Victor M-7050
STEREO POWER AMPLIFIER ¥250,000
1979年に,ビクターが発売したパワーアンプ。ビクターが実験的高級機につける「ラボラトリーシリーズ」の製品で
ビクターの「スーパーA」方式搭載のアンプとして第1号機でした。そして,可変バイアスによる,いわゆるノンスイッ
チングアンプの国産第1号でもありました。

M-7050の最大の特徴である「スーパーA」は,ノンスイッチングとか可変バイアス方式とか高効率A級等と呼ばれ
る回路方式で,1975年にアメリカのスレッショルド社が発売したパワーアンプ800Aに採用されていた「ダイナミッ
クバイアス・クラスA」という回路がオリジナルとなるものでした。上述のように,M-7050はこうした方式を採用した
アンプの国産第1号の製品でした。
プッシュプル方式のアンプでは,交流波形のプラス側とマイナス側を独立して別の出力トランジスターで増幅し,波形
を合成するようになっています。その際,常にプラス側からマイナス側という風に切り替えの際にパワートランジスター
のON/OFFのスイッチングが行われているため,合わせ目で耳に付きやすいパルス性の歪みが発生していました。
スレッショルドの方式は,バイアスを少し可変とすることでコントロールし,常に両波形のトランジスターがONになるよ
うにしてスイッチングをなくしたものでした。「スーパーA」はほぼこの方式と同様の方式と考えられ,高速動作の「スー
パーAバイアスサーキット」によるバイアス電流のコントロールと高速なスイッチング特性を持つパワートランジスター
の採用でB級アンプの高効率での高出力と,A級アンプ並の歪み特性を実現しようとしたものでした。

「スーパーAバイアスサーキット」は,従来のAクラス(純A級)パワー・ステージよりもさらにすぐれた直線性・低歪率を
実現し,負荷インピーダンスに逆比例した理論通りの出力特性を得ることも容易で,スピーカーのインピーダンス変
動に対しても強いという特性を実現していました。
大電流を扱わないドライバー・ステージにおいても,「スーパーA」方式の思想が採用され,半導体の使用法を再検討
することで,半導体素子の非直線性をカバーする回路構成を行い,従来のドライバーステージと比較して1/10以下
という低歪率化を実現していました。
こうした「スーパーA」方式により,M-7050はオーバーオールですぐれた性能を実現していました。150W+150W
(8Ω,20Hz~20kHz)の大出力を,全高調波歪率0.003%という低歪率,スイッチング歪みゼロ,TIM歪みゼロ,
±300V/μsecの高スルーレイトなど,すぐれた特性を実現していました。



大出力を支える電源部には強力なものが搭載されていました。電源トランスは新開発の平形のもので,重量15kg
容量500VAというもので,内部のかなりの部分を占めていました。電解コンデンサーは,80V/15000μF,ポリプ
ロピレン・ケース入りで,サイズ60φ×100㎜のものが2本と,これにΛコンデンサーが1個ずつ並列接続された構
成で,強力な電源部を構成していました。



基板は,ガラスエポキシ基板を採用し,シャーシベースは,磁性体による歪みを抑えるためにアルミ材で構成してい
ました。そして,信号回路のパーツからも磁性体を排除して磁気歪みを抑えていました。
入力端子は,ダイレクト(DC)とサブソニック(AC)の2系統が装備され,金メッキ端子で,背面にレベルコントロー
ルも装備されていました。スピーカー出力端子は2系統装備され,1/2を前面のスイッチで切り換えられるように
なっていましたが,スイッチの接点が入る方式ではなく,出力しない方のスピーカー出力のリレーをOFFにする方式
で,出力切換で接点が増えないというものでした。その他,ヘッドホン端子も装備されていました。
フロントパネルには,保護回路の動作を色調で表示する大型のパワーメーターが装備され,その他には電源スイッ
チとスピーカー1/2の切換スイッチがあるのみのオーソドックスなデザインとなっていました。

以上のように,M-7050は,ビクターが「スーパーA」方式の技術を確立した,画期的な1台でした。梨地シルバーの
筐体に,黒地の大型メーターという比較的地味なデザインで,パワーアンプとしてはプリメインアンプ程度の大きさで
したが,28.7kgもの重量級パワーアンプでした。重量級の強力な電源部が支える音は,伸び伸びとしたクリアな音
で,低域と高域に少しアクセントがある帯域バランス故か,後継機のM-L10の上品な音とは異なり,どちらかという
と明るく楽しく音楽を聴かせる音でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



技術の粋,ラボラトリーシリーズの
スーパーAパワーアンプです。

◎スイッチング歪ゼロ,
 TIM歪もゼロ(LPFfc=100kHz)の
 全段Aクラス動作150W+150W
 スーパーA/DCパワーアンプ。
◎大容量広帯域ローインピーダンス電源。
◎アルミ・シャーシ・ベースと非磁性パーツ。

●ダイレクト・アウトと同等のリーインピーダンスを
 保つリレー式スピーカー・セレクター。
●色調切換式イルミネート・スケール大型パワー・
 メーターが保護回路の動作を明快に表示。
●高信頼グラス・エポキシ基板を採用。
●入力端子はダイレクト(DC)とサブソニック(AC)
 の2系統を装備(レベル・コントロール付き)。




●M-7050型規格●

回路方式 スーパーA・完全DCデュアルFETカスコード接続
ICLパワーアンプ
実効出力 150W+150W(20Hz~20kHz,8Ω,THD0.003%)
全高調波歪率 0.003%(実効出力時,20Hz~20kHz,8Ω)
0.0004%(実効出力時,1kHz,8Ω)
0.03%(実効出力時,20Hz~100kHz,8Ω)
混変調歪率 0.003%(60Hz:7kHz=4:1,実効出力時,8Ω)
スイッチング歪
TIM歪 0(LPF fc=100kHz)
出力帯域幅 5Hz~100kHz(IHF,8Ω,両CH動作,THD0.02%)
周波数特性 DC~300kHz+0,-3dB(DIRECT入力,8Ω)
ダンピングファクター 200(1kHz,8Ω)
入力感度/入力インピーダンス 1V(入力VR最大)/47kΩ
SN比 120dB以上(IHF-A,ショート・サーキット)
サブソニック・フィルター 18Hz(-6dB/oct)
電源電圧 100V 50/60Hz
定格消費電力 330W(電気用品取締法基準)
電源コンセント 1個(UNSWITCED)
寸法 (W)420×(H)160×(D)415mm
重量 28.7kg
※本ページに掲載したM-7050の写真,仕様表等は1980年
 10月のVictorのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド
 株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を
 無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので
 ご注意ください。

 
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