EXCLUSIVE M8
STEREO POWER AMPLIFIER ¥850,000
1995年に,パイオニアがエクスクルーシブブランドで発売したステレオパワーアンプ。パイオニアは1973
年に高級機専門のブランド・エクスクルーシブ(EXCLUSIVE=限定された,唯一のという意味)を立ち上げ
パワーアンプとしては,1973年にM3,1974年にM4,1982年にM5を発売し,高い評価を得ていまし
た。そして1992年に,モノラルパワーアンプM7を発売しました。その弟機ともいえる,ステレオ機として発
売されたのがM8でした。

M8は,上述のように,モノラルパワーアンプM7のステレオ化モデルともいえるパワーアンプで,クロスオー
バー歪やスイッチング歪が原理的に発生しないA級動作で,60W+60W(8Ω)の出力を実現していました。
A級動作により,小出力時から大出力時まで動作電流の変化が少なく,熱的安定度が高いことから,増幅
するトランジスタがきわめて安定した動作を可能にしていました。また,大容量の大型トロイダルトランスを2
個搭載した強力な電源部に支えられ,高負荷から低負荷までリニアに対応でき,240W+240W(2Ω)の
低負荷ドライブも可能としていました。

低負荷時のドライブ能力を高め,相互干渉による歪の発生を抑えるために,電圧と電流の増幅回路を明確
に分離した回路構成が採用されていました。電圧増幅段は,アルミニウム基板を用いたハイブリッドICを採
用し,高精度な電圧増幅をNFBを用いて行っていました。また,電力増幅段は,パワーリニアリティを確保す
るため,4段ダーリントン,パワートランジスタは3パラレルプッシュプル構成として,無帰還アンプで,歪の発
生を抑えた電流増幅を実現していました。



電圧増幅段と電力増幅段は,完全に分離され,相互の干渉による影響を排除し,スピーカーからの逆起電力
が生じてパワーアンプに戻っても,フィードバックに起因するノイズの影響が排除されるように,出力から入力
へのフィードバックループをもたない回路構成となっていました。

電源部は,リンケージフラックスが低くレギュレーションが安定した大容量のトロイダルトランスが採用されてい
ました。極太巻線を採用して,レギュレーションを向上させ,温度上昇を抑えるなど,温度バランスを安定化さ
せていました。トランスはプラス電源供給とマイナス電源供給それぞれ専用として2個搭載され,電源インピー
ダンスの低減も得ていました。さらに,ダブルブリッジ整流方式の採用とあいまって,よりパワフルでハイレス
ポンスな特性を実現していました。



電源コードには,6芯の無酸素銅高品質極太電源コードを採用していました。絶縁も2重にし,しかも被覆素
材は吟味したものを採用し,プラグに極性を表示するなど,音質を重視したものとしていました。



外部からの振動や内部の熱によるシャーシの変形が音質に与える影響を排除するために,シャーシには変
形しにくい強度の高い構造が採用されていました。また,肉厚のアルミニウム素材を贅沢に使用することに
より,強度の確保に加え,歪の原因となる磁気の影響もカットしていました。また,振動を抑えるために,電
源トランスにフローティングマウントを採用して,防振・制振対策を徹底していました。

シャーシ内部の温度分布や磁気の影響,回路を支えるシャーシの機械強度などさまざまな歪の要因を考慮
し,こうした機械的特性や電気的特性の差もバランスをとり均一化し,正確な増幅を行うため,信号の入出
力部,アンプ部を分離した徹底した左右対称のデュアルモノ・コンストラクションを採用していました。
左右対称のシンメトリカルコンストラクションの設計を徹底するために,放熱効果の高い大型ヒートシンクを
適切なポジションにレイアウトし,L側とR側の温度環境の均一化を実現していました。また,回路間の干渉
による音質への影響を排除するために,各回路セクションをシールドできめ細かく分割し,各回路の能力を
引き出すとともに,配線の長さまで含めた,部品構成の細部に至るまでキメ細かな対応をし,シャーシ内環
境や機械強度の均一化を実現していました。



