KT-1100の写真
TRIO KT-1100
AM-FM STEREO TUNER ¥73,800

1982年に,トリオ(現ケンウッド)が発売したFM/AMチューナー。1980年発売のKT-1000の後継機という
位置づけで,同時期にデザインイメージを大きく変えて発売されたプリメインアンプKA-1100等とデザインの
統一感が図られ,バリコン式ながらやや薄型の筐体となっていました。技術的にはKT-1000のものが継承さ
れ,さらに改良されていて,同社のバリコン式チューナーとしては最後期の製品として,一つの完成形となって
いました。

KT-1100には,検波器として,トリオ自慢の「パルスカウント方式」が搭載されていました。パルスカウント方式
は,KT-9700で初登場したもので,通常10.7MHzのFMのIF(中間周波数)をさらに変換して1.96MHzの
第2IFを作りだし(ダブルコンバート),これを方形波パルスに変換し,パルスの高さや幅を揃えた上で復調して
オーディオ信号を取り出すというもので,高い周波数まで優れた直線性が得られ,歪みが低く抑えられるという
メリットがありました。IFを2段階に変換するダブルコンバートは,パルスカウント検波器をできるだけ低い周波数
で駆動してSN比を上げるための手法で,パルスカウントの直線性を活かしつつ,キャリア周波数と変調による周
波数変化率を大きくして出力を上げ,SN比を高める方策でした。パルスカウント検波のローパスフィルターには
銅箔スチロールコンデンサーが使用され,音の厚み等,音質の改善が図られていました。
KT-1100では,KT-1000以来の「ニュー・パルスカウントシステム」が採用されていました。これは,IF部とダ
ブルコンバート回路を一体化したICを開発し,6段作動増幅とダブルコンバート回路に加え,レックキャリブレー
ター用発振器,ミューティング検出回路,シグナルメーター回路と,パルスカウント検波器に必要な機能をすべて
1チップに納め,IF部から検波部までを2つのICで構成したもので,さらに安定したFM復調が実現されていまし
た。ただ,これ以降,トリオ・ケンウッドのチューナーは,パルスカウント検波を採用しなくなり,このKT-1100が
最後のパルスカウントチューナーでもありました。その意味でもパルスカウント方式チューナーの一つの完成形
であったのだと思います。

MPX段には,「サンプリングホールドMPX」が搭載されていました。これは,左右のオーディオ信号に分離する
MPX段において,従来の方形波に代わって立ち上がりの鋭いパルス波を使用し,パルスのピークを取り出し(サ
ンプリングし)L・R分離のためのスイッチング信号とするもので,ピークだけをサンプリングするために低下しがち
な信号の平均レベルを上げるため,次のサンプリング信号がくるまでピーク信号をホールドしSN比を上げるとい
うものでした。ピークだけを取り出すために,左右信号のもれが少なく,次段のローパスフィルターへの負担が少
なく,次段アンプでも歪みにくく,高いセパレーションを実現していました。

RF段には,ダイレクトコンバート方式が継承されていました。これは,DIRECTにポジションに設定すると,入力
信号をRF増幅段を通さずに直接ミキサー段へ入力するもので,十分な入力があるときや大入力の隣接局があ
るときには優れたひずみ特性と2信号特性を実現できるものでした。放送局が遠く入力信号が弱いときには,ス
イッチでNORMAL(RF増幅段を通るように)に切り換えることもでき,高感度の受信を可能にしていました。

高周波からオーディオ信号まで多様な信号を扱うFMチューナーであるため,RF部からMPX部まで,各部の基
準点を明確にし,周波数の変換されるポイントでは入出力の関係を整理した一点アースを実現していました。通
常,チューナーでは,それぞれ最短距離にアースを取っていましたが,その結果,シャーシを介しての相互干渉
等による音質劣化が生じていました。一点アースは,L-02T以来採用された技術で,こうした点を改善していま
した。

FM部は5連バリコンを使用して高精度な受信性能を実現し,上記のDIRECT/NORMALのRF切替により高感
度受信と高音質受信の選択ができるようになっていました。WIDE/NARROWのIF帯域2段切換も搭載して,ワ
イドポジションでは,より自然な音,ナローポジションでは,選択度特性を重視した構成で,隣接局の妨害を排除
するシャープな選択度を実現していました。これらのRFセレクターとIFセレクターを組み合わせることで,多様な
電波状況に対応できるようになっていました。
IFフィルターとして,トリオ自慢の「クリーンレセプションフィルター」が搭載されていました。これは,フィルター回路
の改良により,ステレオスイッチング信号38kHzの高調波を抑えて,混信妨害を防ぎ,高域セパレーションの改
善を図ったもので,ステレオ受信時の選択度が高められていました。
また,L−02Tと同様に「可変型FMミューティング」を搭載し,ミューティングレベルを変えられるようになっていま
した。チューニングツマミを操作し,手を離せば同調点にロックされるタッチサーボロック機構も装備され,安定し
た受信が確保されていました。

