EXCLUSIVE M4
STEREO POWER AMPLIFIER ¥350,000
1974年に,パイオニアがエクスクルーシブブランドで発売したパワーアンプ。パイオニアは,前年の1973年
高級機専門のブランドとしてエクスクルーシブを立ち上げ,セパレートアンプのプリアンプC3とパワーアンプM3
を発売しました。それに次いで発売されたパワーアンプがM4でした。
M4の最大の特徴は,純A級動作のパワーアンプであることでした。M3では,AB級動作により大出力を求め
た設計でしたが,M4では,微妙な音の違いを求めたA級動作のプッシュプル回路が採用されていました。A級
動作のプッシュプル回路は,トランジスターのベース蓄積効果によるノッチング歪や過渡的なクロスオーバー歪
が出ず,NFBをかけない時の歪も本質的に少ないので,小出力時でも音が荒れることがなく,ソースの微妙な
ニュアンスも忠実に伝えることができるといわれています。また,パワーの大小にかかわらず電源電圧の変動
が少ないため,低域安定度,低域の過渡特性がすぐれており,無信号時でも大電流を流しているので放熱器
の温度は一定に保たれ,性能の熱的安定性もすぐれています。このように数々の長所を持つA級動作アンプ
を,回路構成,使用部品など厳しく吟味を重ねて設計していました。
全体の回路構成は,入力回路に差動アンプでプッシュプルのプリドライバー段を駆動し,2段ダーリントンパワー
トランジスター4個パラレル接続(片チャンネルあたり8個)のプッシュプル純コンプリメンタリー回路の最終段
に導かれるようになっていました。これにより,パワーは50W+50W(20~20,000Hz,8Ω,両ch駆動)
を最低保証し,A級動作のアンプとしては当時比類ないほどの大出力を実現していました。
A級50Wを支える電源部は,漏洩磁束が少なくレギュレーションにすぐれた大型のカットコアトランスと33,000
μF×2の大容量の電源コンデンサーを採用していました。
パーツの面では,強度と信頼性の高いガラスエポキシ基板を採用し,トランジスターから抵抗にいたるまで,精度
が高く,信頼性の高いパーツを厳選して使用していました。
A級アンプであるM4は,大きな発熱量を伴うため,放熱効果を考え,シャーシ内部が冷却用ダクトを形成するよ
うな構成にし,大型の放熱器を設け,筐体下部に装着された2個のファンを用いて強制空冷する方式がとられて
いました。ファンの回転音を抑えるため,低電圧で低速動作をさせるようになっていました。
保護回路は,従来のリレーと電子回路を組み合わせた出力点直流電位検出回路に加えて,ポジスター使用の
熱検出部およびサイリスターによる保護回路が追加されていました。放熱器の温度が異常に上昇すると,ポジス
ターが熱を検知し,サイリスターが働いてパワーアンプに内蔵している電流制限スイッチを働かせ,放熱器の温
度を下げると同時にリレーを駆動してスピーカーを切り離すようになっていました。二重の保護回路によって,万
一放熱用ファンが停止した場合の安全性にも配慮していました。
フロントパネル面中央には,本格的な高精度ピーク指示パワーメーターが搭載されていました。対数圧縮回路
を採用し,目盛りは0.005W~100W(-40dB~+3dB)まで感度切換なしで直読できるようになっていまし
た。メーターには,立ち上がりが速く,ダンピングのよい大型外磁型メーターを採用して,小音量時にも大信号
時にも正確な表示が可能となっていました。
フロントパネルはメーターが中央にあるだけでシンプルに見えますが,下部のサブパネル内に,電源スイッチ,
入力切換,入力感度切換,サブソニックフィルターが搭載されていました。入力は,2系統あり,プリアンプの2
台使用等が可能となっていました。入力感度はプリアンプの出力に応じて1V/2Vの選択ができるようになって
いました。サブソニックフィルターは,8Hzで6dB/octのCR型が搭載されていました。
以上のように,M4は,エクスクルーシブブランドのパワーアンプ第2弾として,M3をベースに純A級動作に挑戦
し,完成させたパワーアンプでした。手作りの高級アンプにふさわしく,1台ごとに測定した実測値がそのまま添
付され,品質管理を徹底した信頼性,高性能が確保されていました。パイオニア本社には専門のテクニカルセ
ンターが設けられ,1台ごとに高度なチェック,保証が行われる体制がとられていました。M4の聴かせる品位の
高い暖かい音は,通常の環境で聴く常識的な音量で,弱音まで荒々しさのないM4ならではの魅力をもつもの
でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
すぐれた物理特性と
オーディオの心の融合こそ
真の音楽性を
伝えることが可能と考えます。
《オーディオの心》を伝える手造りの芸術品
◎音質に微妙な違いを求めたA級増幅
◎品位の高い音質を余裕をもって再生できる
ハイパワー
◎本格的なピーク指示パワーレベルメーター
◎パーツはすべて信頼性の高い特別仕様のもの
を使用
◎安全性の高い保護回路に加え,強制空冷に
よる放熱処理
◎2系統の入力端子,入力感度切換えスイッチ,
サブソニックフィルター付
◎詳細な実測生データーを一台ごとに添付し,
性能を完全保証
◎アフターケアーの体制にも万全を期しています
●EXCLUSIVE M4 主要規格●
使用半導体 | IC:6,トランジスタ:59,サイリスター:1,ダイオード他:60 |
回路方式 | 差動1段PPドライブ 3段ダーリントンクオドルプルPP 純コンプリメンタリーOCL方式 (A級動作) |
実効出力 | 50W+50W(20Hz~20kHz,8Ω,B.C.D) |
高調波歪率 | 0.1%以下(実効出力時) 0.03%以下(1W出力時) |
混変調歪率 | 0.1%以下(実効出力時) 0.03%以下(1W出力時) |
出力帯域幅 | 5Hz~70kHz(IHF,両ch駆動) |
周波数特性 | 3Hz~60kHz +0,-1dB |
ダンピングファクター | 35以上(8Ω) |
入力端子 | INPUT 1,2 |
入力感度 | 1V,2V |
サブソニックフィルター | 8Hz(6dB/oct) |
出力端子 | SPEAKER(8Ω) |
スピーカーセレクター | A.B.C |
ダンピングファクター | 30以上(8Ω) |
ピークメーター指示範囲 | 0.005W~100W(-40dB~+3dB) |
消費電力 | 320W |
外形寸法 | 468W×206H×385Dmm |
重量 | 27.3kg |
※本ページに掲載したM4の写真,仕様表等は1976年1月の
EXCLUSIVEのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式
会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で
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