KT-2200
TRIO KT-2200
FM STEREO TUNER ¥99,800

1982年に,トリオ(現ケンウッド)が発売したFMチューナー。当時,トリオ・ケンウッド株式会社と称していた
同社は,国内では,オーディオ機器の多くをトリオブランドで発売し,海外向けと国内の高級機「Lシリーズ」で
は,ケンウッドブランドを展開していました。そして,トリオブランドのチューナーの中で最高級機として発売さ
れたのがKT-2200でした。

KT-2200は,KT-1100の上級機という位置づけで,デザイン的にもほとんど見分けがつかないくらいそっ
くり(寸法も同じ!恐らく筐体は同じものを使用していた?)ですが,最後のパルスカウント方式バリコンチュー
ナーとなったKT-1100とは異なり,FM専用機として作られ,超高級機L-02Tの技術を受け継ぐ内容を持っ
ていました。

1つ目の技術的特徴として,「ノンスペクトラムIFシステム」が採用されていました。これは,L-02Tに搭載され
たもので,IF帯域での,選択度と音質の両立を図るための技術でした。チューナーはつまりラジオ受信機です
から,高選択度と音質の両立が重要になります。周波数変調であるFM信号は,オーディオ信号の強弱や周
波数成分により,つねに帯域幅の変化するスペクトルとして情報を伝えていますが,このスペクトルがIFバンド
パスフィルターを通過するときに音楽情報が大きく損なわれていました。IFフィルターを緩やかな特性にしてス
ペクトルを通過させれば情報は損なわれませんが,今度は妨害波を排除する能力が低下して音質が損なわ
れてしまいます。この「ノンスペクトラムIFシステム」は,IFに入る信号からスペクトルを取り除きIFを通過させ,
その後で,もとの信号にスペクトルを戻して検波することで低歪みと妨害排除能力を両立させた方式でした。
また,IFフィルターとして,トリオ自慢の「クリーンレセプションフィルター」が搭載されていました。これは,フィ
ルター回路の改良により,ステレオスイッチング信号38kHzの高調波を抑えて,混信妨害を防ぎ,高域セパ
レーションの改善を図ったもので,ステレオ受信時の選択度が高められていました。そして,この「クリーンレ
セプションフィルター」をオペアンプによるアクティブフィルターで形成し,磁気歪みを抑え,高選択度が高音
質で実現されていました。

2つ目の技術的特徴として,KT−9900以来伝統の「サンプリングホールドMPX」が搭載されていました。こ
れは,左右のオーディオ信号に分離するMPX段において,従来の方形波に代わって立ち上がりの鋭いパル
ス波を使用し,パルスのピークを取り出し(サンプリングし)L・R分離のためのスイッチング信号とするもので,
ピークだけをサンプリングするために低下しがちな信号の平均レベルを上げるため,次のサンプリング信号が
くるまでピーク信号をホールドしSN比を上げるというものでした。ピークだけを取り出すために,左右信号のも
れが少なく,次段のローパスフィルターへの負担が少なく,高いセパレーションを誇りました。また,ローパスフィ
ルターには,磁気飽和歪みを追放したオペアンプによるアクティブローパスフィルターを搭載していました。

3つ目の技術的特徴として,そのほか,「ダイレクトコンバージョンシステム」が搭載されていました。大入力時
には信号がRF部を通らずに直接ミキサー部に入力されるように切り換えることができ,強電界地域や近接し
て大出力の局があるときなどにも対応した設計でした。また,弱電界に対しては高感度を重視するポジション
にも切り換えられました。L−02TやKT-1100と同様に「可変型FMミューティング」を搭載し,ミューティン
グレベルを変えられるようになっていました。

高周波からオーディオ信号まで多様な信号を扱うFMチューナーであるため,RF部からMPX部まで,各部の
基準点を明確にし,周波数の変換されるポイントではL-02Tの技術を受け継いだ,入出力の関係を整理した
一点アースを実現していました。通常,チューナーでは,それぞれ最短距離にアースを取っていましたが,その
結果,シャーシを介しての相互干渉等による音質劣化が生じていました。一点アースは,こうした点を大きく改
善していました。また,L−02Tの全ステージ独立電源ほどではありませんでしたが,電源による各部の干渉
を防ぐ独立3電源としていました。

