Victor M-2020
STEREO POWER AMPLIFIER ¥79,500
1977年に,ビクターが発売したパワーアンプ。セパレートアンプとチューナーを核とする「2020シリーズ」の中のパ
ワーアンプで,「3030シリーズ」「7070シリーズ」に比べて最も手頃な価格のエントリーモデル的存在ながら,しっ
かりした内容をもつ本格的なパワーアンプでした。
M-2020の大きな特徴は,A・B独立電源構成の電源部にありました。1975年に,トリオ(現ケンウッド)が発売し
たKA-7300がL・R独立電源を搭載して高評価を得て以来,各社からL・R独立電源が発売され,「独立電源ブー
ム」が起こりました。そうした中,ビクターは,1976年にA級B級独立電源のプリメインアンプJA-S41を発売し,も
う一つの独立電源方式を提唱しました。このA級B級独立電源は,B級動作を行う電力増幅段(出力段)と,それよ
り前段の電圧増幅を行うA級増幅段の電源をトランスから独立させ,さらにA級段の電源を定電圧化したもので,
前後独立電源ともいうべきものでした。
プリメインアンプではなくワーアンプであるM-2020においても,前段にはプリアンプの延長として電圧増幅段が
あり,A級動作の電圧増幅段とB級動作の電力増幅段という2つの異なる回路が同居しており,電源の安定度が
重要になってきます。B級増幅段の消費電流は信号レベルの変化に応じて何100倍にも変化するため,A級増幅
段の動作に影響し,動的干渉歪が発生する恐れがあります。こうした動的干渉歪の原因となる電圧変動を防ぐため
に,M-2020では,A級増幅段用の電源トランス自体から独立して設け,さらにこれを定電圧電源としていました。
これにより,B級増幅段の電圧変動がA級増幅段に伝わることはなく,動的干渉歪の発生が抑えられていました。
原理的に動的干渉歪がほとんど問題にならないB級増幅段の電源は,定電圧化よりも,大型トランスと大容量コン
デンサー,電源ワイヤーの短縮等でインピーダンスの低減が図られ,特にプラス側とマイナス側のバランスを重視し
て,特性のよく揃ったペア・コンデンサーが使用されていました。また,トランスのうなりを防ぐために,トランスのケー
ス内にはコンパウンドが充填されていました。
回路構成は,基本的には,信号経路内に低域の時定数となるカップリングコンデンサーをもたない完全DCアンプで,
さらに安定度を高めるために,初段回路には,新開発のデュアルFETを搭載した差動増幅回路が搭載されていました。
特性の揃ったFET2個を単一パッケージに封入したこのデュアルFETは,熱平衡がよく,温度変化にともなうDCドリフ
トを非常に低く抑えていました。2段目は,バイポーラトランジスターによる差動増幅回路で,初段とあわせダブル差動
回路が構成されていました。3段目はA級増幅回路で,この後に続く出力段は,3段ダーリントン・エミッタフォロアー・パ
ラレル・プッシュプルOCL回路となっていました。回路全体は要所に温度安定のよいポリプロピレン・コンデンサーを用
いるなど細心の設計で,熱やノイズ,万一の電圧変動にも強い高安定回路として構成されていました。
入力は,信号経路にコンデンサーの入らないダイレクト入力に加え,DC成分を含む超低域がカットされるサブソニック
入力端子も装備されていました。スピーカー出力は,2系統装備され,1,2それぞれ切り換える以外に2組同時の使用
もできるようになっていました。また,前面パネルには,ヘッドホン端子も装備されていました。
レベルメーターは,平均的な音量レベルを表示する針式のパワー・メーターに加えて,ピーク・レベルを表示するLEDに
よる5点ピーク・インジケーターが装備されていました。パワー・メーターは,0〜130Wをカバーする対数圧縮型スケー
ル,ピーク・インジケーターは,130Wまで5段階,10msecというアタックタイムで発光するようになっていました。
以上のように,M-2020は,手頃な価格のエントリーモデルながら,電源部をはじめ,各部にしっかりと物量と技術が
投入されたコストパフォーマンスの高いパワーアンプとなっていました。ビクターらしい音楽を楽しく聴かせる音も当然
受け継がれていました。また,他の2020シリーズの機器等と専用のラックに収めると自社製品でトータルでグレード
の高いシステムステレオに組み上げられるようになっており,これも魅力の1つでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



実感,セパレートの真価。
2020SERIES

M-2020型
●聴感にマッチして振れる大型パワー・メーターLと
 パルス入力にも高速応答するLEDの
 5点ピーク・パワー・インジケーターMとで
 ソースのDレンジも確認可能。
●同時駆動もできる2系統スピーカーセレクターNと
 ヘッドホン端子O。



動的干渉歪−100dB以下,
A・B独立電源の高安定DCパワーアンプ。

◎A級・B級独立2電源方式。
◎初段デュアルFET,
 ダブル差動入力の高安定完全DC。
◎大型パワー・メーターと
 5点ピーク・パワー・インジケーター。

●マルチチャンネル用にも好適な実効 出力75W+75W
 低歪率0.02%(20Hz〜20kHz)。
●高感度3大重点保護回路(US PAT.No.3691427,385412)
●電源投入時の過大電流を防ぐ,インラッシュ・プロテクター・サーキット。
●2系統スピーカー・セレクター。
●ヘッドホン端子付き。





●M-2020型規格●

回路方式 信号回路=初段デュアルFET完全DCパラレルPP・OCL
電源回路=A級・B級独立2電源
実効出力(両チャンネル駆動) 20Hz〜20kHz=75W+75W(8Ω)
高調波歪率
(20Hz〜20kHz,8Ω両CH駆動)
実効出力時=0.02%以下,0.005%(1kHz)以下
50W出力時=0.01%以下
1W出力時=0.01%以下
混変調歪率
(50Hz:7kHz=4:1,8Ω両チャンネル駆動)
実効出力時=0.02%以下 ,0.005%以下(1kHz)
37W出力時=0.02%以下
1W出力時=0.02%以下
出力帯域幅 IHF両CH駆動=5Hz〜50kHz(THD0.05%)
周波数特性(1W出力時) DIRECT入力=DC〜100kHz+0,−1dB
SUBSONIC入力=18Hz〜300kHz+0,−3dB
入力感度/インピーダンス 実効出力時=1V/50kΩ
SN比 IHF-Aネットワーク,入力ショート=110dB以上
出力端子 SPEAKER=SYSTEM-1,2(4〜16Ω)
         SYSTEM-1+2(8〜16Ω)
PHONES=8〜1,000Ω
その他 メーター=0W〜130W
ピークインジケーター=5点(2W,15W,40W,80W,130W)
消費電力 182W(電気用品取締法基準・100V/50〜60Hz)
455W(4Ω実効出力時)
寸法 (W)480×(H)161×(D)402mm
重量 14.2kg
※本ページに掲載したM-2020の写真,仕様表等は1977年7月
 のVictorのカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に
 著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用
 等をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 
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