AM部にも3連バリコンを搭載し,アンテナコイルの性能を従来比30%向上させた,大口径Hi-Q,低インピーダ
ンス電磁波感応型ループアンテを採用して,180μV/mの高感度とポップノイズ等に対する耐性を高めていまし
た。また,AM部にもIF帯域2段切換を採用して,電波状況等に対応できるようになっていました。

以上のように,KT-1100はトリオブランドとしては最後期の中級チューナーで,パルスカウント方式採用のバリ
コンチューナーとしても最後のモデルとなりました。それだけに,ここまでの技術的特長が集大成されたといえる
内容を持ち,受信性能と音質のバランスがとれた優れた性能と完成度をもっていました。音質的にも,これ以降
の主力となった同社のシンセサイザーチューナーとはまた違った,言ってみればアナログ的魅力を持っていたと
思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



FM新時代の新しいリファレンス。
NEW PULSE COUNT

◎DAソースに対応する高SN比,低ひずみ率
 ダブルコンバート・パルスカウント方式
◎低ひずみ率・高SN比のステレオ復調方式
 ニュー・サンプリングホールドMPX
◎強電界FM時代に対応した
 ダイレクトコンバート方式
◎IF帯域2段切換,高感度・高忠実度AM部
◎L-02Tのノウハウによる一点アース設計




●SPECIFICATIONS●



■FM部■

受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス 75Ω不平衡
感度 NORMAL(75Ω) 
    DIRECT(75Ω)
10.3dBf(新IHF) 0.9μV(IHF) 
23.3dBf(新IHF) 4.0μV(IHF)
SN比50dB感度  
NORMAL(MONO) 
NORMAL(STEREO) 
DIRECT(MONO) 
DIRECT(STEREO)
16.4dBf(新IHF) 1.8μV(IHF) 
37.3dBf(新IHF) 20μV(IHF) 
26.8dBf(新IHF) 6.0μV(IHF) 
47.2dBf(新IHF) 63μV(IHF)
高調波ひずみ率(100%変調)
   
    
         
WIDE    100Hz       0.015%(MONO) 0.04%(STEREO) 
        1kHz        0.03%(MONO) 0.04%(STEREO) 
        15kHz       0.05%(MONO)  0.35%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.06%(MONO)  0.12%(STEREO) 
NARROW 100Hz      0.03%(MONO)  0.30%(STEREO) 
        1kHz       0.15%(MONO)  0.20%(STEREO) 
        15kHz      0.06%(MONO)  1.0%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.30%(MONO)  0.50%(STEREO)
SN比(100%変調)   65dBf入力:90dB(MONO)
85dBf入力:90dB(MONO) 85dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 0.8dB(WIDE) 2.0dB(NARROW)
選択度(IHF) NARROW 65dB(±300kHz) WIDE 45dB
ステレオセパレーション 
  
WIDE     1kHz         60dB 
         50Hz〜10kHz    47dB 
         15kHz        40dB 
NARROW  1kHz         50dB 
         50Hz〜10kHz    40dB
         15kHz        35dB
周波数特性 15Hz〜15kHz  ±0.5dB
イメージ妨害比(84MHz)    90dB
IF妨害比(84MHz)      110dB
スプリアス妨害比(84MHz)  120dB
AM抑圧比 75dB
サブキャリア抑圧比  75dB
出力レベルおよび出力インピーダンス 1kHz 100%変調 VARIABLE   1.5V/2.2kΩ 
                FIXED    0.75V/2.2kΩ




■AM部■

受信周波数範囲 525kHz〜1605kHz
感度 IHF 9μV
ループアンテナ 180μV/m
高調波ひずみ率(1000kHz) 0.2%
SN比(30%変調1mV入力) 55dB
選択度(IHF) NARROW 70dB WIDE 35dB
出力および出力インピーダンス 400Hz 30%変調 VARIABLE 0.5V/2.2kΩ
                FIXED  0.25V/2.2kΩ    




■電源部・その他■

電源電圧・電源周波数 AC100V  50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 17W
最大外形寸法 440(W)×111(H)×337(D)mm
重量 5.4kg


※本ページに掲載したKT-1100の写真,仕様表等は1983年3月のTRIO
 のカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。

 

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