以上のように,KT-2200は当時のトリオブランドのチューナーの最高級機として,L-02Tの技術を受け継い
だ優れた内容を持ったチューナーでした。そして,技術的内容やスペックを見て分かるように,KT-2200を
ベースにしてΣドライブ出力とシャーシ内部の銅メッキ処理を施すなどの強化を行った機種が,同社最後の
バリコン式チューナーの高級機L-03Tでした。それだけに,KT-2200も受信性能と音質の双方に優れた
高性能な1台となっていました。
現在,私も手元に置いて使用中ですが,主に使用しているケンウッドブランドのシンセサイザーチューナー
KT-3030に受信性能,音質とも引けを取らず,独自の音質的魅力があるため,手放せず併用中です。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



FMの音が緊張感を増してきた。
NONSPECTRUM IF SYSTEM


◎IMや大入力特性にすぐれた
 ダイレクトコンバート方式
◎高SN比・低ひずみ率の”ステレオ復調”
 サンプリングホールドMPX
◎ステレオ受信時の選択度を向上する
 クリーンレセプション・フィルター
◎L-02Tのノウハウによる
 一点アース設計
◎可変型FMミューティング





●SPECIFICATIONS●



■FM部■

受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス 75Ω不平衡
感度 DISTANCE(75Ω) 
    DIRECT(75Ω)
10.3dBf(新IHF) 0.90μV(IHF) 
23.3dBf(新IHF) 4.0μV(IHF)
SN比50dB感度 DISTANCE(MONO) 
           DISTANCE(STEREO) 
           DIRECT(MONO) 
           DIRECT(STEREO)
15.9dBf(新IHF) 1.7μV(IHF) 
37.3dBf(新IHF) 20μV(IHF) 
25.2dBf(新IHF) 5.0μV(IHF) 
46.8dBf(新IHF)  60μV(IHF)
高調波ひずみ率 
   (ANT・IN→Σ・OUT アンテナ入力85dBf) 
    
         
WIDE    100Hz      0.005%(MONO)0.02%(STEREO) 
        1kHz       0.005%(MONO)0.015%(STEREO)      
        15kHz      0.02%(MONO) 0.2%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.04%(MONO)0.09%(STEREO) 
NARROW 100Hz      0.007%(MONO)0.1%(STEREO) 
        1kHz       0.05%(MONO) 0.1%(STEREO) 
        15kHz      0.05%(MONO) 2.0%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 1.3%(MONO)  0.7%(STEREO)
SN比 
  
65dBf入力:96dB(MONO)
85dBf入力:96dB(MONO) 86dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 0.8dB(WIDE) 2.0dB(NARROW)
実効選択度(IHF) NARROW 55dB(±300kHz) 
WIDE    40dB
ステレオセパレーション 
  (ANT・IN→Σ・OUT)
WIDE     1kHz        60dB 
         50Hz〜10kHz   47dB 
         15kHz       40dB 
NARROW  1kHz        47dB 
         50Hz〜10kHz   35dB
周波数特性(ANT・IN→Σ・OUT) 15Hz〜15kHz  ±0.5dB
イメージ妨害比   84MHz NORMAL 90dB
IF妨害比      84MHz NORMAL 120dB
スプリアス妨害比 84MHz NORMAL 110dB
AM抑圧比 75dB
サブキャリア抑圧比  75dB
出力レベルおよび出力インピーダンス FM 1kHz 100%変調 FIXED    0.6V/2kΩ 
                VARIABLE 1.2V/2kΩ
マルチパス出力 垂直出力   0.1V  10kΩ 
水平出力    0.7V  10kΩ




■電源部・その他■

電源電圧・電源周波数 100V  50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 11W
最大外形寸法 440(W)×111(H)×337(D)mm
重量 5.4kg


※本ページに掲載したKT-2200の写真,仕様表等は1983年3月のTRIO
 のカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。

 

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