KENWOOD KT-V990
QUARTZ SYNTHESIZER AM-FM-TV STEREO TUNER ¥59,800
1987年に,ケンウッド(現JVCケンウッド)が発売したFM/AM/TVチューナー。ケンウッドはトリオの
時代からFMチューナーに高い技術を持っており,通信機も作っているブランドとして高い評価を受け
ていました。そんなケンウッドも,シンセサイザーチューナーの発売においてはむしろ慎重で,後発でし
たが,1983年にシンセサイザー方式のチューナー・KT-1010を発売して新たにDLLD方式を採用
し,パルスカウント方式からの移行を始めました。その後KT-1010Ⅱ,KT-1010Fを発売し,その
後継機として発売されたのがKT-V990でした。

フロントエンドは,5連バリキャップ方式で,そのうち1連分はOSCバッファに用いられており,妨害排
除特性が高められていました。RF増幅段,ミキサー段にはデュアルゲートMOS FETが使用され,
OSC,OSCバッファーにもFETが使用されるなど,ほぼ全段がFET構成となっていました。
KT-V990では,上級機同様に,「ダイレクト・リニアレセプション・シンセサイザー方式」が採用されて
いました。その名の通り,局部発振回路(VCO)の周波数対電圧特性をできるだけリニアにしたもの
で,チューニング電圧の揺れの影響が全周波数帯にわたってリニアになりIM特性を改善して相互変
調を抑え,ノイズレベルを下げ,S/N比の大幅な改善を図ったものでした。バリコンの代わりに使われ
るようになったバリキャップのチューニング電圧の揺れが,低い受信周波数になるほど受信周波数の
揺れとして大きく表れてS/N比を劣化させることを抑えるもので,全受信帯域で,100dB(MONO),
92dB(STEREO)の高S/N比を実現していました。

IF段の検波回路には,KT-1010で開発されたDLLD(ダイレクト・リニアループ・ディテクター)を搭載
していました。DLLDは,バランス型PLL検波回路の一種で,10.7MHzのIF信号をダイレクトにリニ
ア化して閉ループ検波器で検波,さらに,閉ループ内に,IFフィルターで発生する高調波歪みを低減す
る歪み補正回路を設けて高S/N比の検波を行おうというものでした。歪み補正回路は,DCC(ディスト
ーション・コレクティング・サーキット)と称するもので,高選択度と音質の両立を図るために,急峻な特
性のIFフィルターでまず妨害波を取り除き,通過した信号から高調波歪み成分だけを抽出してキャン
セルしようとするものでした。

IF段には,WIDE/NARROWの帯域2段切換えが採用されていました。WIDEポジションは,セラミック
フィルター2段IF増幅1段という構成で,60dBの高選択度を確保しながら,0.007%(モノ1kHz),
0.009%(ステレオ1kHz)という低歪率を実現していました。NARROWポジションは,セラミックフィ
ルター3段,IF増幅1段という構成となり,75dBという高選択度特性を確保し,すぐれた妨害排除能力
を実現していました。

MPX部は,上級機にも搭載されていたDPD(ダイレクト・ピュア・デコーダー)MPX方式を採用していま
した。これは,従来の38kHzの方形波を使ってスイッチングするステレオ復調と異なり,38kHz以外
の成分を全く持たない正弦波で検波出力と掛算する方式でした。38kHzの方形波を用いる方式では
どうしても高調波成分が含まれているため,これを除くクリーンレセプション・フィルターなどのフィルター
を用いていましたが,フィルターを通すことにより,どうしても位相まわりなどにより,高域のセパレーショ
ンを劣化させることになります。DPD MPXでは,ローパスフィルターを必要としないため,65dBの高セ
パレーションを実現しながら,クリアなステレオ復調が可能となっていました。

以上のDLRC(ダイレクト・リニアレセプション・サーキット),DLLD(ダイレクト・リニアループ・ディテク
ター),DCC(ディストーション・コレクティング・サーキット),DPD(ダイレクト・ピュア・デコーダー)の4つ
の頭文字のDをとり,当時ケンウッドは「4D SYSTEM」と称していました。



さらに,電源供給に目を向けた「ペンタクルサーキット」が採用されていました。「ペンタクルサーキ
ット」は,電源を中心として各ステージを配し,電源とステージを最短距離でつなごうというもので,
従来のチューナーの電源が,出口の復調回路から入口のフロントエンドシンセまで順次供給の列
車のような形になっていたのに対し,水平に周りに直接供給する形になっていました。これにより,
電源を介しての各ステージ間の干渉がなくなり,ローレベルの再現能力が高められていました。

AM部は,2連バリキャップの標準的な構成となっていました。その他,KT-V990には,Vの型番
が示すようにTV音声(アナログ地上波)の受信機能が搭載されていました。当時のアナログ波の
テレビ放送は音声がFMステレオ(音声多重)であり,高音質が期待できるオーディオソースとして
もとらえられていました。TV音声用に上述のペンタクルサーキット使用のフロントエンドを搭載し,
FM部の高性能のIF検波部を共有していました。また,UHF帯域のS/N比を改善するため,銅線
に銀メッキを施したHi-Q銀メッキコイルを使用してノイズの発生を抑えていました。TV音声に対す
る機能として,MUSIC/NEWSのTVサウンドコントロール,多重放送受信時に,主/副音声の切
換なども搭載されていました。

