TRIO
LS-800
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥65,000
1982年に,トリオ(現ケンウッド)が発売したスピーカーシステム。前年に発売された
LS-1000の弟機で
最上級機であるLS-1000の各部をコストダウンしているとはいえ,設計思想的にも内容的にもほぼ近い
ものを実現したコストパフォーマンスの高いモデルでした。
ウーファーは,28cm口径で,プレスコーンとノンプレスコーンの双方の長所を持たせようとした軽量で高
剛性のサーマルショック・トリーティッドコーンで,さらに,LS-1000同様に放射状にリブを設けて剛性を高
めていました。実際触った感じもカチカチで高剛性を実感させるものとなっていました。さらに,ネック部には
逆円錐形のアクリルレジン強化チャンバーがつけられ,分割振動を抑え,大入力にも強く応答性の良い低
音が実現されていました。
ウーファーの取付け方法は,さすがにLS-1000のバイオネットチャック方式とはいかないため,新たにテー
パードナットを用いた締め付け方法がとられていました。ユニットのフレームとバッフル板の間にテーパード
ナットを楔のように挿入し,六角ボルトで締め付けることでユニットとバッフル板を強固に一体化しガッチリ
と固定していました。さらに,このシリーズ共通の仕様として,機械強度的に最も安定性がよく余分な有害
振動が発生しにくいバッフル面中央にウーファーが配置されていました。
スコーカーは10cm口径,トゥイーターは3.5cm口径で,双方ともアクリルレジンとカーボンファイバーによ
り構成された剛性の高いプレーンラジエーター(平面振動板)が採用されていました。スコーカーユニットの
取付には,ウーファーと同様のテーパードナットを用いた方式がとられ,フレームの不要な振動による音の
曖昧さを抑え,分割振動の少ない高剛性平面振動板とあわせ,クリアな音を実現していました。
ネットワークは,各レンジのネットワークコイルを分離配置し,ワンポイントアース化も行われていました。こ
れにより,各コイル間の相互誘導や共通アース線による電圧降下の帰因するネットワーククロストークが抑
えられていました。
エンクロージャーは,基本構造はLS-1000譲りの剛性の高いもので,フロントバッフルは25mm厚,リアバッ
フルは20mm厚で,全体はパーティクルボード製で,表面仕上げは黒檀風の塩ビシート仕上げとなっていまし
た。トゥイーター,スコーカーの部分にはバックキャビティが設けられ,この部分の裏板も20mm厚という高剛性
なもので,しかも強固に固定されていました。リアバッフルは,LS-1000と同様の多面構造が採用されていま
した。これは,ピラミッド型にへこんだ形をしたリアバッフルで,剛性を上げ,エンクロージャー内部の定在波を
防ぐための工夫でした。LS-800のエンクロージャーはバスレフ方式で,ポートは,この多面構造のリアバッフ
ルの中央に設けられ,フロントバッフルのユニットからの放射音への影響を排除しており,このエンクロージャー
を,トリオは「リニアサスペンション構造」と称していました。以上のような構造により,高剛性で有害振動の少な
いエンクロージャーが構成され,箱鳴りの少ないクリアーな再生音が実現されていました。
以上のように,LS-800は,実験的高級機LS-1000の基本的な設計を継承した弟機で,外観もサイズも
LS-1000に近いものがありました。音の方は,LS-1000のようなすごみのある音とは少し異なるものの
癖が少なく低音から高音までスムーズなものでした。ウーファーもLS-1000のものよりやや鳴らしやすい
傾向で,切れはやや劣るものの量感は出やすい,使いやすい特性となっていました。トリオの個性を強く
出した中級機でした。