M8のリアパネルのスピーカー端子は,バイワイヤリングにも対応したスピーカーターミナルで,極太のケー
ブルも容易に接続できるように万力圧着型の大型ターミナルで,接続部には金メッキを施していました。
そして,多彩な入力切替が大きな特徴となっていました。通常のステレオアンプ接続をはじめ,バイワイヤリ
ング対応,バイアンプドライブ対応,またBTL接続でモノラルアンプ対応が可能となっていました。



M8は,クロスオーバーを用いた通常のマルチアンプ(バイアンプ)接続も可能ですが,それとは別に専用の
入力端子(RCAタイプ)により左右のチャンネルを同一動作させる新方式のバイアンプ入力も装備していま
した。従来のマルチアンプ方式では,信号を分離するクロスオーバーとスピーカーのマッチングが大変な課
題となりますが,新方式では,スピーカー付属のネットワークを使用することで,クロスオーバーを排除し,
マッチングの問題を解消し,スピーカー側に信号分割を任せることにより,適切な特性が容易に得やすく
なっていました。
また,2chのステレオパワーアンプをモノラルアンプとしても使用可能で,平衡型入力端子(キャノンタイプ)
に左右のチャンネルをBTL接続し,480W(8Ω)のハイパワーモノラルアンプとして使用できるようになっ
ていました。

以上のように,M8は,超高級機のモノラルパワーアンプM7の音質を受け継ぎつつ,ステレオ化モデルと
いうだけでなく,多様な使い方も可能とした設計は,大手のオーディオブランドであるパイオニアらしいもの
でした。バランスがよく,変な強調感がなくナチュラルで自然な音は,音楽を聴くアンプとして使いやすいも
のでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ひたすら透明に。そして力強く。
限りない音楽性をめざした
エクスクルーシブM8。

繊細な音に隠されたニュアンスまでも明確に再現する。
A級動作と2Ωまでの低負荷にリニアに対応したドライブ力。

◎電圧と電流の増幅段を明確に分離し,
 高精度な増幅を実現。
◎フィードバックループを排し,
 外来ノイズの流入を一掃。
◎すぐれたパワークオリティを支える
 大容量トロイダルトランスを搭載。
◎出力段からのリレーを排除した保護回路。
◎左右対称デュアルモノラル構造&
 シャーシ内温度を均一化するヒートシンク。
◎すべての能力を引き出すための
 高剛性無共振化シャーシとシールド。
◎極太の6芯コードの採用など,
 パーツのすみずみまで部品を厳選。
◎バイワイヤリングスピーカーにも対応。
 大型スピーカーターミナル。
◎幅広い目的に応じたシステムが組める
 3タイプの入力切替が可能。
◎新提案の独自の接続を追加にした
 2タイプのバイアンプ入力を搭載。
◎モノラル(BTL接続)アンプとして
 4Ω/480Wの大出力も可能。




●Specification●


定格出力 ステレオまたはBi-Amp使用
 60W+60W(8Ω,20Hz~20kHz))
 120W+120W(4Ω,20Hz~20kHz)
 240W+240W(2Ω,1kHz)
Monaural(BTL)使用
 240W(8Ω,20Hz~20kHz)
 480W(4Ω,1kHz)
入力端子
(感度,インピーダンス)
ch1,ch2:1.0V/10kΩ
Bi-Amp:1.0V/10kΩ
Monaural(BTL):2.0V/2.2kΩ(3番HOT)
出力端子 SPEAKER
 ch1,ch2:2~8Ω
 Monaural(BTL):4~16Ω
周波数特性 7Hz~100kHz+0,-1dB
ダンピングファクター  100(8Ω) 
SN比
(Aネットワーク,ショートサーキット) 
110dB 
電源電圧  AC100V,50/60Hz 
消費電力  500W 
外形寸法 460W×220H×443Dmm
重量 46.0kg
※本ページに掲載したM8の写真,仕様表等は1996年7月のEXCLUSIVE
 のカタログ
より抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。した
 がって,これらの写真等
を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていま
 すのでご注意ください。      

  
  
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