TRIO L-07TU
FM STEREO TUNER ¥130,000
1979年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したFM専用チューナー。同社の高級機のシリーズ「Lシリーズ」のチューナーの
1号機L-07Tの後継機として発売され,トリオブランドのLシリーズのチューナーとしては最後の機種でした。L-07Tのマーク2
モデルという位置づけでしたが,デザイン,内部とも大きく変更され,別物とも言えるチューナーになっていました。
フロントエンドは,発振回路内蔵の周波数直線7連バリコンを,シングル−トリプル−ダブルで構成し,搭載していました。RF部
には,直線性の範囲が広く,NF(Noise Figure=雑音指数,入力S/Nと出力S/Nの比)が小さいDD-MOS型FET(SD-306)
を採用していました。DD-MOS(ダブル・ディフーズド・デュアルゲートMOS)型FETは,KT-7700で初めて使用されたディバイ
スで,従来のMOS型FETをもういちど拡散することにより,高周波数特性を大幅に改善したものでした。DD-MOS型FETは,
大入力時にも2乗特性が維持できるため,スプリアス特性や相互変調特性にすぐれているほか,超高周波数特性にすぐれ,安
定した動作が得られるというもので,歪みを増加させずに高い選択度特性とすぐれた妨害排除能力を確保していました。また,バ
リコンの精度を上げ,トラッキングエラーを抑えることにより,RF帯域特性を充実させ,周波数を変えることによる特性の変化を抑
えていました。そして,局部発振回路を立体配線化し,バッファーアンプを設置し,さらにケースでシールドすることにより,局発部
の安定性を高め,温度や湿度の変化による周波数ドリフトを最小限に抑えていました。
IF増幅部は,受信条件に応じて受信特性を合わせられるように,IF帯域2段切替が搭載されていました。音質重視のWIDEポジ
ションは,SAF2段構成で,0.045%(1kHz・STEREO)の低歪率を実現していました。L-07TUに搭載されたメタルシールド
タイプSAF(表面波フィルター)は,振幅特性と位相特性を独立してそれぞれ任意の最良点に設計できるフィルターで,遅延特性
が一定(位相特性が直線)であり,振幅特性についても最良点に設計することにより広帯域にわたって低歪率を実現していまし
た。NARROWポジションでは,群遅延特性にすぐれたフェイズリニア4素子フィルター3段の12素子構成で,100dB(400kHz)
60dB(300kHz)の高選択度特性を実現していました。
検波部には,FM検波部には,KT-9700で初搭載されたパルスカウント方式とダブルコンバート方式が採用され,クオドラチュア
検波方式であったL-07Tから大きく変更されていました。
パルスカウント方式は,周波数変調波をリミッターを通して方形波に変換し,方形波を微分回路を通すことによって得たパルスで,
単安定マルチ回路をトリガーし,パルス幅の等しい出力を得て,これを積分回路にかけて復調信号を取り出すというもので,従来
のインダクタンスとコンデンサーによる検波回路に比べて,直線性にすぐれ,3.92MHzの広帯域にわたって直線検波が可能と
いうもので,同社のチューナーに広く採用されていった技術でした。
ダブルコンバート方式は,10.7MHzの第1IFに加えて,感度・選択度の向上と相互干渉の低減がねらえ,安定した増幅が可
能となるよう,1.96MHzの第2IF(中間周波数)を設けたものでした。約10倍の周波数特性が要求されるパルスカウント方式
のパルス変換が容易になり,相対周波数偏移が大きくなることで,検波効率があがるという効果もあり,十分なS/N比が実現
されていました。
MPX部には,PLL系のループフィルターを2段構成とし,メイン信号,サブ信号の高域成分がPLLパイロット信号検出回路に混
入しにくいクリーンサブキャリアシステムが採用されていました。これにより,FMステレオ受信時に発生する高域歪であるビート
ディストーションを抑え,セパレーション特性も改善していました。また,パイロット信号を内部で打ち消すパイロットキャンセラー
回路も搭載されており,高域までの周波数特性を改善すると同時にサブキャリア抑圧比も十分に確保していました。
オーディオアンプ部には,ハイスルーレートのオペレーショナルアンプを採用し,音の立ち上がりを改善した高音質を実現してい
ました。
電源部には,レギュレーションのよい大型のカットコアトランスと3,300μF×2,2,200μF×1という大容量のコンデンサーを
配し,定電圧制御用には,本格的なオペレーショナルアンプが採用され,強力な電源部が構成されていました。
以上のように,L-07TUは,「Lシリーズ」を成す高級チューナーとして,トリオ持ち前のすぐれたチューナー技術が投入された完
成度の高いチューナーでした。メジャーとはいえないチューナーですが,後のケンウッドブランドの高級チューナーにも搭載されて
いく技術のベースも見られ,興味深いものがあると思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



そして,パルスカウント検波回路を搭載する。
FM本来の音にアプローチできた!

◎パルスカウント検波方式
◎メタルシールドタイプ表面波フィルター(SAF)
◎ダブルコンバート方式
◎低ひずみ率のフロントエンド
◎帯域2段切替のIF増幅部
◎クリーンサブキャリアシステムによるMPX部
◎電界強度比例型シグナルメーター
◎ハイスルーレートのオペアンプ
◎強化した電源部




●L-07TU定格●

受信周波数範囲 76MHz〜90MHz
アンテナインピーダンス 300Ω平衡  75Ω不平衡
感度 1.7μV(IHF) 9.8dBf(新IHF)
SN比50dB感度 MONO  :3.0μV(IHF) 14.7dBf(新IHF)
STEREO:35μV(IHF) 36dBf(新IHF) 
ひずみ率(100%変調) 
    
    
         
MONO   100Hz      0.04%(WIDE)  0.04%(NARROW) 
        1kHz       0.04%(WIDE)  0.13%(NARROW) 
        6kHz       0.06%(WIDE)  0.27%(NARROW) 
        15kHz      0.05%(WIDE) 0.05%(NARROW) 
        50Hz〜15kHz 0.06%(WIDE) 0.27%(NARROW) 
STEREO  100Hz      0.05%(WIDE)     0.2%(NARROW) 
        1kHz        0.045%(WIDE)0.15%(NARROW)
        6kHz       0.06%(WIDE) 0.25%(NARROW)   
        15kHz      0.35%(WIDE)    0.9%(NARROW) 
        50Hz〜10kHz  0.1%(WIDE)   0.4%(NARROW)
SN比 (100%変調1mV入力) 85dB(MONO) 80dB(STEREO)
キャプチャーレシオ 0.8dB(WIDE) 1.4dB(NARROW)
選択度 WIDE    35dB
NARROW 100dB(400kHz) 60dB(300kHz)
ステレオセパレーション   1kHz        55dB(WIDE) 50dB(NARROW) 
50Hz〜10kHz  45dB(WIDE) 38dB(NARROW) 
15kHz       40dB(WIDE) 32dB(NARROW) 
周波数特性 20Hz〜16kHz+0.2dB−0.5dB
イメージ妨害比   120dB
IF妨害比       120dB
スプリアス妨害比  120dB
AM抑圧比 65dB
サブキャリア抑圧比  73dB 
出力およびインピーダンス FM 1kHz 100%変調  1V 1kΩ
マルチパス Vertical   0.02V  1kΩ(1kHz 30%変調) 
Hrizontal   0.4V 10kΩ(1kHz 100%変調)
電源電圧・電源周波数 100V  50Hz/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) 28W
寸法 480W×100H×336Dmm
重量 6.9kg
※本ページに掲載したL-07TUの写真,仕様表等は1979年2月の
 TRIOのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に著
 作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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