TRIO KT-8100
AM-FM STEREO TUNER ¥42,000
1978年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したチューナー。1976年に,世界に先駆けてパルス
カウント方式を搭載したKT-9700を発売したトリオは,1978年に,このパルスカウント方式をIC化
するなど,内部構成をより合理化したKT-8300を発売しました。さらに,その弟機として発売された
のがKT-8100でした。
フロントエンドは,周波数直線4連バリコンを,初段複同調で使用し,さらに,デュアルゲートMOS型
FETを採用し,SN比50dB感度15.8dBf(新IHF MONO),37.2dBf(新IHF STEREO)の高感
度と,強電界でも受信可能な大入力特性を確保していました。また, スプリアス妨害比105dB,IF
妨害比100dB,イメージ妨害比90dBなど,すぐれた妨害排除能力を実現していました。
F段は,IF帯域WIDE,NARROWの2段切換が搭載されていました。WIDEポジションでは,フラット
な群遅延特性を示す,新開発のフェイズリニア2素子フィルターを2段,合計4素子で使用し,低歪み
特性を確保していました。NARROWポジションは,狭帯域セラミックフィルター2素子を3段でで構成
され,選択度特性54dB(300kHz・IHF),90dB(400kHz・IHF)というすぐれた妨害排除特性を確
保していました。高選択度のNARROWポジションにおいても,歪率0.17%(MONO・1kHz),ステ
レオセパレーション48dB(1kHz)というすぐれたオーディオ特性が実現され,受信性能と音質の両立
が図られていました。
FM検波部には,トリオ自慢のパルスカウント方式が採用されていました。パルスカウント方式は,周
波数変調波をリミッターを通して方形波に変換し,方形波を微分回路を通すことによって得たパルス
で,単安定マルチ回路をトリガーし,パルス幅の等しい出力を得て,これを積分回路にかけて復調信
号を取り出すというもので,従来のインダクタンスとコンデンサーによる検波回路に比べて,直線性に
すぐれ,3.92MHzの広帯域にわたって直線検波が可能というものでした。当時,同社のFMチュー
ナーの主力技術として展開されていきました。KT-8100では,KT-8300同様に,このパルスカウン
ト検波回路を大幅にIC化して搭載していました。
このパルスカウント方式に合わせ,10.7MHzの第1IFに加えて,感度・選択度の向上と相互干渉の
低減がねらえ,安定した増幅が可能となるよう,1.96MHzの第2IF(中間周波数)を設けたダブルコ
ンバート方式が採用されていました。約10倍の周波数特性が要求されるパルスカウント方式のパル
ス変換が容易になり,相対周波数偏移が大きくなることで,検波効率が上がり,SN比が向上するとい
う効果もありました。
MPX段には,PLLのパイロット信号を検出する際のトラッキングフィルター作用を検討することで低歪
率を実現し,温度や湿度に強く,長期にわたり安定したスイッチング信号を供給するPLL MPX方式
を採用していました。さらに,ローパスフィルターは,L・R独立の5素子フィルターで,すぐれた周波数
特性キャリアリークを両立させていました。こうした構成で,50Hz~10kHzの広帯域にわたって40dB
1kHzでは55dB以上と安定したセパレーションを実現していました。プリアンプは,ICに内蔵されてい
るNFBアンプを使用し,オーバー変調時でも低歪率を確保していました。
STEREO(AUTO)受信時にONとなる,FMミューティングは,オーディオ出力の高信号レベルでの
FETスイッチ制御方式を採用し,局間ノイズをシャープにカットできるようになっていました。さらに,
セパレーションを調整してSN比を改善するハイブレンド機能であるMPXフィルタースイッチが装備さ
れていました。また,電源ON/OFF時には,プラス・マイナス時間差回路が働き,ポップノイズやショッ
クノイズの発生を防止していました。
AM部は,3端子型セラフィル素子2個とコイルを組みあわせた高選択度セラミックフィルターおよび高
性能ICをIF段に採用し,RF段には受信帯域外をカットするスプリアストラップ回路を入れて,短波帯か
らのビートを排除するなど,しっかりした構成としていました。また,当時10kHz間隔から9kHz間隔に
変更されたAM放送のチャンネルプランに合わせて9kHzのフィルターを内蔵して,放送局同士の干渉
によるビートを抑えていました。背面に高感度のバーアンテナも搭載され,AM放送もしっかり受信でき
るチューナーとなっていました。
FMだけでなくAMにも周波数直線バリコンを使用し,実効長270mmのロングダイヤルスケール,直径
60mmの大型フライホイールの採用などにより,スムーズなチューニング感覚を実現していました。
以上のように,KT-8100は,当時のトリオのチューナーの中で,エントリーモデル的な存在ながら,上級
機で展開されていたパルスカウント方式を採用するなど,コストパフォーマンスの高い機種となっていまし
た。クリアなFMの音質は,トリオらしさをしっかりと感じさせるもので,当時のトリオが,パルスカウント方
式を広く展開していこうとする意欲を感じさせる1台だったと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
受信特性を改善,低ひずみ率,
高SN比の音質重視。さすが!
