KT-8300の写真
TRIO KT-8300
FM STEREO TUNER ¥63,000

1978年に,トリオ(現ケンウッド)が発売したFM専用チューナー。1976年に,世界に先駆けてパルスカウント方式を
搭載したKT-9700を発売したトリオが,さらに,パルスカウント方式をIC化するなど,より熟成させて搭載したチュー
ナーがKT-8300でした。

FM検波部には,最大の特徴であるパルスカウント方式をIC化して搭載していました。パルスカウント方式は,周波数変
調波をリミッターを通して方形波に変換し,方形波を微分回路を通すことによって得たパルスで,単安定マルチ回路をト
リガーし,パルス幅の等しい出力を得て,これを積分回路にかけて復調信号を取り出すというもので,従来のインダクタ
ンスとコンデンサーによる検波回路に比べて,直線性にすぐれ,3.92MHzの広帯域にわたって直線検波が可能という
ものでした。そして,この後,同社のFMチューナーの主力技術として展開されていきました。
このパルスカウント方式に合わせ,10.7MHzの第1IFに加えて,感度・選択度の向上と相互干渉の低減がねらえ,安
定した増幅が可能となるよう,1.96MHzの第2IF(中間周波数)を設けたダブルコンバート方式がKT-9700同様に,
採用されていました。約10倍の周波数特性が要求されるパルスカウント方式のパルス変換が容易になり,相対周波数
偏移が大きくなることで,検波効率が上がり,SN比が向上するという効果もありました。

パルスカウントICF直5連バリコン

RF段は,妨害排除能力を高めるために,新開発のFM専用周波数直線5連バリコンを,初段複同調で使用し,IM歪み
を大きく低減していました。さらに,デュアルゲートMOS型FETを採用して,IF妨害比110dB,イメージ妨害比120dBと
すぐれた妨害排除能力を実現していました。

IF段は,IF帯域WIDE,NARROWの2段切換が搭載されていました。WIDEポジションでは,0.1μs(±150kHz)以
下というフラットな群遅延特性を示す,新開発のフェイズリニア型セラミックフィルターを4素子で使用し,低歪み特性を
確保していました。NARROWポジションは,シャープな特性を持つセラミックフィルター8素子で構成され,選択度特性
60dB(300kHz・IHF)というすぐれた妨害排除特性を確保していました。高選択度のNARROWポジションにおいても
歪み率0.15%(MONO・1kHz),ステレオセパレーション50dB(1kHz)というすぐれたオーディオ特性が実現され,
受信性能と音質の両立が図られていました。

MPX段には,パイロット信号をキャッチすると瞬間的に入力レベルを下げてフィルター特性を強化し,副搬送波(サブキャ
リア)に主信号や副信号が混入して発生するビートや歪みを抑えるクリーンサブキャリアシステムが搭載されていました。
さらに,パイロットキャンセラーも搭載され,正確なパイロットキャンセラーの動作により,低歪みと30Hz〜15kHzという
広帯域でフラットな周波数特性を実現していました。

受信したい局の±75kHz以内の範囲まで同調をとり,ツマミから手を離すと強力な引き込み現象を発生し,正確な受信
周波数にロックされるサーボロック機構が搭載されていました。パルスカウント方式により,フィルターの最も歪み特性よ
い部分が使えることになり,低歪みを実現し,長時間にわたってドリフトのない安定した受信が確保されていました。

KT-8300の内部

以上のように。KT-8300は,パルスカウント方式のFMチューナーとして,より完成度を高め,中級機として使いやすく
受信性能と音質が両立した1台でした。トリオのすぐれたチューナー技術が発揮された実力機でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



FM技術がさらに前進,
パルスカウントIC。トリオだけ!


◎新開発パルスカウントIC
◎ダブルコンバート方式
◎新開発のFM専用F直5連バリコンを採用,
 IMにつよいフロントエンド
◎新開発の群遅延平坦型セラミックフィルター
 を採用,IF帯域2段切替
◎クリーンサブキャリアシステムと
 パイロットキャンセラーによるMPX部
◎サーボロック機構




●主な規格●

●FM部●

受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス(A,B2系統) 300Ω平衡  75Ω不平衡
感度 (75Ω) 
    (300Ω)
10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF) 
10.8dBf(新IHF)
SN比50dB感度 75Ω(MONO) 
           75Ω(STEREO)
15.8dBf(新IHF) 1.7μV(IHF) 
37.2dBf(新IHF) 20μV(IHF) 
ひずみ率 
    
    
         
WIDE    100Hz      0.04%(MONO)  0.07%(STEREO) 
        1kHz       0.04%(MONO)  0.05%(STEREO) 
        6kHz       0.05%(MONO)  0.08%(STEREO) 
        15kHz      0.05%(MONO) 0.4%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.06%(MONO)  0.15%(STEREO) 
NARROW 100Hz      0.04%(MONO)     0.3%(STEREO) 
        1kHz       0.15%(MONO)  0.12%(STEREO) 
        6kHz       0.4%(MONO)   0.2%(STEREO)   
        15kHz      0.06%(MONO)   1.0%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz   0.4%(MONO)   0.3%(STEREO)
SN比 
  (100%変調1mV入力)
84dB(MONO) 80dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 1.0dB
選択度(IHF) NARROW 60dB(±300kHz) 
WIDE    45dB
ステレオセパレーション 
  
WIDE     1kHz        55dB 
         50Hz〜10kHz   47dB 
         15kHz       40dB 
NARROW  1kHz         50dB 
         50Hz〜10kHz   40dB 
         15kHz        33dB
周波数特性 30Hz〜15kHz  +0.3dB −0.5dB
イメージ妨害比   120dB
IF妨害比       110dB
スプリアス妨害比  120dB
AM抑圧比 65dB
サブキャリア抑圧比  72dB 
出力レベルおよび出力インピーダンス FM 1kHz 100%変調 FIXED    0.75V 2.5kΩ 
                VARIABLE 0〜1.3V 1.5kΩ
マルチパス出力 垂直出力   0.02V  1.0kΩ 
水平出力   0.35V   10kΩ


●電源部その他●

電源電圧・電源周波数 100V  50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 20W
最大外形寸法 440(W)×153(H)×402(D)mm
重量 7.5kg


※本ページに掲載したKT-8300の写真,仕様表等は1979年1月の
 TRIOのカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に著作権が
 あります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等すること
 は法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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