KX-1000の写真
TRIO KX-1000
STEREO CASSETTE DECK ¥120,000
1979年にトリオ(現ケンウッド)が発売したカセットデッキ。当時のトリオのカセットデッキ中,最上級機で,
同社の歴史を見ても数少ない10万円超の高級デッキでした。テープデッキではブランドイメージのあまり
強くなかったトリオがオーソドックスにしっかりと作り上げた1台でした。
KX-1000の走行系は,1モーター構成,シングルキャプスタン方式ながら,テープテンションを一定に保
つためのオートバックテンションシステムが採用されていました。テープテンションの変化をサーチアーム
で検出し,その変化の度合いに応じてバックテンション量を自動的にコントロールするシステムになって
いました。また,テープ供給側リール台には,真円度0.03mmの高精度リールを使用して,瞬間的なレ
ベル変動を抑えるようになっており,安定したテープ走行が実現されていました。
テープ走行の操作系は,1モーターながら,ロジック回路が搭載され,モーターのフライホイールの回転力
を利用して,モード切替スイッチの原動力としたメカニカルロジックコントロールが採用されていました。ボ
タンの操作力は200g以下と軽く,モードからモードへのチェンジはダイレクトで確実に動作するようになっ
ていました。
KX-1000のメカニズム部
ヘッドは3ヘッド構成がとられていました。録音ヘッドと再生ヘッドが独立しており,双方ともフェライトヘッド
で,コンビネーションヘッドとなっていました。録音ヘッドは5μ,再生ヘッドは1μと,それぞれに適したギャ
ップ長が設定されていました。消去ヘッドも,ダブルギャップフェライトヘッドが搭載され,オールフェライトヘッ
ド構成となっていました。ヘッドからアンプまで,録音・再生が独立した構成となっており,録音同時モニター
が可能となっていました。
音質に影響するヘッドの防振のために,振動源であるモーターの振動を伝えないように対策が施されてい
ました。ポリアセタール樹脂のフランジをモーターに固定し,さらにモーターの前後を天然ゴムとシリコンゴ
ムで抑え込み,モーターから発生する振動をリング状のダンパーにより吸収するようになっていました。DC
モーター自身のコッキングによるノイズも抑えて,ヘッドに影響を与えないようになっていました。
再生イコライザーアンプは,入力に高コンダクタンス(抵抗が少ない=電流が流れやすい)FETを採用し,そ
の負荷にカレントミラー回路を置いた±2電源駆動回路が搭載されていました。ヘッドの出力端のカップリン
グコンデンサーを取り除くことができるため,位相特性が改善され,高SN比,低歪率が実現されていました。
録音イコライザーアンプもFET差動回路で,出力段にはピュアコンプリメンタリーICを採用し,定電流駆動し
ていました。テープポジションは,METAL/NORMAL/CrOで,バイアス3段,イコライザー3段の独立切
換方式となっていました。録音イコライザー部は,METAL/NORMAL/CrO各ポジションに専用ピーキン
グコイルとともに,各々専用の録音補償回路を設け,フラットな周波数特性が確保されていました。
さらに,各テープの特性を引き出すために,ファインバイアスチューニングが搭載されていました。ワンポイン
トのバイアス値だけでなく,400Hz,10kHzダブルシグナルオシレーターの2信号レベルを合わせることに
より,広帯域にわたる適正バイアス値を設定できるようになっていました。
また,ドルビーを正確に動作させるために,レック・キャリブレーションも装備され,使用テープの感度とデッキ
の基準入出力特性がマッチングするように調整できるようになっていました。
バイアスチューニング,レック・キャリブレーション用の内蔵オシレーターは,安定性のいいオペアンプで構成
され,出力レベル特性は,温度などの外部要因にほとんど影響されないようになっていました。また,高精
度レベル検出用ICを使ったシュミット回路がレベルメーター横のLEDを正確に±1dBステップで点灯させる
ようになっていました。
レベルメーターは,当時のカセットデッキにはまだ少なかった蛍光管表示を採用したレベルメーターが搭載
され,指針式メーターに比べて速い応答速度が確保され,瞬間的な大入力に対しても応答できる,確度の
高いレベル表示が実現されていました。
テープカウンターは,メモリースイッチをONにしておくと,PLAYまたはRECスタート時にカウンターを”000”
にセットし,終了時に巻き戻すと”000”で停止するメモリーインデックス機能が搭載されていました。
入力は,LINEに加え,MIC入力も装備され,LINE,MICそれぞれ専用の録音ボリュームが備えられてお
り,ミキシングも可能となっていました。
ノイズリダクションとしてドルビー(Bタイプ)が装備され,録音用ドルビー回路と再生用ドルビー回路がが独
立したダブルドルビーシステムが採用され,3ヘッドを生かした録音・再生同時モニター時にも,ドルビー再
生ができるようになっていました。また,FMエアチェック時に誤動作を防ぐためのMPXフィルタースイッチも
装備されていました。
以上のように,KX-1000は,当時のトリオのカセットデッキの最高級機として,オーソドックスに性能を追求
した手堅い設計が特徴で,安定した録音・再生を実現した1台でした。アルミパネルの重厚感あるデザインも
魅力的でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ついに,38・2トラのメカをもった。

◎メタルテープをはじめ,各種テープの特長を
 十分に発揮させる”テープフリー”の調整機構

●オートバックテンションシステム
●ファインバイアスチューニング
●正確な同調ができるOSC回路

◎録音しながらモニターができる
 3ヘッド・システム
◎音質を向上させる防振メカニズム
◎±2電源駆動によるFET差動回路採用の
 イコライザーアンプ
◎多用途メモリーインデックス
◎蛍光管を使用したピークレベルメーター
◎ライン/マイクミキシング




●KX-1000定格●

トラック形式 4トラック2チャンネルステレオ
モーター 電子制御DCサーボモーター
ヘッド 3ヘッド 録音再生:フェライト・コンビネーション
      消去:フェライト・ダブルギャップ
テープ速度 4.76cm/s
ワウ・フラッター 0.04%(WRMS)以下
早送り・巻戻し時間 85秒以内(C-60テープ)
周波数特性 ノーマルテープ:20Hz〜18,000Hz(25Hz〜17,500Hz±3dB)
クロームテープ:20Hz〜19,000Hz(25Hz〜18,000Hz±3dB)
メタルテープ  :20Hz〜19,000Hz(25Hz〜18,000Hz±3dB)
SN比(ドルビーON/OFF) ノーマルテープ:66dB/56dB
クロームテープ:69dB/59dB
メタルテープ  :70dB/60dB
総合ひずみ率 1.0%以下(1kHz 0VU メタルテープ)
録音バイアス 105kHz
消去方式 交流消去
入力端子・感度 MIC:0.19mV(56kΩ)ローインピーダンス(600Ω)マイク用
LINE:77.5mV(50kΩ)
出力端子・レベル LINE:775mV(100kΩ負荷)
HEAD PHONE:8〜16Ωヘッドホーン用
電源 AC100V 50Hz/60Hz
消費電力(電気用品取締法による表示) 36W
寸法 440W×153H×377Dmm
重量 9.3kg
付属機構 ダブルドルビーノイズリダクションシステム,
バイアス/EQ独立3段切替テープセレクター
OSC内蔵ファインバイアスチューニング
OSC内蔵レックキャリブレーション
テープモニタースイッチ,ライン/マイクミキシング
マルチプレックスフィルター切替
メモリーインデックス,蛍光管表示ピークレベルメーター
出力ボリューム,タイマースタンバイ
※本ページに掲載したKX-1000の写真,仕様表等は1981年3月
 のTRIOのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
 等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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