Accuphase M-60
POWER AMPLFIER ¥280,000
1975年に,ケンソニック(現アキュフェーズ)が発売したパワーアンプ。アキュフェーズ初のモノラル
パワーアンプで,同社のパワーアンプとしても
P-300(1972年),P-250(1974年)に次いで発売
された3番目のパワーアンプでした。そして,当時の国産,あるいは海外を見ても数少ない大出力型
のパワーアンプでした。
M-60は,ケンソニック社(アキュフェーズ)の設立当初からのアンプ回路の構成「対称型プッシュプ
ル回路」によって全増幅段が構成されていることが大きな特徴でした。1970年代頃よりTIM(Tran
-sient Intermodulation Distortion=過渡相互変調)などの過渡的な,動的な歪みが注目され
るようになり,アンプの実動作時の特性を良くしようとする動きが出てきました。そうした中,歪みを低
減するNFB(負帰還)の弊害が問題視されるようになってきていました。そのため,M-60では,能動
素子をベースに,全増幅段を対称型プッシュプル回路で構成することにより,裸特性を向上させ,少
量のNFBですませることにより,すぐれた立ち上がり特性,直線性,安定性を実現し,TIMの発生を
抑えるとともに,低歪み(フルパワー時,実測値0.0022%・1kHz)と300W(8Ω)の安定した大出
力を実現していました。
パーツの面では,トランジスタはすべてキヤノンタイプが使用され,コンデンサーも使用個所によって
耐圧の違い,容量の違いの音への影響を検討して選択使用されていました。また,NFBループ内の
コンデンサーはすべて排除され,すべてのユニットアンプはDC構成とされていました。
電源部は,大出力を支える強力なもので,大型の電源トランスと22,000μFのフィルター・コンデン
サー×2によって構成され,高電圧を印加することで,152ジュールという大エネルギーが確保され
4Ω負荷時には450Wの連続出力をも支えるものとなっていました。
強力な電源部を中央に配置した筐体内部は,ステレオアンプを思わせるもので,その大出力と動作
の余裕を物語るとともに,整然とした内部はアキュフェーズらしいものでもありました。
機能的には,シンプルでオーソドックスなパワーアンプでしたが,アキュフェーズらしく出力メーターが
パネル面に設けられていました。この出力メーターは,3mW〜300Wを直読できる対数圧縮型で
ピーク指示と音量指示をスイッチで切り替えられるようになっていました。また,スピーカーの保護の
ための超低域の不要なノイズをカットする17Hz,18dB/octのサブソニックフィルターが装備されて
いました。さらに,スピーカーの能率やマルチアンプシステムに対応するためのアッテネーターが装
備されていました。このアッテネーターは,−20dBまで1dBステップ,それ以下が−23dB,−26dB
−30dB,−∞という,固定抵抗を切り替える25接点ロータリースイッチの高精度なものが搭載され
ていました。
入力端子は,RCAピンだけでなく,キヤノンタイプ入力コネクターも装備されていました。また,M-60
は,ハイパワーアンプながら,大型のヒートシンク等による自然対流での放熱となっていましたが,条
件の悪い設置状況に対応して,別売の放熱ファン(O-81,¥8,000)の取り付けもできるようになっ
ていました。
以上のように,M-60は,アキュフェーズブランド初の大出力パワーアンプとして,民生用ながら非常
にすっきりとした機能的な設計がなされ,外観もその機能美が表れたものでした。音の方も,豊かさと
力強さを持ったものでした。また,大出力アンプながら,当時の多くの大出力機にありがちなローレベ
ル時の荒さもなく,完成度の高いハイパワーアンプでした。