KENWOOD KT-1010F
FM/AM STEREO TUNER ¥59,800
1985年に,ケンウッド(現JVCケンウッド)が発売したFM/AMチューナー。ケンウッドはトリオの時代
からFMチューナーに高い技術を持っており,通信機も作っているブランドとして実際に高い評価を受け
ていました。そんなケンウッドも,シンセサイザーチューナーの発売においてはむしろ慎重で,後発でし
た。そうした中,1983年にシンセサイザー方式のチューナー・KT-1010を発売して新たにDLLD方
式を採用し,パルスカウント方式からの移行を始めました。そんなKT-1010とKT-1010Ⅱ(トリオブ
ランドからケンウッドブランドに移行したときの機種で内容はほぼ同一)の後継機がKT-1010Fでした。
ケンウッドは,1981年にはKT-7X,KT-9Xを発売してシンセサイザーチューナーに参入していましたが,
高級機には最後までアナログ式を採用し,シンセサイザー方式を採用していませんでした。シンセサイ
ザー方式チューナーは,水晶精度を利用して,局部発振周波数と基準信号を位相比較して周波数を保
つため,チューニングずれは少なくなりましたが,バリコンの代わりに使われるようになったバリキャップ
のチューニング電圧の揺れが,低い受信周波数になるほど受信周波数の揺れとして大きく表れてS/N
比を劣化させることになり,結果として,実使用時の音質でアナログ式チューナーに及ばない点がると
考えていたからだといわれています。
そこで,KT-1010Fには,上級機のKT-2020の技術を継承した「ダイレクト・リニアレセプション・シン
セサイザー方式が採用されていました。その名の通り,局部発振回路(VCO)の周波数対電圧特性を
できるだけリニアにしたもので,チューニング電圧の揺れの影響が全周波数帯にわたってリニアになり
IM特性を改善して相互変調を抑え,ノイズレベルを下げ,S/N比の大幅な改善が図られていました。
フロントエンドは,5連バリコン相当で,そのうち1連分はOSCバッファに用いられており,妨害排除特
性が高められていました。RF増幅段,ミキサー段にはデュアルゲートFETが使用され,OSC,OSC
バッファーにもFETが使用されるなど,ほぼ全段がFET構成というしっかりした構成になっていました。
IF段の検波回路には,KT-1010で開発されたDLLD(ダイレクト・リニアループ・ディテクター)を搭載
していました。DLLDは,バランス型PLL検波回路の一種で,10.7MHzのIF信号をダイレクトにリニ
ア化して閉ループ検波器で検波,さらに,閉ループ内に,IFフィルターで発生する高調波歪みを低減す
る歪み補正回路を設けて高S/N比の検波を行おうというものでした。歪み補正回路は,DCC(ディスト
ーション・コレクティング・サーキット)と称するもので,高選択度と音質の両立を図るために,急峻な特
性のIFフィルターでまず妨害波を取り除き,通過した信号から高調波歪み成分だけを抽出してキャン
セルしようとするものでした。
IF段には,WIDE/NARROWの帯域2段切換えが採用されていました。WIDEポジションは,セラミック
フィルター2段IF増幅1段という構成で,70dBの高選択度を確保しながら,0.0055%(モノ1kHz),
0.0085%(ステレオ1kHz)という低歪率を実現していました。NARROWポジションは,セラミックフィ
ルター4段,IF増幅2段という構成となり,90dBという高選択度特性を確保し,すぐれた妨害排除能力
を実現していました。
MPX部は,上級機のKT-2020にも搭載されていたDPD(ダイレクト・ピュア・デコーダー)MPX方式を
採用していました。これは,従来の38kHzの方形波を使ってスイッチングするステレオ復調と異なり,
38kHz以外の成分を全く持たない正弦波で検波出力と掛算する方式でした。38kHzの方形波を用い
る方式では,どうしても高調波成分が含まれているため,これを除くクリーンレセプション・フィルターな
どのフィルターを用いていましたが,フィルターを通すことにより,どうしても位相まわりなどにより,高域
のセパレーションを劣化させることになります。DPD MPXでは,ローパスフィルターを必要としないため
70dBの高セパレーションを実現しながら,クリアなステレオ復調が可能となっていました。
以上のDLRC(ダイレクト・リニアレセプション・サーキット),DLLD(ダイレクト・リニアループ・ディテク
ター),DCC(ディストーション・コレクティング・サーキット),DPD(ダイレクト・ピュア・デコーダー)の4つ
の頭文字のDをとり,当時ケンウッドは「4D SYSTEM」と称していました。
表示部では,シグナルメーターとセンターチューニングメーターの機能を兼ね備えたマルチディメンション・
チューニングメーターが搭載されていました。上級機のものより簡略化されていますが,チューニングの
ズレや電界強度が感覚的にとらえられるもので,FL表示ながら,スタティック点灯のため,ノイズの発生
も抑えられていました。
選局機能は,AUTO/MANUALの他,16局のAM/FMランダムのプリセットメモリー選局が搭載されて
いました。またプリセットメモリーは,8局ずつA,B1つのチャンネルに分かれており,タイマーで留守録を
する際には,プログラムボタンをONにしておくと,電源のON/OFFにしたがって3つの放送局をプログラ
ムした順に録音できるプログラム機能も搭載されていました。AUTO選局は,ストップレベル切り換えが
できるSENS LEVELも搭載されていました。
その他,上述のIF帯域2段切換の他,電界強度に応じたDIRECT/DISTANCEのRF2段切換,遠距離
