていました。モーターは,20
極30スロットのDCモーターで,1.5kg・cm以上の起動トルクを持っていました。
クォーツPLL回路は,サーボ検出部に180スロットのメカニカル積分方式を採用し,ターンテーブルの回転
速度をそのまま電圧に変換するS・V(Speed-Volt)変換方式を採用していました。さらに,プラス,マイナ
ス両方向の回転制動を行うリバーシブル・サーボを採用していました。これらにより,サーボ応答をリニア
にし,わずかな負荷変動に対してもクォーツPLL回路のレスポンスが高められていました。
ターンテーブルシートには,ヘルツホルム共鳴箱の原理を応用した防振設計が施されていました。これは,
ターンテーブルシートおもて面に小さなポート,裏面に共鳴空間を設け,レコード盤で発生した分割振動を
吸収するようにしたものでした。さらに材質面でも,検討が加えられ,レコードホールド効果が高められて
いました。
トーンアームは,アームレゾナンスと1次分割共振という同時に制御することが難しい2つの外乱の影響を
抑えようとする「弾性カップリング質量分離型トーンアーム」が搭載されていました。これは,NHK技術研究
所との共同開発から生まれたもので,アームレゾナンスと1次分割共振が逆相であることを利用して同時に
キャンセ ルしようとするもので,ハウリングマージンを上げるとともに,レベルの大きな低域共振・f0共振を
抑えて音質の改善を実現していました。トーンアーム内線材には,絹巻きペンタリッツ線を採用し,直流抵
抗成分を下げ,伝送ロスを抑えていました。
ヘッドシェルは,ネック部から接合部をなくしたアルミダイキャスト製一体成形タイプで,アームパイプとネック
の接合にはコレクトチャック方式を採用して,剛性,防振性を高めていました。端子は金メッキが施され,接
触ロス,伝送ロスを抑えていました。
アームの固定には,新方式のウェッジチャック・アーム固定が採用されていました。@を手前に引くことでス
ライドカムAが上方に持ち上げられ,ウェッジカムBが左方に移動し,アームシャフトをアームベースに押さ
えつけるという仕組みで,ウェッジカムには,高硬度の焼結合金を使用し,ネジ固定の45倍以上の接触面
積でアームシャフトを圧着することになり,きわめて剛性のアーム固定方式となっていました。アームシャフ
トにはこれもきわめて剛性の高い肉厚3.3mmのBSBM(快削黄銅)材が使用されていました。アームの
支点である・アームピボットがあるブラケット部にもBSBMが採用され,すべての面が対向する平行面を持
たない独自の形状として分割共振を抑えていました。
アームの高さ調整には,光学機械の焦点合わせにも使われる高精度でスムーズな調整が可能なヘリコイ
ド方式が採用されていました。アームエレベーションはレバーで行うタイプで,完全密閉型のオイルタンクを
持ったオイル式エレベーション機構が採用され,スムーズかつ誤操作に対してもトーンアームがバウンドす
ることが防止されていました。アンチスケーティング機構は,動作が安定したスタティックタイプのアンチスケ
ーティング機構で,トーンアームがレコード盤上にスライドした位置で動作する構造で,ゼロバランス調整位
置では,糸かけ式のようにアンチスケーティング・フォースが加わらないようになっていました。
キャビネットは,硬質のホモゲンチップボードに,レジンコンクリートを主原料として天然石の補強を加えた
ARCB(アンチ・レゾナンス・コンプレッションベース)キャビネットが採用されていました。さらに,縦方向に
は剛性が低く,横方向に剛性が大きいバーティカル・サスペンション・アブソーバーを搭載し,モータートルク
の反作用による横方向のゆれを防ぎつつ,縦方向の床振動からの振動を抑える設計になっていました。
また,スタート・ストップ切換スイッチおよび回転数切換スイッチには,操作時に振動の発生しにくい導電型
を採用し,さらに,ターンテーブルには電子ブレーキを搭載して,回転数切換時に電磁ブレーキが動作して
スムーズに減速動作が行われるようになっていました。
以上のように,KP-7070は,オーソドックスに各部に物量を投入しつつ,しっかりしたつくりで性能を高め
たアナログプレーヤーで,その後高い評価を受けるようになった同社のアナログプレーヤーにつながってい
くことになりました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
クォーツでLOCK,さらに慣性でLOCK,
いわばダブルLOCK。
Speed-Volt変換リバーシブルサーボを搭載。
◎クォーツでロック。さらに慣性でロック。
いわばダブルロック
◎プラス,マイナス両方向の回転制御
リバーシブルサーボS-V変換クォーツロック
◎硬質ステンレス10φセンターシャフト
◎導電スイッチと電子ブレーキ採用
◎ヘルツホルムの原理が生きた
防振設計テーブルシート
◎ウェッジチャック式アームホールディング
◎精度が高く,スムーズな高さ調整
ヘリコイド式アームエレベーション
◎弾性カップリング方式質量分離型トーンアーム
◎無反動。オイル式アームエレベーション
◎無共振。トーンアームブラケット
◎スタティックタイプ・アンチスケーティング
◎コネクター部一体成形
アルミダイキャスト・ヘッドシェル
◎アンチレゾナンス・コンプレッションベース
◎バーチカル・サスペンション・アブソーバー
●KP-7070定格●
■フォノモーター部■
駆動方式 | ダイレクトドライブ |
モーター型式 | クォーツPLLリバーシブルサーボ 20極30スロットDCモーター |
起動トルク | 1.5kg・cm以上 |
ターンテーブル | 330mm/2.6kgアルミ合金ダイキャスト |
慣性モーメント | 550kg・cm2(ゴムシート含む) |
回転数 | 331/3,45rpm |
ワウ・フラッター | 0.022%(WRMS)以下 |
SN比 | 62dB(JIS),83dB(DIN-B) |
トランジェント負荷特性
(400Hz331/3,20kg・cm負荷) |
0.00030%以下 |
トランジェント負荷特性
(1000Hz331/3,20kg・cm負荷) |
0.00015%以下 |
起動特性 | 1.8秒 |
回転数偏差 | ±0.002%以内 |
時間ドリフト | 0.0002%/h以下 |
温度ドリフト | 0.00002%/℃以下 |
電源電圧特性 | 0%(±10V) |
■トーンアーム部■
型式 | スタティックバランスS字型パイプアーム |
構造 | 弾性カップリング質量分離方式 |
アーム実効長 | 245mm |
オーバーハング | 15mm |
トラッキングエラー | +1.8°〜−1.0° |
針圧可変範囲 | 0〜3.0g(0.1gステップ) |
適用カートリッジ重量 | 2〜12g(付属シェル使用時) |
付属シェル | オーディオリッツ線アルミ合金ダイキャスト |
アーム高さ調整 | 6mm |
■総合特性■
電源 | AC100V,50/60Hz |
消費電力 | 9W |
寸法 | 490W×165H×458Dmm |
重量 | 15.5kg |
付属機構 | スタティック型アンチスケーティング ヘリコイド式アーム高さ調整,ウェッジチャック方式アームロック 二芯シールドオーディオコード,無反動オイル式アームエレベーション デュアルサスペンションアブソーバー |
※本ページに掲載したKP-7070の写真・仕様表等は1979年5月の
TRIOのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に著作
権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等を
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