KENWOOD KT-2020
QUARTZ SYNYHESIZER AM/FM STEREO TUNER ¥74,800
1984年に,ケンウッド(現JVCケンウッド)が発売したAM/FMシンセサイザーチューナー。ケンウッドはトリオの
時代からFMチューナーに高い技術を持っており,通信機も作っているブランドとして実際に高い評価を受けてい
ました。そんなケンウッドも,シンセサイザーチューナーの発売においてはむしろ慎重で,後発でした。そうした中,
1983年にシンセサイザー方式のチューナー・KT-1010を発売して新たにDLLD方式を採用し,パルスカウント
方式からの移行を始めました。そんなKT-1010(トリオブランド),KT-1010Ⅱ(ケンウッドブランド)の上級機とし
て発売されたのがKT-2020でした。
ケンウッド(当時はトリオ)は,1981年にはKT-7X,KT-9Xを発売してシンセサイザーチューナーに参入していま
したが,バリコン搭載のアナログ式チューナーへのこだわりも見られ,L-02T,L-03T,KT-2200などの高級
機には最後までアナログ式を採用し,シンセサイザー方式を採用していませんでした。それは,実使用時における
音質で,シンセサイザー方式チューナーがアナログ式チューナーに及ばない点があったからだといわれています。
シンセサイザー方式チューナーは,水晶精度を利用して,局部発振周波数と基準信号を位相比較して周波数を保
つため,チューニングずれは少なくなりましたが,バリコンの代わりに使われるようになったバリキャップのチューニ
ング電圧の揺れが,低い受信周波数になるほど受信周波数の揺れとして大きく表れてS/N比を劣化させることに
なり,結果として音質でアナログ式に及ばないということが起こっており,その点を考慮したためでもあったようです。
この問題に対し,KT-2020では,5連相当のバリキャップを使ったパラレルツイン回路やMOS FETを用いた新型
の発振回路などで構成される「ダイレクト・リニアレセプション・サーキット」を搭載し,チューニング電圧の揺れの影
響を全受信周波数帯域にわたってリニアにし,どの周波数帯域でも高S/N比が得られるようにしていました。
RF段は,RF増幅、ミキサー、OSC に Dual Gate FETが使用され,その他もFETで,全段FET構成となっていまし
た。
MPX部は,新開発のDPD(ダイレクト・ピュア・デコーダー)MPX方式を採用していました。これは,従来の38kHzの
方形波を使ってスイッチングするステレオ復調と異なり,38kHz以外の成分を全く持たない正弦波で検波出力と掛
算する方式でした。38kHzの方形波を用いる方式では,どうしても高調波成分が含まれているため,これを除くクリー
ンレセプション・フィルターなどのフィルターを用いていましたが,フィルターを通すことにより,どうしても位相まわりな
どにより,高域のセパレーションを劣化させることになります。DPD MPXでは,ローパスフィルターを必要としないた
め,聴き苦しい混信妨害を排除しクリアなステレオ復調が可能となっていました。
IF段には,先行した中級機KT-1010で完成されたDLLD(ダイレクト・リニアループ・ディテクター)とDCC(ディストー
ション・コレクティング・サーキット)が搭載され,低歪み率を実現していました。DLLDは,10.7MHzのIF信号をダ
イレクトにリニア化して閉ループ検波器で検波,さらに,閉ループ内に,IFフィルターで発生する高調波歪みを低減
する歪み補正回路を設けて高S/N比の検波を行おうというものでした。DCCは,この歪み補正回路のことを指してい
ました。IF段では,妨害波を除去するためには帯域の狭い急峻なIFフィルターを通す必要があります。しかし,それ
はオーディオ的には歪みの原因となります。そこで,高選択度と音質の両立を図るために,急峻な特性のIFフィルター
でまず妨害波を取り除き,通過した信号から高調波歪み成分だけを抽出してキャンセルしようとする方式がDCCでし
た。IF段は,セラミックフィルターが4個搭載され,WIDE,NARROW帯域2段切換えが装備され,WIDEポジションで
も,70dBの高選択度を維持しながら,0.005%(モノ1kHz),0.008%(ステレオ1kHz)の低歪率を実現していま
した。
シンセサイザー方式のチューナーでは,UP/DOWNボタンなどによるボタン操作のチューニングが通常見られます
が,KT-2020では,チューニングノブが設けられ,ノブによる回転方式のデジタルロータリーチューニングが採用さ
れ,アナログチューナーの操作感を残していました。さらに,シグナルメーターとセンターチューニングメーターの機能
を兼ね備えたマルチディメンション・チューニングメーターが搭載され,ロータリーチューニングとあいまって,感覚的な
チューニングがしやすくなっていました。エアチェック(死語?)のための基準信号を発生するRECキャリブレーターが
搭載されているほか,演奏中のモジュレーション・レベル変化をリアルタイムに表示し,実際の録音レベル設定の目
安になるモジュレーション・レベルメーターも装備されていました。これらのディスプレイは,スタティック点灯方式が採
用され,ノイズの発生を抑えていました。その他,遠距離受信時に対応したオートクワイティング・コントロール(オート
ブレンド)も搭載されていました。
