KT-900の写真
TRIO KT-900
AM-FM STEREO TUNER ¥49,800

1980年に,トリオ(現ケンウッド)が発売したFM/AMチューナー。同年に発売されたKT-1000の弟機で,
同じく表示部がガラスパネルの奥にあるデザインを採用し,さらにこれまでの同社のチューナーにはない薄
型のデザインとして,大きくイメージを変えたものとなっていました。

KT-900の最大の特徴は,トリオ自慢のパルスカウント検波方式の搭載にありました。パルスカウント検波
方式は,KT-9700で初登場したもので,通常10.7MHzのFMのIF(中間周波数)をさらに変換して1.96
MHzの第2IFを作りだし,これを方形波パルスに変換し,パルスの高さや幅を揃えた上で復調してオーディオ
信号を取り出すというもので,一般的に用いられていたS字検波器に比べて,検波帯域が高帯域にわたって
直線性が高く,温度や湿度等の変化に対しても安定性が高いなどのすぐれた特徴がありました。KT-900で
は,KT-8300以来のパルスカウント検波回路を1チップ化したパルスカウントICを搭載していました。

KT-900のブロックダイアグラム

KT-900では,さらにIF部とダブルコンバート回路,レック・キャリブレーター用発振器,ノイズ検出法により誤
動作をなくしたミューティング検出回路,シグナルメーター回路など,パルスカウントシステムに必要な機能を
1チップ化した高集積度・高性能IF・ICを開発,搭載していました。トリオは,このような2つのICで構成される
パルスカウントシステムを「ニュー・パルスカウントシステム」と称していました。

パルスカウントICとIF・IC

MPX回路でのステレオ復調時の音質劣化の原因となる,ステレオ信号のサブ信号(23kHz〜53kHz)以上
の周波数を不要帯域としてカットするクリーンレセプションが搭載されていました。これは,フィルター回路の改
良により,ステレオスイッチング信号38kHzの高調波を抑えて,混信妨害を防ぎ,高域セパレーションの改善
を図ったもので,ステレオ受信時の選択度,音の透明度が高められていました。

RF部は,周波数直線4連バリコンをシングル・ダブル構成で採用し,初段には,高性能デュアルゲートMOS
FETを搭載して,選択度特性を改善していました。
IF部には,WIDE・NARROWの帯域切り換えが装備され,電波状況に応じて切り換えられるようになっていま
した。
AM部は,2連バリコンが搭載され,高選択度ラダー型セラミックフィルターが採用され,妨害排除能力が高め
られるとともに,周波数特性の拡大も図られていました。

シグナルメーター

シグナルメーターなどのメーター表示系も,それまでの同社のチューナーとは大きくイメージを変え,LEDによる
ものとなり,信号強度を示すシグナルメーターは同調,離調の状態により赤と緑に変化する2色LEDシグナルメ
ーターが採用され,チューニングのセンターを表示するメーターもLEDによる方向指示が点灯するものになって
いました。さらに,タッチサーボ機構により,同調してツマミから手を離すとサーボロックが働き,安定した受信が
保持されるようになっていました。

以上のように,KT-900は, 同社のチューナーの中級機として,デザインイメージを大きく変えたもののパルス
カウント方式をはじめ,技術を継承・発展させたしっかりした内容をもつ,使いやすいチューナーでした。カチッと
クリアな音は,トリオらしいものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ロックした。パルスカウントした。
「FM本来の音」が浮かびでた。
完成のニュー・パルスカウント・チューナー


◎新開発のニュー・パルスカウントシステム
◎ステレオ受信時に音の透明度を改善する
 クリーンレセプション・フィルター
◎選局時の操作性を高めた
 2色点灯シグナルメーターとタッチサーボ機構
◎相互変調・混変調特性を改善するRF部
◎高感度ループアンテナと新型フィルター採用
 音質にすぐれたAM部




●KT-900 定格●



●FM部●

受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス(A,B2系統) 300Ω平衡,75Ω不平衡
感度 NORMAL(75Ω) 
    NORMAL(300Ω)
10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF) 
10.8dBf(新IHF) 1.9μV(IHF)
SN比50dB感度  
NORMAL(MONO) 
NORMAL(STEREO) 

16.4dBf(新IHF) 1.8μV(IHF) 
37.3dBf(新IHF)  20μV(IHF) 
ひずみ率 
   
    
         
WIDE    100Hz       0.03%(MONO) 0.05%(STEREO) 
        1kHz        0.03%(MONO) 0.04%(STEREO) 
        6kHz        0.05%(MONO) 0.07%(STEREO) 
        15kHz       0.05%(MONO)  0.5%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.09%(MONO)  0.18%(STEREO) 
NARROW 100Hz      0.04%(MONO)   0.3%(STEREO) 
        1kHz       0.15%(MONO)   0.3%(STEREO) 
        6kHz       0.4%(MONO)    0.3%(STEREO) 
        15kHz      0.07%(MONO)  1.0%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.4%(MONO)  0.6%(STEREO)
SN比(100%変調1mV入力)   88dB(MONO) 83dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 1.0dB(WIDE) 2.0dB(NARROW)
選択度(IHF) NARROW 65dB(±300kHz) WIDE 45dB
ステレオセパレーション 
  
WIDE     1kHz         55dB 
         100Hz〜10kHz   45dB 
         15kHz        37dB 
NARROW  1kHz         47dB 
         100Hz〜10kHz   35dB
周波数特性 30Hz〜15kHz  +0.2dB −0.8dB
イメージ妨害比(84MHz)    90dB
IF妨害比(84MHz)      100dB
スプリアス妨害比(84MHz)  120dB
AM抑圧比 70dB
サブキャリア抑圧比  68dB
出力レベルおよび出力インピーダンス 1kHz 100%変調 FIXED    0.75V/1.8kΩ