◎パルスカウントIC
◎SN比を大幅に改善するダブルコンバート方式
◎IF帯域2段切替
◎すぐれた受信特性
◎音質重視のMPX部
◎FETによるFMミューティング
◎ビート障害を抑えるAM部
◎FM200kHz,AM50kHzの等間隔目盛
受信周波数範囲 | 76MHz~90MHz |
アンテナインピーダンス(A,B2系統) | 300Ω平衡,75Ω不平衡 |
感度 NORMAL(75Ω) NORMAL(300Ω) |
10.3dBf(新IHF) 0.9μV(IHF) 10.3dBf(新IHF) |
SN比50dB感度 (75Ω MONO) (75Ω STEREO) |
15.8dBf(新IHF) 1.7μV(IHF) 37.2dBf(新IHF) 20μV(IHF) |
ひずみ率 |
WIDE 100Hz 0.05%(MONO) 0.1%(STEREO) 1kHz 0.05%(MONO) 0.06%(STEREO) 6kHz 0.065%(MONO) 0.1%(STEREO) 15kHz 0.09%(MONO) 0.4%(STEREO) 50Hz~10kHz 0.065%(MONO) 0.15%(STEREO) NARROW 100Hz 0.06%(MONO) 0.5%(STEREO) 1kHz 0.17%(MONO) 0.25%(STEREO) 6kHz 0.4%(MONO) 0.25%(STEREO) 15kHz 0.09%(MONO) 1.5%(STEREO) 50Hz~10kHz 0.4%(MONO) 0.7%(STEREO) |
SN比(100%変調1mV入力) | 81dB(MONO) 78dB(STEREO) |
イメージ妨害比 | 90dB |
選択度(IHF) | NARROW 54dB(300kHz) WIDE 45dB |
IF妨害比 | 100dB |
スプリアス妨害比 | 105dB |
AM抑圧比 | 65dB |
キャプチャーレシオ | 1.0dB(WIDE) 2.0dB(NARROW) |
サブキャリア抑圧比 | 65dB |
ステレオセパレーション |
WIDE 1kHz 55dB 50Hz~10kHz 40dB 15kHz 38dB NARROW 1kHz 48dB 50Hz~10kHz 35dB 15kHz 30dB |
周波数特性 | 30Hz~15kHz +0.2dB -1.5dB |
出力レベルおよび出力インピーダンス | 1kHz 100%変調 FIXED 0.75V/1.8kΩ |
受信周波数範囲 | 520kHz~1650kHz |
感度 | IHF 13μV バーアンテナ 250μV/m |
ひずみ率 | 0.4% |
SN比(30%変調1mV入力) | 50dB |
イメージ妨害比(1000kHz) | 60dB |
選択度(IHF) | 38dB |
電源電圧・電源周波数 | AC100V 50Hz/60Hz |
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) | 12W |
最大外形寸法 | 440(W)×153(H)×402(D)mm |
重量 | 7.2kg |
※本ページに掲載したKT-8100の写真,仕様表等は1979年1月の
TRIOのカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に著作権が
あります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等すること
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