M-507の写真
ONKYO M-507
STEREO POWER AMPLIFIER ¥270,000

1978年に,オンキョーが発売したパワーアンプ。1969年よりプリメインアンプの分野で「Integra(インテグラ)シ
リーズ」を展開していたオンキョーが,1970年代後半に入り,本格的なセパレートアンプの分野でも,「インテグラ
シリーズ」としてすぐれた製品を展開していきました。そのパワーアンプの中でも最上級機で大型のパワーアンプと
して発売されたのがM-507でした。

M-507の大きな特徴は,「スーパーサーボ方式」の搭載にありました。当時,信号系のカップリングコンデンサー
を取り除き直結化するDCアンプが主流となっていましたが,DCドリフトによるDC洩れ,低域の過渡特性の問題な
どがありました。オンキョーの独自開発のサーボオペレーショナルアンプを搭載することで,こうした問題の解決を
図ったのが「スーパーサーボ方式」でした。
DCアンプは,アンプの低域方向への広帯域化を図っていくものでしたが,電源電圧の変動,トランジスター等の温
度変化,スピーカーの逆起電力などにより,アンプの動作が不安定になり,音質への悪影響の可能性があることが
問題でした。不安定の要因になる超低域(2Hz以下程度)をカットする必要がありますが,DCアンプ以前では,出
力回路にコンデンサーを入れたり,出力トランスを用いるなどの手法がとられていました。「スーパーサーボ方式」
では,NF回路とは別に低域アンプと位相反転回路を組み合わせてサーボループが構成されていました。カットオフ
周波数以下でサーボによるフィードバックで出力インピーダンスが下がり,出力回路をシャントしてしまうような働き
をするもので,アンプ内部で発生する有害な超低域成分はもちろん,スピーカーからアンプへ流れ込む逆起電力も
抑え込み,アンプの動作の安定化を実現していました。コンデンサーによるS/N,歪率等の問題もなく,深いNFを
かけることによる不安定さもなく,低域での過渡応答特性も向上していました。さらに,DCドリフトによる直流セン
ター電圧のリークも一挙に従来の1/20以下に抑えられていました。

出力段には,スイッチング歪みを抑える「リニアスイッチング方式」が採用されていました。これは当時スレッショル
ドから始まり,国産アンプの中で大流行した疑似A級アンプの一種ですが,特徴は通常の可変バイアスではないと
ころにありました。通常,2個のトランジスターの動作をつなぎ合わせた形のB級動作のアンプは+側と−側のトラ
ンジスターの動作特性のつなぎ目でクロスオーバー歪みが生じたり,切換時のスイッチングノイズが問題になった
りします。そのため,このような問題のない(1個のトランジスターで+−両方の動作をする)A級アンプになぞらえ
たB級動作のアンプが疑似A級アンプとしてたくさん出てきました。「スーパーA」「リニアA」「ノンスイッチング」など
各社から出た疑似A級アンプの多くは,出力トランジスターのバイアスを可変させてつなぎ目を少しずらして見かけ
上つなぎ目の特性を直線にしたものがほとんどでした。オンキョーの「リニアスイッチング方式」は,スイッチング速
度の速いハイfTトランジスターを使うことでスイッチング歪みを減少させ,クロスオーバー歪みは,バイアスを可変
するのではなく,特殊な補正回路でバイアスを補正して対処しようとする方式でした。従って基本的にはB級動作で
すが,他社の疑似A級アンプ同様,歪みが大きく抑えられていました。

電源部は,大容量のトロイダルコアトランスがL・R独立で2基搭載され,電源コンデンサーもオーディオ用として新
設計された大容量のものが搭載されていました。特性的には,歪率:10kHzでの第3次高調波レベル−150dB
等価直列抵抗(E・S・R):0.01Ω以下,損失tanδ:0.25以下とすぐれたものとなっていました。そして,この電
源部から各ブロックへの給電ライン,アースライン等は,低インピーダンス化を図るため,銅板製のブスラインを使
用していました。さらに,AC100Vの電源コードには,十分な太さのキャプタイヤタイプのものが搭載されていまし
た。
また,シールドの働きをする,信号系が接する部分のシャーシには非磁性体のアルミシャーシが使用され,回路か
ら出るフラックスを効果的に遮断する構造となっていました。
スピーカー出力回路は,余分な抵抗分をもたないように,徹底した定抵抗化が図られ,スピーカー回路には,十分
余裕のあるケーブルが用いられるとともに,切替部分には,計4個の銀接点リレーが用いられていました。スピー
カー端子も,大型のネジ止め方式のものが搭載されて,入力側のピンジャックも金メッキ仕様となっていました。

