KENWOOD KX-9010
STEREO CASSETTE DECK ¥69,400
1989年に,ケンウッドが発売したカセットデッキ。ケンウッドは,1980年代後半頃から,コストパフォーマン
スにすぐれた中級機を中心に置いた製品ラインナップを展開するようになり,手の届きやすい10万円以下
の価格ながら,中身の充実した製品群を多く出していました。その中で,最上級機にあたるものに「9010」
の型番が与えられ,1988年〜1989年にかけて,アナログプレーヤーとしてKP-9010,D/Aコンバーター
内蔵型プリメインアンプとしてDA-9010,ペアとなるCDトランスポートとして
DP-X9010と次々と展開してい
きました。そして,同じ9010の型番をもつカセットデッキのトップモデルとして登場したのがKX-9010でした。
走行系には,クローズドループデュアルキャプスタン方式が採用されていました。キャプスタン駆動,リール
駆動,メカニズム駆動のそれぞれに専用のモーターを配した3モーター構成がとられていました。リール駆
動用,メカニズム駆動用にはDCモーターが搭載され,キャプスタン駆動用は,FGサーボDCモーターによ
るDD(ダイレクトドライブ)方式が採用されていました。さらに,リール駆動用FGサーボDDモーターのサー
ボはクォーツ制御がかけられ,より高精度なテープ走行が実現されていました。しっかりしたシャーシとモー
ターによるメカニズム駆動など,伝統の「高剛性サイレント・メカ」は継承されていました。
また,カセットハーフを安定させる,「テープ・パス・スタビライザー」が搭載されていました。これは,圧縮コ
イルバネを使った独自のクランパーと,その先端に特殊弾性ゴムを使い,カセットホルダーを閉じると,左
右両端よりカセットハーフを包み込むように押さえ込み,しっかりと固定するもので,カセットハーフの振動
を吸収することにより,テープ走行を安定させ,振動の影響をシャットアウトするなど,ワウ・フラッター,変
調ノイズの低減が図られていました。
ヘッドは,録再コンビネーションヘッドを搭載した3ヘッド構成で,録音ヘッドと再生ヘッドには,電磁変換
特性が良く耐摩耗性の高いアモルファスヘッドが搭載され,消去ヘッドには,ダブルギャップ・センダスト
ガード・フェライトヘッドが搭載されていました。
アンプ系は,録音アンプに,ケンウッド自慢の定電流駆動回路「スーパーTLLE」が採用されていました。
「スーパーTLLE」は,ヘッド駆動用と利得制御用の2つのループを持ち,±2電源で録音ヘッドとDC直結
したもので,録音ヘッドの駆動力は大きく向上していました。3ヘッドデッキでは,録音ヘッドにインピーダン
スが通常の2ヘッドに比べ低くなるため駆動電流が多く必要となりますが,「スーパーTLLE」の録音ヘッド
駆動能力がそれに応える性能を発揮し,3ヘッドならではのすぐれた性能を生かせるようになっていまし
た。再生アンプは,音質劣化につながりやすいコンデンサーの使用を最少限に抑えたDCアンプ構成がと
られ,再生ヘッドとのダイレクト・カップリングにより,再生イコライザーアンプへの微小信号を,ロスなく再
生アンプに伝送するようになっていました。
さらに,録音レベルボリュームと録音バランスボリュームをアルミシャフトで延長し,配線距離を最短化す
ることで,回路内での信号ロスをできる限り抑えていました。また,アルミシャフトとボリュームシャフトとの
接続部に特殊ゴムのカップリングを採用し,振動をシャットアウトするようにしていました。
ヘッドホンアンプにも高出力・低歪み設計のものが搭載され,レベルメーター最大レベルまで軽くカバーで
きる仕様になっていました。
電源部も,4巻線2タップの電源トランスと,8個の安定化電源でによる強力な電源部が搭載されていまし
た。その上で,アースの分離を完全に行い,低出力インピーダンスで各回路を駆動する設計となっていま
した。
ヘッドホンジャック,RCAピンジャックはすべて金メッキの端子となっており,カセットデッキとしては大型の
脚部(インシュレーター)が搭載されているなど,細部にも配慮がなされていました。
テープセレクターはオートで3ポジションで,さらに,バイアスとテープ感度を自動調整するオートチューニ
ング機構A.T.C.S.(Automatic Tape Calibration System)が搭載されていました。A.T.C.S.は,400
Hzと10kHzでバイアスレベルを,10kHzでテープ感度を調整するようになっていました。
ノイズリダクションとしてドルビーB,Cが搭載され,ドルビーHX-PROが搭載されていました。また,テープ
走行等の基本的な操作ができるワイヤレスリモコンも附属していました。
以上のように,KX-9010は,これまでのケンウッドのカセットデッキで積み上げてきた技術を継承し,価格
で言えば,中級クラスのモデルながら,非常に中身の濃いコストパフォーマンスの高い1台となっていました。
個性的とはいえないオーソドックスな何気ないデザイン故か,デッキの分野であまり目立つモデルとはなり
ませんでしたが,作りのしっかりした実力派の1台でした。