NIKKO M-110
POWER AMPLIFIER ¥380,000
1976年に,NIKKOが発売したパワーアンプ。日幸電子は,1935年に創業した日幸電機製作所
のオーディオブランドで,1962年に,日本初のオールトランジスタステレオアンプをオーディオフェ
アで発売するなど,当時すぐれたオーディオ機器を発売していました。そんな日幸電子がNIKKO
ブランドで発売したパワーアンプの最高級機がM-110でした。
M-110の回路構成は,初段Pch,Nch FET差動,次段PNP-NPNTr差動による4段パラレル
プッシュプルとした完全対称回路方式となっていました。全段A級動作で100W+100Wの連続
出力をTHD0.06%の低歪みで実現していました。また,AC-DC切替スイッチを装備し,DCアン
プとしても動作させることができるようになっていました。DCアンプとして働かせるには,温度など
のあらゆる外部変動に対して無入力時のセンター電圧変化が起きてはならないため,完全な対
称回路方式とし,使用素子も厳選された精度の高い信頼性のあるものが使用されていました。
これにより,ドリフトは皆無ともいえるまで抑えられていました。
また,音質重視でNFBを極力少なくするために,裸特性について検討が重ねられ,全ての電源を
定電圧回路とし,安定した定電圧を供給することによって,少ないNFBで低歪率特性と残留雑音
の減少を実現していました。そして,電源を全て定電圧化し,供給するため,大電流の変化に対
しても全く変動のない定電圧回路を採用していました。
パワー段に供給するための定電圧回路は,誤差増幅トランジスター,保護用トランジスター,制御
用トランジスターから成り,特に制御用トランジスターには,4個のトランジスターをパラレル接続し
大電流でもhFE(直流電流増幅率)が低下して制御能力が落ちることのないように設計されてい
ました。
電源部そのものは,大容量のコンデンサーを整流後に1本,定電圧後に1本の,±合わせて4本
搭載し,電源トランスは800VAのカットコアーを搭載した強力なもので,A級動作の量感のある
大出力を支えていました。
また,A級動作の発熱に対応した大型放熱器が搭載され,こうした重量級の中身を支える頑丈な
シャーシなど,筐体も含め,まさに本格的重量級アンプでした。
A級動作のアンプでは,常時大電流が流れているため,電源スイッチON/OFF時には,大きな負
担がかかり破損の恐れもあります。そのため,M-110では,リレーにより電流制御をしてパワー
スイッチの保護を行い,プリアンプC-201の電源スイッチでリモートさせた場合にも,プリアンプ側
のパワースイッチや他の機器に及ぼす影響を抑えた信頼性の高い設計となっていました。
以上のように,M-110は,オーディオの世界では新参のブランドであったNIKKOが,正攻法で物
量や技術を投入したパワーアンプで,A級動作で100W/chの大出力を実現しているなど,ある意
味で弩級ともいえる内容を持っていました。大型のパワーアンプながら,しなやかで歪み感の少な
い音は,高い性能を物語るものでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
全段A級AC/DCパワーアンプリファイヤー
M-110
M-110は大型放熱器をささえるがっしりとし
たシャーシ,大出力でスピーカをドライブす
るのに充分な電源部をもつ重量級ハイパワー
アンプです。全段をA級動作とし,より低歪,
より広帯域再生をねらい初段P-CH,N-CH
デュアルコンプリメンタリーFET回路を用い
た完全対称な回路構成です。
●M-110定格●
定格出力 | 100W+100W(8Ω) (両チャンネル駆動20Hz~20kHz THD0.06%) |
全高調波歪率 | 100W出力時 20kHz:0.06%以下 1kHz・20Hz:0.02%以下 50W出力時 10Hz~20kHz:0.02%以下 |
周波数特性 | 0~60kHz(50W出力時) |
入力インピーダンス | 100kΩ |
入力感度 | 1V(定格出力時) |
SN比 | 110dB(IHF,Aネットワーク使用) |
電源電圧 | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 800W |
外形寸法 | 483W×230H×430Dmm |
重量 | 27kg |
使用半導体 | 高耐圧FET8,トランジスター52 ダイオード12,ツエナー・ダイオード8 |
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