M-300の写真
LUXMAN  M-300
POWER AMPLIFIER ¥290,000

1980年に,ラックスが発売したステレオパワーアンプ。同社のトランジスタ式セパレートアンプの中
で,中級機といった存在で,C-300とペアとなる当時の同社の主力パワーアンプで,ラックスらしい
優美なデザインの筐体にしっかりとした内容を持ったパワーアンプでした。

M-300は,技術的な面では,コントロールアンプのC-300と同様に「デュオ・ベータplusX」を搭載
していました。これは,ラックスの,アンプに対する適量制御の考えをNFBに取り入れた「デュオ・ベー
タ・サーキット」と電源部に取り入れた「plusX電源」の総称でした。
「デュオ・ベータ・サーキット」は,1979年のL-58Aに初搭載されたもので,2つのフィードバック回路
(NFB回路とDCサーボ回路)を巧みに組み合わせ高音質を実現 しようという技術で,電気用語でフィー
ドバック回路を意味するギリシャ語「β(ベータ)」と音楽用語でイタリア語で二重奏を意味する「Duo」を
組み合わせて名付けられていました。「デュオ・ベータ・サーキット」は,大量のNFB(負帰)をかけて特
性の改善を図ることをやめ,アンプの裸特性を向上させ,そこに適量のNFBをかけ,DCサーボにより
可聴帯域外からの制御でアンプの動作の安定性を確保するという,バランスを考えた技術でした。
「デュオ・ベータ」技術の考え方を電源部に応用したのが「plusX電源」で,定電圧回路の細かな制御を
やめ,余裕ある電源部に,ゆとりある制御をかけていくものでした。これにより,電源電圧の細かなゆら
ぎがなくなり,安定したなめらかな電源供給を行おうというものでした。

M-300の回路構成は,入力段から出力段まで全増幅段をプッシュプル回路で構成され,「デュオベー
タ」回路の前提となる裸特性の向上が図られていました。入力段は,Pch型,Nch型のコンプリメンタリー
FETにより,カスコード・ブートストラップ・差動プッシュプルという構成がとられ,プリドライブ段は,高域特
性のすぐれたトランジスタをカスコード接続,そして,ドライバ段とパワー段は,3段ダーリントン構成がと
られていました。出力素子としては,リニアリティがよく高域特性のすぐれたハイスピード・パワートランジ
スタ,LAPT(Linear Amplified Power Transistor:マルチ・エミッタ・トランジスタ)が用いられ,トリ
プルプッシュプル構成とされていました。

M-300は,AB級のハイパワーアンプですが,ラックスらしくA級動作のパワーアンプとしても使用可能で
前面のツマミで演奏中にも切換ができるようになっていました。AB級動作時には,8Ω負荷時170W/ch
4Ω負荷時270Wという大出力を実現し,A級動作でも8Ω負荷時40W/chという出力が確保されていま
した。A級動作時はもちろん,AB級動作時にも大出力アンプとして,大きな電流が素子に流され,裸特性
のすぐれたアンプが実現され,適量NFBにより静特性,動特性とも高い性能が確保されていました。

M-300の内部

M-300は,大出力AB級アンプとして,また,A級アンプとして大電流を必要とするため,強力な電源部が
搭載されていました。回路的には左右完全独立のツイン・モノーラル構成で,大容量の電源トランスをRch
Lchそれぞれに搭載した2トランス構成で,パワー段とドライブ段は別巻線にし,1次側,2次側ともに巻線
方向を統一するなど,徹底した巻線管理が施されていました。フィルターコンデンサーは,12,000μFの
オーディオ専用タイプをLch,Rchそれぞれ2個ずつ,合計4個搭載していました。以上のような余裕ある
低インピーダンス電源に,「plusX」電源としてゆったりした制御をすることにより,安定した動作と抑圧感
の少ない音質が実現されていました。