選局機能は,AUTO/MANUALの他,16局のAM/FMランダムのプリセットメモリー選局が搭載されていました。ま
たプリセットメモリーは,8局ずつA,B1つのチャンネルに分かれており,タイマー録音等のとき,プログラムスイッチ
をONにしておくと,電源ONになったとき最後に受信していた局が選局され,次にONになるとA側CH-8が選局され
るようになっており,2つの局のエアチェックが可能でした。
AM部は,フロントエンドが2連バリコン相当で,セラミックフィルターを2個搭載した本格的なものでした。AM部には
復調帯域を広帯域(WIDE)から狭帯域(NARROW)まで連続的に可変できるAM帯域可変回路が搭載され,プリエ
ンファシスや受信状態に合わせて調整できるようになっていました。
以上のように,KT-2020は,ケンウッドのシンセサイザーチューナーの一般向け高級機として,中核的な存在として
開発され,高い完成度をもっていました。受信性能と音質を両立させた技術力はさすがチューナーのケンウッドといっ
た感じで,実際クリアな音はひと味違うと感じたものでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
SN比99dB(モノ76MHz~90MHz)
ひずみ率0.005%(モノ1kHz)。
音に真価を発揮します,「FMのケンウッド」。
◎全国のFM放送局と高SN比99dBで直結する
ダイレクト・リニアレセプション・サーキット
◎ステレオセパレーション70dB(1kHz)
信号系にローパスフィルター類を必要としない
DPD MPX
◎ひずみ率0.005%(モノ1kHz),
0.008%(ステレオ1kHz)
DLLD&DCCのIF段
◎エアチェックミスを許さない
RECキャリブレーション&モジュレーション
レベルメーター
◎先進のマルチディメンション・チューニング
◎AM帯域可変回路(特許申請中)
●留守録に便利な2局プログラム機能
●遠距離ステレオ受信に強いオートクワイティングコントロール
●SPECIFICATIONS●
●FM部●
受信周波数範囲 | 76MHz~90MHz |
アンテナインピーダンス | 75Ω不平衡 |
感度 | 10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF) |
SN比50dB感度 | MONO :16.2dBf(新IHF) 1.77μV(IHF) STEREO:27dBf(新IHF) 6.3μV(IHF) |
高調波ひずみ率 | WIDE 100Hz 0.007%(MONO) 0.01%(STEREO) 1kHz 0.005%(MONO) 0.008%(STEREO) 50Hz~10kHz 0.01%(MONO) 0.03%(STEREO) NARROW 100Hz 0.05%(MONO) 0.06%(STEREO) 1kHz 0.04%(MONO) 0.05%(STEREO) 50Hz~10kHz 0.1%(MONO) 0.3%(STEREO) |
SN比(100%変調85dBf入力) | 99dB(MONO) 91dB(STEREO) |
キャプチャーレシオ | 2.5dB(NARROW) |
実効選択度(IHF) | NARROW 100dB
WIDE 70dB |
ステレオセパレーション | WIDE 1kHz 70dB 50Hz~10kHz 55dB 15kHz 45dB NARROW 1kHz 55dB 50Hz~10kHz 45dB 15kHz 40dB |
周波数特性 | 20Hz~15kHz ±0.5dB |
イメージ妨害比 84MHz | 95dB |
IF妨害比 84MHz | 110dB |
スプリアス妨害比 84MHz | 100dB |
AM抑圧比(65.2dBf) | 70dB |
サブキャリア抑圧比 | 70dB |
レックキャリブレーション | 440Hz 50%変調 |
出力レベルおよび出力インピーダンス | FM 1kHz 100%変調 固定出力:0.6V/1.7kΩ |
●AM部●
受信周波数範囲 | 522kHz~1611kHz |
感度 | 10μV・250μV/m |
高調波ひずみ率 (1000kHz) | WIDE :0.3% NARROW:0.6% |
イメージ妨害比(1000kHz) | 40dB |
IF妨害比(1000kHz) | 60dB |
選択度(IHF) | WIDE :30dB NARROW:50dB |
出力レベルおよび出力インピーダンス | 0.18V/1.7kΩ |
SN比(30%変調1mV入力) | 55dB |
●電源部その他●
電源電圧・電源周波数 | 100V 50Hz・60Hz |
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) | 14W |
最大外形寸法 | 440(W)×88(H)×331(D)mm |
重量 | 4.5kg |
※本ページに掲載したKT-2020の写真,仕様表等は1984年8月の
KENWOODのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社
に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
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