上級機同様に,シンセサイザーチューナーながら,チューニングノブが設けられており,ノブによる
回転方式のデジタルロータリーチューニングが採用され,アナログチューナーの操作感を残してい
ました。選局機能は,AUTO/MANUALの他,20局のAM/FM/TVのランダムプリセットメモリー
選局が搭載されていました。またプリセットメモリーは,10局ずつA,B1つのチャンネルに分かれ
ており,タイマーで留守録をする際には,電源のON/OFFにしたがって,最後に受信した局,Aチャ
ンネルの10,Bチャンネルの10に登録した局の計3つの放送局を順に録音できるプログラム機
能も搭載されていました。

その他の機能として,電界強度に応じたDIRECT/DISTANCEのRF2段切換,遠距離局の受信
時のS/N比を改善するオートクワイティング(オートハイブレンド機能)が搭載されていました。また
ユニークな機能として,DIRECT/DISTANCEのRF2段切換とIF段のWIDE/NARROWの帯域
2段切換えを受信状態に応じて自動設定してくれる「アクティブ・レセプション・コントロール」という
機能も搭載されていました。さらに,エアチェック(=放送の録音,死語?)のための基準信号を
発生するRECキャリブレーターも搭載されていました。

以上のように,KT-V990は,ケンウッドのチューナーの中級機として,積み上げてきた正攻法の
チューナー技術をバランス良く搭載し,すぐれた受信性能とクリアな音を実現していました。さらに
TV音声の受信機能を持たせるなど,機能的にも充実したチューナーとなっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



音色,鮮明。

ダイレクト・リニアレセプション・サーキット(DLRC)
ディストーション・コレクティング・サーキット(DCC)
ダイレクト・リニアループ・ディテクター(DLLD)
ダイレクト・ピュアデコーダー(DPD)
ペンタクルサーキット
アクティブ・レセプションサーキット

◎FMに迫るクオリティの高い音を獲得
 新開発のTVチューナー
◎FMチューナーには独自の4Dシステムを搭載
◎20局ランダムメモリー機能と
 オートチューニング機構
◎ダイレクト・リニアレセプション・サーキットで
 100dBの高SN比を実現
◎遠距離受信時に有効な
 オートクワイティング機能

●RFセレクター(DIRECT/DISTANCE)
●IFバンド切換(WIDE/NARROW)
●20局ランダムプリセット
●RECキャリブレーション
●留守録音に便利な3局プログラム機能
●チューニングにロータリーエンコーダー方式採用
●TVサウンドコントロール
●アクティブ・レセプション・コントロール




●SPECIFICATIONS●

●FM部●

受信周波数範囲 76MHz~90MHz
アンテナインピーダンス 75Ω不平衡
感度(75Ω)   DISTAMCE:10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF)
DIRECT:31.2dBf(新IHF),10μV(IHF) 
SN比50dB感度                          (MONO)  :16.2dBf(新IHF) 1.8μV(IHF) 
(STEREO):38.8dBf(新IHF) 24μV(IHF)
高調波ひずみ率           WIDE 1kHz       0.007%(MONO) 
                0.009%(STEREO)      
SN比(100%変調85dBf入力) 100dB(MONO) 92dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 1.0dB(WIDE) 2.5dB(NARROW)
実効選択度(IHF) NARROW 75dB 
WIDE    60dB
ステレオセパレーション   WIDE 1kHz  65dB 
周波数特性 20Hz~15kHz  ±0.5dB
イメージ妨害比   84MHz  90dB
IF妨害比      84MHz  120dB
スプリアス妨害比 84MHz  110dB
AM抑圧比(65.2dBf) 72dB
サブキャリア抑圧比  70dB
出力レベルおよび出力インピーダンス FM 1kHz 100%変調 固定出力:0.6V/3.3kΩ 固定出力


●AM部●

受信周波数範囲 531kHz~1602kHz
感度 10μV・250μV/m
高調波ひずみ率 (1000kHz)           WIDE   :0.25%
イメージ妨害比(1000kHz) 40dB 
IF妨害比(1000kHz)  55dB 
選択度(IHF)  30dB
出力レベルおよび出力インピーダンス  0.18V/3.3kΩ
SN比(30%変調1mV入力) 55dB


●TVチューナー部●

受信チャンネル VHF:1~12CH,UHF:13~62CH
アンテナインピーダンス VHF:75Ω不平衡,UHF:300Ω平衡
感度       VHF:3.0μV,UHF:20μV
SN比 68dB(VHF) 
高調波ひずみ率  0.04% 
チャンネルセパレーション  45dB
出力レベルおよび出力インピーダンス  0.45V/3.3kΩ FM 1kHz 100%変調


●電源部その他●

電源電圧・電源周波数 100V  50Hz・60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 19W
最大外形寸法 440(W)×78(H)×331(D)mm
重量 4.1kg

※本ページに掲載したKT-V990の写真,仕様表等は1987年10月の
 KENWOODのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
 等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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