M-300の内部構成

パーツの面でも,極性をきちんと揃えたフィルム・コンデンサ,精密連続可変型ディテントボリューム,金メッ
キのピンジャック,大型ネジ式のスピーカー端子,無酸素銅・50芯のシールドケーブル,銅板製パワーブス
など,音質重視のものが採用されていました。
ラックスのアンプらしく,ACパワーケーブルには,機器の極性を統一するためのライン・フェーズ・センサー
が搭載されていました。また,フロントパネルには左右チャンネルの出力のピークを監視できるインジケーター
が搭載されていました。通常は緑色に点灯しているインジケーターがA級動作時は40W,AB級動作時には
170Wを超える出力となったときには赤色に切り替わるクリップインジケーターとなっていました。

以上のように,M-300は,ラックスが着々と積み上げてきた技術をオーソドックスに使い,物量もしっかり投
入して作り上げた,実力派のパワーアンプでした。どうしても同社は,真空管アンプ,A級動作のアンプのイ
メージが強かったため,目立つ存在ではありませんでしたが,美しいウッドキャビネットに包まれた落ち着いた
優雅なデザインはラックスらしさを感じさせ,音の面でも派手さはないものの,しっかりと音楽を聴かせるものを
もっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



脱過剰の思想「デュオ・ベータ plusX」
と非妥協の精神「純A級」。


”適切制御”の思想デュオ・ベータplusX
「適量NFB」と「DCサーボ」を組合わせるデュオ・ベータ回路
と,強化電源による余裕ある制御のplusX。

●アンプ回路のNFBを,音質向上のために
 適切に制御する,デュオ・ベータ回路。
●電源回路にまで”適切制御”の思想を
 導入した,強力な電源デュオ・ベータplusX。


非妥協の精神を一貫した「純A級」動作
アンプの静特性はもちろん,動特性もつきつめていくと,
いっさいの妥協のないA級動作に到達しました。


入力から出力まで全段プッシュプル構成
リニアリティの良い全段プッシュプル回路構成と
ハイスピード素子LAPT.の採用で,優れた裸特性を実現。


余裕ある大容量の強化型電源
大型トランスを採用して,巻線方向まで徹底管理。


●吟味した素材を,独自に厳密に音質管理して使用
●スピーカ保護回路およびアンプ保護回路を搭載。
●ACコンセントの極性を検知できるセンサ機能
●出力のクリップ点で点灯するインジケータ搭載。
●天然ローズウッド,つき板仕上げのキャビネット






●SPECIFICATIONS●

連続実効出力 A級:40W+40W(8Ω,20〜20kHz,両チャンネル同時動作)
AB級:170W+170W(8Ω, 20〜20kHz,両チャンネル同時動作) 
    :270W+270W(4Ω, 20〜20kHz,両チャンネル同時動作)
全高調波歪率 A級:0.005%以下(8Ω,20〜20kHz,−3dB)
AB級:0.005%以下(8Ω,20〜20kHz,−3dB)
混変調歪率 A級:0.005%以下(8Ω,60Hz:7kHz=4:1,−3dB)
AB級:0.005%以下(8Ω,60Hz:7kHz=4:1,−3dB)
周波数特性 10〜100,000Hz(−1dB,A級,AB級とも)
出力帯域幅 A級:10〜100,000Hz(歪率0.015%,−3dB)
AB級:10〜100,000Hz(歪率0.04%,−3dB)
入力感度 A級:0.45V
AB級:1V
入力インピーダンス 50kΩ(A級,AB級とも)
SN比(IHF-A補正) A級:115dB
AB級:120dB
残留雑音(IHF-A補正) 30μV(A級,AB級とも)
ダンピングファクター 120(1kHz,8Ω,A級,AB級とも)
付属装置 サーキット・オペレーション・スイッチ(インジケータ)
ピーク・インジケータ
入力アッテネータ
ヘッドホン・ジャック
スピーカOFFスイッチ(インジケータ)
ライン・フェーズ・センサ
保護回路 DCドリフト検出スピーカー保護回路
過電流検出アンプ保護回路
電源電圧 AC100V(50Hz/60Hz)
消費電力 A級:420W(電気用品取締法の規定による)
AB級:430W(電気用品取締法の規定による)
外形寸法 478W×484D×214Hmm
重量 30kg
※本ページに掲載したM-300の写真,仕様表等は1981年1月のLUXMAN
 のカタログより抜粋したもので,ラックス株式会社に著作権があります。した
 がって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられてい
 ますのでご注意ください。

  
 
 
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