●AM部●

受信周波数範囲 520kHz〜1650kHz
感度 IHF 13μV
ループアンテナ 250μV/m
ひずみ率(1000kHz) 0.4%
SN比(30%変調1mV入力) 52dB
イメージ妨害比(1000kHz) 45dB
選択度(IHF) 58dB
出力および出力インピーダンス 400Hz 30%変調 FIXED  0.15V/2kΩ    



●電源その他●

電源電圧・電源周波数 AC100V  50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 15W
最大外形寸法 440(W)×78(H)×390(D)mm
重量 5.1kg


KT-990の写真
TRIO KT-990
AM-FM STEREO TUNER ¥53,800

1982年に,KT-900はKT990にモデルチェンジされました。デザイン的に上級機KT-1000KT-1100
へと大きくイメージが変わったのに対し,KT-990は細かな点(チューニングメーターの位置,TRIOのロゴなど)
以外大きな変化がなく,一見モデルチェンジに気がつかないほどでした。

内容的にも,回路構成等ほぼ継承されていましたが,そうした中,主な改良点として,ステレオ復調部とAM部
がありました。
ステレオ復調部部には,新たに,高級機なみのセパレーションL・R独立調整回路が採用され,ステレオセパレー
ションは,1kHzで55dB,50Hz〜10kHzで45dBというすぐれた特性が確保されていました。MPX部はPLL方
式で,チョッパ型復調回路が採用され,MPX部単体では,歪率0.006%(MONO),0.15%(STEREO),
SN比97dBという特性が実現されていました。また,19kHz,38kHzキャンセラー回路が搭載され,高い抑圧
比が確保されていました。
AM部には,新たにIF帯域切り換えが装備され,WIDEでは,15kHzまでフラットな特性で送信されているAM
放送を広帯域受信できる特性とし,NARROWは,当時導入され始めた,プリエンファシス方式の放送に対応
して,プリエンファシス(高域,低域を持ち上げた特性)と逆の周波数特性をもつことで,フラットな特性を確保し
ようとしたものでした。

以上のように,KT-990は,中級機として手堅く完成度が高められていました。これ以降,トリオ,ケンウッドの
チューナーは,シンセサイザー方式へと移行していくこととなり,KT-990は,このクラスのバリコン式チューナー
の最後の世代のモデルとなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



多局化されると性能の違いが際立ってくる。
NEW PULSE COUNT


◎FM放送のデジタルソース化に応える
 ダブルコンバート・パルスカウント方式
◎強電界につよいフロントエンド
◎ステレオ受信時の選択度を向上する
 新設計クリーンレセプション・フィルター
◎19kHz,38kHzキャンセラーつきMPX
◎IF2段切換のAM部
◎確実選局のタッチサーボロック機構と
 3色点灯チューニングメーター



●KT-990 定格●



●FM部●

受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス(A,B2系統) 75Ω不平衡
感度 NORMAL(75Ω)     10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF) 
SN比50dB感度  
NORMAL(MONO) 
NORMAL(STEREO) 

16.4dBf(新IHF) 1.8μV(IHF) 
37.3dBf(新IHF)  20μV(IHF) 
ひずみ率 (100%変調)
   
    
         
WIDE    100Hz       0.03%(MONO) 0.05%(STEREO) 
        1kHz        0.03%(MONO) 0.04%(STEREO)
        15kHz       0.05%(MONO)  0.5%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.09%(MONO)  0.18%(STEREO) 
NARROW 100Hz      0.04%(MONO)   0.3%(STEREO) 
        1kHz       0.15%(MONO)   0.3%(STEREO) 
        15kHz      0.07%(MONO)  1.0%(STEREO) 
        50Hz〜10kHz 0.4%(MONO)  0.6%(STEREO)
SN比(100%変調1mV入力)   90dB(MONO) 83dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 1.0dB(WIDE) 2.0dB(NARROW)
選択度(IHF) NARROW 65dB(±300kHz) WIDE 45dB
ステレオセパレーション 
  
WIDE     1kHz         55dB 
         50Hz〜10kHz    45dB 
         15kHz        40dB 
NARROW  1kHz         47dB 
         50Hz〜10kHz    35dB
周波数特性 20Hz〜15kHz  ±0.5dB
イメージ妨害比(84MHz)    90dB
IF妨害比(84MHz)      100dB
スプリアス妨害比(84MHz)  120dB
AM抑圧比 70dB
サブキャリア抑圧比  55dB
出力レベルおよび出力インピーダンス 1kHz 100%変調 FIXED    0.75V/1.8kΩ



●AM部●

受信周波数範囲 520kHz〜1650kHz
感度 IHF 10μV
ループアンテナ 200μV/m
ひずみ率(1000kHz) 0.4%
SN比(30%変調1mV入力) 55dB
選択度(IHF) NARROW 50dB WIDE 30dB
周波数特性(WIDE)
30Hz〜6kHz
出力および出力インピーダンス 400Hz 30%変調 FIXED  0.25V/1.8kΩ    




●電源部その他●

電源電圧・電源周波数 AC100V  50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 14W
最大外形寸法 440(W)×78(H)×337(D)mm
重量 4.7kg

※本ページに掲載したKT-900,KT-990の写真,仕様表等は1980年9月
 1982年9月のTRIOのカタログより抜粋したもので,トリオ・ケンウッド株式
 会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等
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