局の受信時のSN比を改善するオートクワイティングとマニュアルクワイティング・コントロール(ハイブレン
ド),レックキャリブレーションなどが搭載されていました。
AM部は,フロントエンドが2連バリコン相当で,セラミックフィルターを2個搭載した本格的なもので,AM
部には復調帯域を広帯域(WIDE)から狭帯域(NARROW)まで連続的に可変できるAM帯域可変回路
が搭載され,プリエンファシスや受信状態に合わせて調整できるようになっていました。
以上のように,KT-1010Fは,KT-1010Ⅱをベースに,上級機のKT-2020などの機能も搭載される
など,コストパフォーマンスにすぐれた1台でした。高い受信性能とクリアな音をもつ,ケンウッドらしいチュ
ーナーでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
実効選択度70dB(WIDE),
ひずみ率0.0055%(モノ1kHz),
SN比99dB・・・
民放2局時代に実力を問います。
◎相互変調を抑えた
ダイレクト・リニアレセプション・シンセサイザー
◎ひずみ率0.0055%の低ひずみ率
ディストーション・コレクティング・サーキット
◎低ひずみの広帯域直線検波
ダイレクト・リニアループ・ディテクター
◎高セパレーション70dB
ダイレクト・ピュアデコーダー
◎先進のマルチディメンション・チューニング
◎RFセレクター
●IF帯域2段切換
●遠距離局を高SN比で受信できる
オートクワイティングとマニュアルクワイティング・コントロール
●レックキャリブレーション
●AM IF連続可変コントロール
●オートチューニング時でのストップレベル切換
●留守録に便利な3局プログラム機能
●ランダム16局選局
●SPECIFICATIONS●
●FM部●
受信周波数範囲 | 76MHz~90MHz |
アンテナインピーダンス | 75Ω不平衡 |
感度 | DISTANCE(75Ω):10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF) DIRECT(75Ω):31.2dBf(新IHF) 10μV(IHF) |
SN比50dB感度 | DISTANCE(MONO) :16.2dBf(新IHF) 1.8μV(IHF) DISTANCE(STEREO):38.8dBf(新IHF) 24μV(IHF) DIRECT(MONO) :36.3dBf(新IHF) 18μV(IHF) DIRECT(STEREO):58.8dBf(新IHF) 240μV(IHF) |
高調波ひずみ率 | WIDE 100Hz 0.008%(MONO) 0.01%(STEREO) 1kHz 0.0055%(MONO) 0.0085%(STEREO) 50Hz~10kHz 0.02%(MONO) 0.1%(STEREO) NARROW 100Hz 0.05%(MONO) 0.1%(STEREO) 1kHz 0.04%(MONO) 0.1%(STEREO) 50Hz~10kHz 0.15%(MONO) 0.3%(STEREO) |
SN比(100%変調85dBf入力) | 99dB(MONO) 91dB(STEREO) |
キャプチャーレシオ | 2.5dB(NARROW) |
実効選択度(IHF) | NARROW 90dB WIDE 70dB |
ステレオセパレーション | WIDE 1kHz 70dB 50Hz~10kHz 50dB 15kHz 40dB NARROW 1kHz 50dB 50Hz~10kHz 40dB 15kHz 36dB |
周波数特性 | 20Hz~15kHz ±0.5dB |
イメージ妨害比 84MHz | 90dB |
IF妨害比 84MHz | 110dB |
スプリアス妨害比 84MHz | 100dB |
AM抑圧比(65.2dBf) | 65dB |
サブキャリア抑圧比 | 70dB |
レックキャリブレーション | 440Hz 50%変調 |
出力レベルおよび出力インピーダンス | FM 1kHz 100%変調 固定出力:0.6V/3.3kΩ |
●AM部●
受信周波数範囲 | 531kHz~1602kHz |
感度 | 10μV・250μV/m |
高調波ひずみ率 (1000kHz) | WIDE :0.4% NARROW:0.8% |
イメージ妨害比(1000kHz) | 40dB |
IF妨害比(1000kHz) | 50dB |
選択度(IHF) | WIDE :25dB NARROW:50dB |
出力レベルおよび出力インピーダンス | 0.18V/3.3kΩ |
SN比(30%変調1mV入力) | 52dB |
●電源部その他●
電源電圧・電源周波数 | 100V 50Hz・60Hz |
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) | 14W |
最大外形寸法 | 440(W)×64(H)×319(D)mm |
重量 | 3.5kg |
※本ページに掲載したKT-1010Fの写真,仕様表等は1985年
11月のKENWOODのカタログより抜粋したもので,JVCケン
ウッド株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真
等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますので
ご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や
印象のある方,そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。