M-507の内部

デザイン的には,ブラックのフロントパネルに大型のアナログ式レベルメーターが装備されたオーソドックスながら
精悍なものでこの後の同社のパワーアンプに継承されていくものとなりました。この大型のレベルメーターは,精
密なピークメーターで,大型の駆動部を持ち,すぐれた高速応答性をもつもので,モノリシックIC化された対数圧
縮回路,特殊抵抗素子によりメーターの温度補償が行われ,経時的な表示誤差を防いだ高精度なものとなって
いました。このレベルメーターには×1/×0.1のレンジ切替が装備されていました。
その他,機能的にはスピーカー出力が2系統,15Hzのサブソニックフィルター,L・R独立のレベルコントロール
等が装備されていました。

以上のように,M-507は,当時のオンキョーのアンプの中でも最上級機で,それまでのインテグラシリーズより
も大きくグレードを上げた大型のパワーアンプでした。それだけに,各部に持ち前の技術,物量がしっかり投入
されていました。力強く鮮明な音は,オンキョーのその後のアンプの分野での躍進を予感させるものがあったと
思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



まさに銘器の名にふさわしい,
重厚なパワーアンプです。

一切の妥協を許さない
きびしい”音創り”の姿勢が,
繊細に音を演出する
数々のノウハウを生み出しました。

スーパーサーボとリニアスイッチング,
全く新しい発想で構成された,
新しい”音創り”です。


◎スーパーサーボ方式
◎リニアスイッチング方式
◎ハイスルーレートアンプ
◎左右完全独立の大型電源と
 ローインピーダンス直結給電方式
◎アルミシャーシによるダイナミックシールド
◎大型高速ピークメーター
◎低抵抗スピーカ出力回路




●主な仕様●


■アンプ部■
(表示がない場合8Ω負荷両ch動作)

実効出力 150W+150W(8Ω,20Hz〜20kHz)
210W+210W(4Ω,20Hz〜20kHz)
ダイナミックパワー 200W+200W(8Ω,1kHz)
全高調波歪率(T.H.D) 0.007%以下(実効出力時,20Hz〜20kHz)
0.006%以下(75W出力時,20Hz〜20kHz)
0.006%以下(5W出力時,20Hz〜20kHz)
混変調歪率(SMPTE法) 0.01%以下(70Hz:7kHz=4:1)
パワーバンドウィズス 5Hz〜150kHz(IHF−3dB THD0.2%)
利得 27.5dB
周波数特性 SERVO OPERATION NORM 0.7Hz〜100kHz(+0,−1.5dB)
SERVO OPERATION OFF   DC〜100kHz(+0,−1.5dB)
サブソニックフィルター特性
15Hz,−6dB/oct
S/N 110dB(IHF-Aネットワーク入力シャント)
入出力極性
同相
入力感度 1.5V
入力インピーダンス 100kΩ
スピーカー負荷インピーダンス 4〜16Ω
ダンピングファクター 200(8Ω,1kHz)
出力端子 SPEAKER SYSTEM-1
SPEAKER SYSTEM-2
トランジェントキラー動作時間 5sec/100msec(POWER ON/OFF) 



■メータ部■

レンジ切換 ×1(0dB=150W)/×0.1(0dB=15W)
指示範囲 −40dB〜+4dB
指示精度 0±0.5dB,−10±1dB,−20±1dB
応答速度 100μsec(−∞→0dB)
復帰速度 1sec(0dB→−20dB)



■その他■

使用半導体 2FET,72Tr,8IC,50Di
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 280W(電気用品取締法)
AC出力 600W MAX(POWERスイッチ非連動1)
寸法 450W×191H×420Dmm
重量 28.5kg

※本ページに掲載したM-507の写真,仕様表等は1978年のONKYO
 のカタログより抜粋したもので,オンキョー株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じ
 られていますのでご注意ください。

  
 
 
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